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Gimmick Game  作者: ken
第二章「失敗作編」
8/9

STAGE 2-1 =縁は異なもの、味なもの、残酷なもの=

 十一月下旬。快晴。

 しかしこの頃になると、例え太陽が昇っていても、寒さは本格的に感覚神経を刺激する様になっている。すると人は温もりを求め、マフラーやコートなどの防寒具を着用するようになった。

 都内某中学校に通う銀髪藍眼の中学生、如月来夏きさらぎ・らいかもまた、例外ではない。

 中学の制服の上から茶色いコートと、紺色のマフラーを着用し、両足は年中厚底ブーツで覆われている。夏であっても、彼女が厚底ブーツを履かない事は無い。 

 それは、ブーツの中に、針金を通してあるからだ。

 この特殊なブーツが、彼女にとって必要不可欠なものなのである。

 

 理由は、一つ。

 自らのギミックを、最大限に引き出すためだ。


 彼女は、普通の人間ではない。ギミックという得体の知れない力をその身に宿した、ギミッカーと呼ばれる存在だ。

 内容は単純明快、『雷を操る事』である。

 なので、ブーツに針金を仕込む事で、彼女の雷の力を最大限に発揮出来る様にしているのだ。

 『ギミック・ゲーム』と言われる、史上最悪の死亡遊戯デス・ゲームを生き抜くために。

 尤も、この少女が何度も死線をくぐり抜けているなど、誰も想像しないだろうが。


「はぁ……何で日曜日にまで学校に行かなきゃなんないんだよぉ……」


 うんざり、と言った調子に、来夏は言う。

 そう、本日は花の日曜日。

 学生にとっては、教師という怪物モンスターや、親からの「勉強しなさい!」などと言う口撃こうげきから逃れる事の出来る、日常生活にとって唯一無二の憩いの24時間である。

 友達と買い物に行く者、家でのんびりと過ごす者、はたまた恋人と共に過ごす者(俗にリア充とも言う)など、その過ごし方は学生の数だけあると言っても過言ではない。

 そして、その中でも最も『学生が過ごしたくない休日』を、今の来夏は過ごそうとしているのだ。

 そう―――――『補習』である。

 普通、夏休みなどの長期休日に行うべきものだが、彼女の場合、それでも追いつかない程にやらかしている(・・・・・・・)のだ。

 宿題未提出は当たり前、テストは国語以外赤点、更には授業中の居眠り常習犯etc……。

 生徒指導課の教師から目をつけられている存在なのである。

 つまる所、彼女は『馬鹿』なのだ。

 もしくは『阿呆』だろうか。


「うぅ~、寒い……」


 はぁ、と両手に息を吹きかけながら、来夏は呟く。 

 途端に、彼女はハッとした様に目を見開き、次に満面の笑みを浮かべた。


「そうだ、今度お兄ちゃんにマフラーを編んであげよっ! お兄ちゃんも、この寒さに参ってるだろうし」


 来夏はニコニコと笑いながら、頬を赤らめて街を行く。

 すれ違う人々からすれば、気持ち悪い事この上ない。

 ちなみに、彼女は一人っ子である。

 お兄ちゃん、と言うのは、本当の兄では無く、先に述べた『ギミック・ゲーム』で出会ったある少年の事だ。

 彼女に大きな影響を与えたその少年は、今の彼女にとって『最も大切な人』の部類に入る。

 つまる所、来夏は俗に言う『恋する乙女』なのだ。想い人のため、マフラーを編んであげようと言うその健気さには、全く涙が出そうになってくる。

 ただ彼女の場合、そんな事より勉強しろ、と言いたくもなるのだが。

 どの色の毛糸が良いか、などとすっかりマフラーに思考を持っていかれた来夏の耳に、


「ほら、出来上がりだよ」

「わぁ! すげぇ!」


 男の優しく低い声と子供の無邪気な高い声が、届いた。

 来夏はその声にハッと我に返り、何事かと声の方向に視線を向ける。

 そこは、公園だった。


「ねぇねぇ! 次もっと凄いの作って」

「そうだねぇ……よし、じゃあ次は影分身を作ってあげよう」


 その一角に、三人ほどの子供がベンチを囲む様に立っている。その中心には、一人の中年男性が、ベンチに座り、何やら忙しく手を動かしていた。

 右手には鋏を持っており、左手には折り紙を持っている。そして折り紙を折っていき、こなれた手付きでそれを不規則に切っていく。するとたちまち、折り紙の中からある形が現れた。


