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Gimmick Game  作者: ken
第一章「対風力支配者編」
7/9

STAGE 1-6 =遊戯終了《ゲーム・セット》=

「よぅ、鍵。おはよ!」

「おぉ」

「おはよ、天突君!」

「あぁ、おはよ」


 激動の三日間、彼にとっての非日常への入口であったギミック・ゲームが終了して、早4日。大分怪我も回復し、実に一週間ぶりの登校を果たした鍵を待っていたのは、そんな日常だった。マンションを出て、約五分。一体何人の生徒に「おはよう」と声を掛けられただろうか。彼らはいつも通りの笑顔で、鍵に挨拶をしてくれた。

 そう、いつも通り。何も変わらずに―――――。


(この三日間、俺が死亡遊戯デスゲームに参加してたなんて……誰も思わねぇよな)


 そして自分自身が、ギミックと呼ばれる得体の知れない力をその身に宿しているという事も。

 仮に今から一週間前に戻り、当時の自分自身に『お前はギミッカーって言う一種の超能力で、これから三日間殺し合いに参加する事になるから』と告げたとしても、当時の自分は信じないだろう。そしてもし鍵がギミック・ゲームいうモノの存在を知らなかったとしたら、友人が死亡遊戯に参加していたなどと想像する事もまた、無いに等しい。

 がやがやと話し声を発しながら過ぎていく人波の中を、鍵は黙々と歩いていく。

 思い起こすのは、4日前。

 ギミック・ゲームが終了した直後の事だ。



             ■



「天突様、お迎えに上がりました」


 風霧を倒した直後、鍵達の前に最初に現れた女性、須藤絢は、いつも通り顔に表情を貼り付ける事なく告げる。

 

「あの女の人、誰?」

「……俺の扇動者だ」


 来夏の問いに、鍵は須藤より目を離すこと無く答える。


「はじめまして、御包様、鈴原様、如月様……私は天突様の専属扇動者を務めさせて頂いております、須藤絢と申します」


 淡々と告げ、須藤は三人に向かい深く頭を下げる。


「迎えに来た、って言ったよな?」

「はい」


 須藤は頭を上げ、鍵の問いに答える。

 そして、鍵にとって今一番の救いの言葉を、何の感情も乗せる事なく、告げた。


「たった今、今回のギミック・ゲームは終了致しました」



             ■



 李兎達と別れた鍵と須藤は、そのまま黒いリムジンに乗り込み、鍵の自宅マンションへと向かった。

 須藤によれば、もうじき李兎達の扇動者もギミック・タウンに到着するという。須藤は扇動者の中でも、行動するのがかなり速い様だ。


「初めに、ギミック・ゲームよりの帰還、おめでとうございます」


 本当にこの女は、めでたく思っているのだろうか。

 何の感情もない須藤の言葉に、鍵は一瞬疑問に感じた。


「後何度、こんな事があるんだ?」


 今、鍵が最も気になっていたのは、この事だった。

 彼は三日間の死亡遊戯に半ば強引に参加させられ、強敵と戦い、重症を負いつつも、初めての仲間と共に、この三日間を生き残ってきた。

 だが、たった一度きりの帰還で開放してくれるほど、死亡遊戯ギミック・ゲームは甘くは無い。

 李兎は『去年から参加している』と言っていたし、須藤も『ギミック・ゲームは100年前から続けられてきた』といっていた。

 

「そうですね……申し訳ありませんが、私にもそれは分かりません」


 申し訳なさが全く伝わらない声色で、須藤は言う。


「あと数回かも知れませんし、あと何十年かも知れません……もしかすると、アナタが死ぬまで続けなければならない可能性もあります」

「そうかよ……」


 思わず、鍵の声は暗いものとなる。一年に何度この戦いがあり、それが何年続くのかすらも分からない。まるで出口の見えない、永遠の暗闇が続くトンネルの中に閉じ込められた様な気分だった。

 そんな様子を、須藤は黙って見据えていた。

 直後。キィッと高い音を立て、リムジンがその動きを止めた。

 

「……着きましたよ」


 須藤に言われ、鍵は窓の外を見つめる。そこには、確かに見慣れたマンションが聳え立っている。

 

「では、また次のギミック・ゲームの際に及び致します」


 須藤の言葉には答えず、鍵はリムジンから出る。

 彼を出迎える一般的な風貌をしたマンションが、何故か教会の様な雰囲気を纏っている様に、鍵には感じられた。

 鍵の顔から、思わず微笑みが零れる。

 そして、実に三日ぶりとなる自室へと足を向かわせようとした時、


扇動者わたしは今まで多くのギミッカーに専属してきましたが……」


 不意に、須藤の声が鍵を呼び止める。

 いや、呼び止めたわけではない。もしかしたら、独り言だったかも知れない。

 だが、鍵は足を止めた。そして、須藤の乗る黒いリムジンへと視線を向ける。 

 須藤はその整った顔を鍵へと向け、告げる。



「アナタの様に『仲間と共に生き残る』という手段を取った方は、いませんでした」

 


 鍵の目が、見開かれる。


「……?」

「皆さん自分が生き残る事で必死でして……アナタの様に、仲間を作るという思考が無かったのだと思います」

「……何が言いたい?」

「つまり……アナタは、今まで私が出会ってきたどのギミッカーとも違うタイプの人間です。なので……今までのギミッカーの方々とは違った事が出来るかも知れません……と、私は思います。では、失礼します」


 須藤は軽く会釈をすると扉は閉まり、リムジンはそのまま街中へと消えていく。

 その後ろ姿を、鍵はぼんやりとした視線で見つめていた。

 


                ■



(よく分からんが……アイツなりに、俺を気遣ってくれたのか?)


