プロローグ =50年前=
どうも、kenと申します。初投稿で拙い部分も多いですが、精一杯執筆していこうと思いますので、よろしくお願いします。
「ハァ……ハァ……」
息が自然と荒くなる。
『彼』の視界の右半分は、もう使い物にならなくなっている。
さっきまで感じていた、脳が直接バッドで打たれた様な鋭い痛みも、今は感じない。
とうとう感覚神経までイカれてしまったようだった。
だが、そんな事は今の『彼』にはどうでも良い。
今の『彼』にとって大切な事、やるべき事。それは、目の前にいる『男』を倒す事だ。
『男』は、ごうごうと燃える火の海の真ん中で、『彼』と対峙する様に瓦礫の上に君臨していた。
頭から流れ出た液体が、白いシャツを紅く染めていく。
その上半身には、本来あるべき右側のそれが無くない。
それでも、彼は平然と『彼』を見据えていた。
見る物をゾッとさせる様な気味の悪い笑みを浮かべて。
「なぁ……どうだ? この俺をここまで追い詰めた気分は?」
いつもの、何処か人を小ばかにした様な態度で、『男』は言う。
『彼』は何の言葉も返さず、ただ『男』を睨み付けた。
もう何も言う事がない、とでも言う様に。
『男』はそれを見て、まるで遊び相手が見つかった子供の様に笑う。
「愉しいもんだろ? 追い詰め、追い詰められ……そして相手を殺す瞬間ってのは」
「ふ、ざけんなよ……テメェ……」
『彼』は、今にも爆発しそうな怒りを必死に押えつけながら言う。
「人を殺して愉しいだと? テメェの腐った価値観を俺に押し付けんじゃねぇよ!」
『彼』は『男』を見据え、咆哮する。
だが、『男』にその咆哮は届かない。
ケタケタと笑いながら、『男』は黒く濁った天を仰ぐ。
「テメェが何をほざこうが、所詮俺達はただの玩具だ……殺しあう為に産まれ、殺しあう為に生きる」
「違う!」
『彼』は、『男』の言葉を真っ向から否定する。
「『殺す』為に産まれたんじゃない……『仲間と共に生きる』為に産まれたんだ」
「仲間ぁ? ハン、おめでてぇ頭だ。最後に信じられるのは……自分だけだ。仲間なんざ、足枷に過ぎん」
『男』は、『彼』を見下す。
そして、生き残った左掌を『彼』に突きつけ、笑った。
「テメェの考えがどれほど甘く、どれほど醜いか……この俺が教えてやる」
「だったら俺は、その教えを真っ向から否定する」
『彼』もまた、口から染み出る赤を拭い、右腕を強く握り締めた。
しばしの、沈黙。
ごうごうと燃える炎が、彼らを逃がさんとするかの様に燃え盛った時。
タン――――と。
どちらからとも無く、二人は駆けた。
己が打ち倒すべき、標的をめがけて。
「「うぉぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」」
雄叫びが交わされ、二人の拳は振りかざされ、そして――――――――爆発した。