「ほら、影分身の出来上がりだよ」

「うわぁ、凄いなぁ!」


 見事な手付きで折り紙から影分身の形をした人を切り出した男性に、子供達は笑顔になっていく。

 来夏は、その光景をただ呆然と見つめていた。

 目は大きく見開かれ、心なしか体が震えている様に見受けられる。

 思い出されるのは、つい一ヶ月ほど前の出来事。冷たい地面の感触、自らに振り下ろされる刃、そして―――自らを襲った恐怖と、絶望。

 その時、ハッと来夏は我に返る。


「っ……早く行こ」


 来夏は誰に言うでも無く呟くと、足早にそこを後にした。

 その表情には、先ほどまでの笑顔は微塵も見受けられず、何かから逃げる様な焦燥だけが、映し出されていた―――――。


 

        ■



 こちらは、休日のとある高校の教室。

 顔を覆うほどのプリントの束が、のっしのっしと廊下を闊歩していた。 傍から見れば、どれだけ異様な光景である事だろうか。プリントの束には足があり、男子生徒用のズボンを着用している。

 その前を歩くのは、その半分にも満たないほどのプリントを運ぶ女子生徒だった。

 名は、鑓画餡子やりが・あんこ。この高校の二年三組の生徒にして委員長を務めている、文字通り『優等生』である。

 餡子は胸ほどまでに抱えたプリントを運ぶ足を一旦止め、と盛大にため息を吐き、数歩後ろを歩いているプリントに向き直った。


「何してるのよ。早く運ばないと、帰れないわよ?」

「………ちょっと待て委員長」


 不意に、プリントの右隅から、少年の顔が覗いた。少し癖のある黒髪を持ち、顔立ちは割かし端正な方ではないだろうか。一ヶ月前とは違い、現在は学ランを、第一ボタンを外す形で着用している。

 彼の名は、天突鍵あまつき・きい。こんなんだが、一応この物語の主人公である。そして先に述べた来夏の想い人でもあったりもする。

 そして彼もまた、来夏と同じく『ギミッカー』の一人として、死線をくぐり抜けた過去がある。尤も彼の場合、まだ一度しか経験は無いのだが。

 いつも眠く退屈そうな黒い瞳は、今は怒りに若干細められていた。


「休日にいきなり呼び出されたかと思えば、この仕打ちは何だ。俺は『少し手伝って欲しい事がある』としか聞いてねぇぞ」

「だから現に少し手伝ってもらってるじゃない。私もちゃんと運んでるし」

「明らかに少し(・・)ってレベルじゃねぇだろコレ! さっきから俺とアンタの運ぶプリントの量の差がハンパねぇんだよ!」

 

 事の顛末はこうだ。

 本日11月26日(日)、休日に限って早く起きてしまう鍵は、する事も無いので怠惰に身を任せ、布団に寝そべっていると、突然餡子から『少し手伝って欲しい事があるから、すぐに学校に来て、いいわね』と電話ラブ・コール。答える間も無く電話は切られ、断ると後が怖いと考えた鍵は、すぐさま学校に向かう。