 直後、鍵は淡く微笑みを浮かべた。


「何というか……世渡り下手そうな奴だよな、須藤って」


 誰に言うでもなく、鍵はつぶやいた。

 彼女が言った言葉の意味は、今もよく分からない。

 だが何にしろ、今は戦うしかないのだ。 

 真実に辿りつく為にも。 

 この戦いを終わらせる為にも。

 そして、自分が生きる為にも。


「……あ」


 直後、鍵の目の前に、彼の通う高校の校門が現れた。

 どうやら、彼は家を出てから約十分もの間、自分の世界に浸っていたらしい。


「こんなに集中した事、今までに無かったかもな……」


 苦笑しつつ、鍵は校内へと足を踏み出―――――せなかった。

 誰かに呼び止められたとか、後ろ服を掴まれたというわけではない。

 

 彼の足が、自ら入るのを拒絶したのだ。


 鍵は目を見開き、そして、悟る。


(そう、か……)


 次に鍵の顔に、自虐的な笑みが浮かんだ。



(俺は―――怖いんだな)



 導き出された答えは、あまりにも簡単なものだ。鍵は一週間前、非日常な殺し合いの世界に足を踏み入れた。そして三日間、戦い、出会い、そして生き残った。今、目の前に広がっている日常が、それを証明している。

  

 だが(・・)鍵は既に非日常に(・・・・・・・・)どっぷり浸かっ(・・・・・・・)た人間だ(・・・・)


(そんな俺を……日常コイツは受け入れてくれるのか?)


 結局、彼は彼がいった通り、怖いのだ。

 日常が、自分を拒絶する事が。


(ったく……やっとココに戻ってこれたってのに……どんだけ小心者なんだよ俺は)


 鍵は右手で前髪を押さえつけた。

 自分で自分が馬鹿らしくなって来る。


(結局……『ギミッカー(おれ)』には元から似合わなかったのかもな)


 鍵は思う。

 それが、ギミッカーの宿命なのかも知れない、と。

 その時、


「あら、天突君じゃない。一週間も学校休んで何やってたの?」


 彼の後ろから、声。

 とても穏やかで、とても聞きなれた、とても懐かしい、声。

 鍵はゆっくりと後ろを向き、その声を見つめる。


「……委員長……」

「何よ、久しぶりに会ったって言うのにその反応は」

 

 惜しげもなく伸ばされた艶のある黒髪と、同色の瞳を持つ赤渕眼鏡の少女、鑓画餡子やりが・あんこが、怪訝そうに鍵を見つめて言う。

 

「それより、何をそんな所で突っ立ってるのよ」

「え? あぁ……」


 返答に困り、鍵は視線を泳がせる。

 まさか『学校に入るのが怖い』なんて言えるわけも無い。

 そんな彼の様子を見かねた餡子は、


「うぁ!?」

「ほら! さっさと入るわよ!」


 グィッと。

 力強く鍵の手をとり、彼を学校へと引きずり入れた。

 鍵は、おそらく今自分はとんでもなく間抜けな顔をしているのでは無いか、と思う。

 あれほど自分自身を拒絶せんとしていた日常の中に、この少女はいとも簡単に迎え入れてくれた。

 握られた手はとても小さく、とても乱雑だったけれど……とても、温かかった。

 自然と、鍵は笑みを作る。


「……大した人だよ、全く」

「? 何か言ったかしら」


 餡子は足を止め、しかめっ面で鍵を見据えた。

 鍵は一瞬面食らったように目を少し見開いたが、やがて微笑む。


「別に……ただ、そんなに握り心地がいいのかなぁと思ってさ?」

「は―――なっ!?」


 途端に、餡子は熱湯に飛び込んだかの如く頬を赤く染め、鍵の手から自身のそれを引き抜いた。


「べ、べべべべべべべべべ別にそんなんじゃないわよ!! ただ、アナタが校門の前でウジウジしてるから、サボるんじゃないかと不安に――――――あ、ふ、不安にって言うのは、委員長としてって意味で……その……うぅ……」


 手をバタバタと振りながら弁解したかと思えば、今度は下を向いてしまった。ころころと変わる餡子の態度を、鍵は楽しそうに見つめている。

 ただ。嬉しかったのだ。

 自分を受け入れてくれた、日常あんこの存在が。


「ちょ、ちょっと! 何ニヤニヤしてんのよ」

「ん~? 別に……」


 鍵は言い、その顔を餡子へと近づける。

 数センチ前にまで迫った鍵の顔に、餡子は更に顔を真っ赤に染めて、後ずさる。


「な、何よ……」

「いや、何ていうかさ」


 直後、鍵はニコッと子供のように笑った。

 そして、今の彼の心のままを、餡子へと告げる。

 率直に。

 何も飾らずに。


「やっぱ俺は、日常ここが好きなんだなぁ……と思ってさ」

「なっ……なななななななななななななななななななっ!!!!??」


 餡子の頬は、もはや言葉では表現出来ないほど真っ赤に染まった。この近さでのその台詞は反則だ。

 タバスコを百回かけたピザを、丸ごと一枚食べた様な餡子の顔を見ると、鍵は笑う。


「ほら、委員長。早く教室行こうぜ」

「……ちょ、待ちなさいよ! 今のどう意味!?」

「さぁな」

「ハッキリ答えなさいよ!」

 

 他愛も無い会話を繰り返しながら、鍵は笑う。

 そして、青々と広がる空を見つめた。



(やっぱ良いもんだな……平和ってのは)



 鍵は、未だギャーギャーと喚いている餡子を見つめ、思う。

 日常ここに戻るためなら、自分はどんな所からも帰還して見せる、と。



 一日の始まりを告げる鐘が、東京の街に高らかに響いた――――。

 

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