弱体化
光が収まり視力が再び夜の暗闇に慣れると、口を半開きにして間抜け面をさらす一号と鳩が居た。…恐らくはあの白い鳩が氷鳥なのだろう。
やはり同意無く、契約魔術と言うのは結べないものなのだろうか?僕にする魔術が同意前提ならそれは大変良心的だが…なにせ人間が作る魔術だ、力で捩じ伏せる事も出来そうだ。
今回は魔力単体ではたしかに一号は雑魚であるが、一応立場は私の眷属的な何かだろう。潜在的な魔力も含めて考えるのならば力技が利かないのも納得できる。
中途半端な形ではあるとはいえ、氷鳥が契約できたのは素晴らしい結果だと思った方がいいのか。
「…な、何が起こった。」
小さくなったからか、声も低いイケメンボイスから声変わり前の少年ボイスになっている。それでも確かに良い声ではあるが。エロさが足りん。
「中途半端に契約が結ばれたようだな。おめでとう、これで命令される事は無いぞ。」
「こ……この姿は一体…。」
「力技だったからか一号と二号の繋がりが通常よりも深くなった結果だろう?」
「…一号?二号?」
「……ずいぶんちまっこくなったなぁ。」
一号はこちらの話を聞いていないのだがいいのだろうか?小さいものが好きなのか?触りたさそうに手ををわきわきと動かすのは目に毒だから止めて欲しい。
「つまり、一号の強さが=で二号の強さになっているのだろう?基準が一号であるのは元が契約呪文であり、主と呼ばれる立場だからだろうな。」
何が判断基準になっているのかは知らないが。
後は、一号が二号に魔力を渡さなければいけないが足りていない。や、下剋上されないように魔術にストッパーが仕組まれていた。なんていう可能性もあるが、言う必要は無いだろう。
「……人化も出来ない…。魔力も極端に無くなっている……これではただの鳩ではないかっ!」
「いや、普通の鳩は喋んないだろ。」
「黙れ人間っ!貴様が雑魚であるのが悪いのだっ!!」
いや、元の原因は安易に契約を結んだ二号にあると私は思う。
鳩の姿でも飛ぶことに支障は無いのか、一号の頭に飛び移ると米神にその鋭い嘴を連続して叩きこんでいく。一号、軽く血を流して痛がりながらなぜそんなに嬉しそうなんだ。
「まぁ待て、二号。八つ当たりをした所でその魔力が元に戻るわけではあるまい?」
「そもそも、貴様が妙な事を言い始めるのが悪いのだっ!借りの原因は貴様だろうっ!!」
「私もこのような事態になるのは、予測していなかったからな……だが、解決方法が無いわけでは無い。」
「なんだとっ!!」
翼を広げて驚愕を表す二号。芸が細かいな。
「強さが足りないのならば、鍛えれば問題ないだろう?一号が強くなれば自然と二号の魔力も戻るはずだ。」
「…なるほど……だが、鍛えた所で雑魚は雑魚。人間の限界点はあるだろう?そうだ、いっそ此処で殺してしまえば契約も解除になるのでは?」
「いや、成長限界はかなり高いはずだ。なにせ力技とは言え二号と契約出来たのだからな…、少なくとも元の氷鳥に戻れる程度の成長は見込めるはずだ。
殺すのは止めておいた方がいい、魔力に影響するほど深く繋がっているのだ。片方が死んだとき何が起こるか分からないからな…下手をすると永遠に失われた魔力が戻らないかもしれない。」
何より、私が作った眷属だ。人間の成長スピードと同じにしてもらっては困る。
「…二十年でたりるか……?」
「人間の寿命自体はもっと先だろう、それまで守れば良い。」
「そうか………しかたあるまい。この姿が元に戻るまでの我慢だ。だが、この姿でどう守れば……。」
確かに鳩では盾にもなれないだろう。かといって安全圏での成長スピードでは何時になっても元には戻れないだろうからな。
「そうだな……日に十分だけなら元に戻れるかもしれん…。今此処で結ばれた縁を利用して私の魔力を一時的に一号に貸せるようにしてみよう。全てを渡してしまえば破裂してしまうかもしれないからな、ほんの少しだけだが。」
実際は創造主権限だが。
「なるほど、それは良い安全装置になりそうだ………何から何まで、感謝する。」
「……なぁ、何時まで俺の頭の上に居るんだ?」
呟いた一号の頭には包帯が巻かれている。話についていけない間に手当てをしたらしい。もっとも、余計な口を聞いたせいでまた鳩に突かれているが。
「だが、人を鍛えるなど初めてだ……何から始めればいいか…見当もつかない。」
「そうだな、まずは経験を積ませればいいだろう。強敵と戦わせるなどな。」
「えっ…何その俺の死亡フラ」
「確かに実践は大切だからな。人間っ、お前の思いつく最強とは誰だ?」
「…えっ、あーーーーーー……おかん?」
明らかに時間稼ぎだが、まぁ、此処で指摘してはやるまい。
「それでは今から会いに行くぞっ!…早速魔力を貸してくれ。」
「了解だ……トイチでいいからな。」
「ちょっまっ…。」
「といち?合言葉か……?」
「いや、合言葉は助けてどら……いや、龍の血の加護を、だな。」
「わかった…龍の血の加護をっ!」
「俺を潰す気かああぁぁっ!!!」
二号が高々と叫ぶと、鳩の体が光に包まれる。一号が慌てて頭の上の光の塊の二号を掴み、出口へと全力で投げる。光の塊は放物線を描き崖の下へと落下して行った。
「ていうか、龍っ!十一ってどういうことだ?!」
「十日に一割の略だ。」
「知ってるから突っ込んでんだろがぁ!!」
「まぁ、冗談だ。旅先で面白そうな話やお土産、本を持ってきてくれるならそれでいい。私としてもすぐに一号に死なれたくは無いからな。」
まだ、実験が済んでいないのに他者の手で壊れられるのは困る。
何か言おうと一号が口を開こうとするが、それは冷風にさえぎられる。
出入り口を見ると、最初に見たときよりは小さな…と言っても4mはあるか。そんな氷鳥が空を飛んでいた。
「人間っ!何をするっ!」
「でかっ、そんなデカイのに俺の上で変身すんなよっ!!」
「人間に指図される覚えは無いっ。さぁ、時間が無い。早く、おかんの元へと行くぞ!!」
二号はそうまくしたてると、器用に飛んだまま洞窟の中に入ると一号の肩を足で掴む。
「ちょっ、食いこんでる食いこんでる。俺の肩に爪がぁっ!」
「我慢しろ。さぁ、行くぞっ!!」
その扱いだと本当に人間だったらすぐに死にそうだ。
別れの言葉を言う暇もなく、二号は一号を掴んで空へと旅立っていった。高所恐怖症ならトラウマ物の体験をするであろう一号も災難だ。
恐らくは二号も焦っているのだろう、突然の事態に。それを考えると、あの状態で鳩を愛でていた一号は何なのだろう。変態か。
まぁ、そんな思考は一人になってからすれば良い。
溜息を一つついてから、私は洞窟の奥へと向き直った。