 どうせすぐ終わるだろう、などと安易な考えを抱いていた彼は、全く救いようの無い阿呆だった……。


 そして現在、鍵は餡子の奴隷が如く大量のプリント類やら段ボール箱やらを運ばされているのだ。

 元々は委員長である餡子が頼まれた事だったのだが、さすがにコレだけの数を女の子一人に運ばせるのは無理があった。そこで、鍵に頼んで来てもらったのだ。


「良いじゃない、別に。どうせアナタ、暇だったんでしょう?」

「うっ……」


 そう言われては、鍵に返す言葉など無い。

 確かに彼女の言うとおり、鍵は暇だった。

 もし彼女に呼び出されていなければ、一日を意味無く過ごす事になっていただろう。


「くっそ……後で何か奢ってくれよな、こんだけ手伝ってやってんだから」

「あら、ご褒美を求めてるの? まるで犬ね」

「ひでぇ言い様だなオイ!」

 

 結局、鍵は彼女には敵わないのだ。

 昔から、そうであった様に。

 鍵は諦めたようにため息を吐いた。


「はぁ……っつうかよぉ、何で俺だけだったんだ? 

 他にも暇そうなヤツぐらいいるだろうが。こう言うのは二人より三人、三人より四人の方が早く終わると思うんだが」

「うっ、そ、それは……」


 餡子は、言葉に詰まった。

 プリントに視線を落とすと、その頬がたちまち紅色に染まっていく。まさか、『鍵と二人でいたかった』などと言える筈も無い。彼女もまた来夏と同じ『恋する乙女』なのだ。

 だが、『THE☆鈍感』の鍵にそんな事に気付く筈も無く。


「? 何赤くなってんだよ……熱でもあるのか?」

「うぇっ!? な、何でもないわよ! ほら! さっさと歩く!」

「あっ、おい!」


 鍵の呼びかけも空しく、餡子は足早に廊下を歩いていった。


「何なんだぁ? おい……最近の委員長、なぁんか可笑しいよなぁ」


 首をかしげる鍵は、既に見えなくなった餡子の後を、ゆっくりと追っていく。もしかして本当に熱があるのか? などと呑気に考えながら。

 全く鈍感というのは罪なものだ……。



       ■



 そして此処にもまた、休日を学校で過ごす少女がいた。オレンジ色の髪と蒼い瞳を持ち、制服の上から黒いコートを羽織っている少女の名は、『御包李兎』。

 彼女もまた、鍵や来夏と同類・・の人間だ。一年前から、ギミック・ゲームに参加し、死と隣り合わせの三日間を繰り返している。

 

「えぇっと……職員室は、っと」


 呟き、李兎はきょろきょろと辺りを見回しながら、慎重に進んでいく。入学して早七ヶ月ほど経つが、未だに構造がうろ覚えなのは、彼女くらいだろう。いわゆる『方向音痴』というやつだ。と言っても、彼女の場合そこまで深刻では無いが。

 そして、職員室へと向かう廊下の角を曲がろうとした、その時。


 ドンッ!! と衝動が李兎を襲った。


「いたっ!」

「きゃっ!」


 同時に、バサバサバサァ!! と紙が舞い散る音が聞こえてくる。


「ご、ごめんなさい!」


 衝撃に尻餅を付いていた李兎は、慌てた様子で盛大に地面に散らかった紙を拾っていく。


「あぁ、いえ。こちらこそ、ゴメンなさい」


 ぶつかった相手は申し訳なさそうに言い、同じく紙を拾っていった。見れば、どうやらプリントの様だ。差し詰め、教師に頼まれて休日に登校して来たのだろう。


「はい、どうぞ」

「ありがとうございます」


 プリントを拾い終えた李兎は、相手に拾ったプリントを渡そうと顔を上げる。

 相手は少女だった。おそらく自分より年上だろうか。赤渕眼鏡を掛けており、清楚な雰囲気が見て取れる。


(可愛らしい人だなぁ……)


 李兎が思わずボーっと見つめていると、


「あの……何か?」

「あっ、いえ! すみません」


 首を傾げる少女に、李兎は慌てた様子で両手を振り、苦笑いを浮かべる。

 その時、


「何やってんだ? 委員長」


 少女の後ろから、声が聞こえて来た。

 声色からして、おそらく男性であろうその声に、李兎は若干眉を顰め、


(? この声、どこかで……?)


 李兎は顔を上げ、声の主を確認する。

 そしてその顔を見て、彼女は目を見開いた。


「あれ? お前……」


 そこにいたのは、彼女の記憶に焼きついていた少年だった。

 彼女を精神的・肉体的にも救ってくれ、李兎の人生に大きな影響を与えたその人は、李兎の顔を見て声を上げた。ぶつかった少女は、二人の顔を交互に見やり、不思議そうに首をかしげた。

 そして、


「…………御包?」


 プリントの束を抱えた少年、天突鍵の声が、静寂が支配する廊下に響いた。



             






「しっかし……まさかお前がうちの高校の一年だったとはな」


 学校からの帰り道。

 各々やるべき事を終え、三人は共に帰路に付いていた。


「本当に偶然よね……前逢った時は夏服だったから分からなかったけど」


 学ランの夏服など、どこの学校もさして変わらない。

 しかも前回がお互い必死だった事もあり、制服などを気にする時間など無かったのだ。そして鍵もまた、彼女の制服が血に染まっていた事、黒いコートを羽織っていた事もあり、彼女が自分と同じ学校の制服だと気付く事が出来なかった。


「あの、二人はいつから知り合いなの?」


 完全に蚊帳の外になりかけていた餡子が、言う。先ほど軽い自己紹介は済ませたものの、やはり鍵と仲の良い女の子は気になるようだ。

 こういう少女ほど、ヤンデレになってしまう可能性が高いのだが……そうならない事を、切に願うばかりだ。


「あぁ、えっと……ちょっと、街でな」


 咄嗟に思いついた言い訳を、鍵は苦笑しつつ告げる。李兎もまた、苦笑を浮かべて餡子を見た。

 少し煮え切らないものの、餡子はそれ以上言及はしなかった。 


「それで、天突君と餡子さんはどんな関係なんですか?」


 話題転換のための李兎の問いだったが、餡子にとっては右フックを喰らった様な衝撃となった。たちまちその顔は真っ赤に染まっていき、思わず俯いてしまう。

 李兎が不思議そうに首を傾げると、


「あぁ、俺と委員長は……」


 鍵の声に、餡子の体がビクッと反応する。一体鍵が、どのように返すのか、気になって仕方が無かったのだ。 

 鍵は少し間を置き、やがてこう答えた。


「強いて言うなら、俺は委員長の奴隷…………ゴフッ!?」


 鍵の腹に、衝撃が走る。

 原因は、餡子の右手……いや、正確に言えば、彼女の右拳が原因だ。鍵が李兎の問いに答えた瞬間、世界チャンプも驚きの、見事なまでの腹パンチを決め込んだのである。

 餡子はうずくまる鍵を尻目に、あからさまな怒りのオーラを発し、帰っていってしまった。


「え、えぇと……」


 李兎は困ったようにオロオロと手を泳がせ、二人を交互に見やる。


「く、くそ……最近の委員長は、やっぱり可笑しいぞ」


腹を抑えて立ち上がりつつ、鍵は声を震わせる。


「何というか……お気の毒ね」

 

 それは鍵に対するものか、それとも餡子に対するものか。

 その時、

 

 ppp……


 二人の携帯から発せられる甲高い機械音が、重なった。

 まるで「せーの」と息を合わせたかの様に。

 直後、二人の背筋を悪寒が襲う。

 目を見開き、同時に互いの携帯を取り出す。

 静寂の中開いた二つのディスプレイに映し出された言葉は、同じものだった。


「ギミック・ゲームのお知らせ……」


 鍵の声が、静寂を破る。

 それは、今の彼等にとって、もっとも受け取りたくない内容のメール。

 『ギミック・ゲームの開戦を告げるもの』だった――――――。


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