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第二陣 新敵、現る

乱獅子隊の幹部、伴・永倉・江守・家長。そして副長の兵藤は獅子駒の指示で村の外れで組の点呼をとっていた。

今回だけ伴は永倉と同じ組に入ることになり、獅子駒とは別行動になる。


「永倉、ずいぶんと減ったな」

伴のつぶやきに、永倉はため息まじりにうなずく。

「そう言えば、新選組にも確か永倉って奴がいるそうだな」

「あぁ。永倉新八だとよ、今まで聞いたことも無かったぜ。」

はぁ、とまたため息をする永倉に対し、江守と家長はキリッとした表情をしていた。

彼らの組には闘える新選組隊士も配属する事になり、組を率いる者としては気が抜けないのだ。

「土方と話したけどよ、獅子駒とは気が合うらしいが俺は苦手だな」

「はっ、安心しろ。私も同じだ、あの態度は気に食わない」

苦手と気に食わないは違うのではないかと永倉は思うが、まぁ彼女も土方をよく思わないのは伝わった。

それに新選組の隊士たちは無意識なのかもしれないが、よく自分たちの浅葱色の羽織を自慢してくる。

しかし、「あの羽織は、廃止されたと聞いているのだが……」

そうつぶやいた伴に、江守がそっと声をかけた。

「あぁ、廃止されてるが……きっと自分たちの誇りがあるのだろう」

それはなんだかわかった気がした。自分たちのこの紅色の羽織にも、特別な感情がこもっている気がする。

獅子模様が縫われたこの羽織は、着ているだけで乱獅子隊とわかるように後から縫い付けられた。

乱れ狂う獅子のように、戦場では最後まで闘い続けるようにと思いが込められている。

「伴、ちょっといいか」

後ろから、名を呼ばれた。

振り返るとそこには獅子駒と土方が並んでいる。

「……なんだよ?」

少し不機嫌になった伴の声に、獅子駒が苦笑いする。

「そう邪見にするな。新選組も乱獅子隊も同じようなもんだぜ」

「あぁ……獅子駒さんがそう言うなら信じますけど。私が気に食わねぇのはそこの土方だ」

堂々と獅子駒の隣に立っているのが、なぜか伴の心を逆立たせた。

そこはお前がいていい所じゃないと言ってやりたいくらいだ。

「新選組の局長は、近藤勇はどこにいんだ。まさか死んでるわけじゃ……」

そう言いかけたとき、土方の瞳が鋭く光り伴を睨みつけた。

「おい……脅してるつもりか? 俺ぁそんな脅しきかねーよ」

いつしか一人称も「俺」になっている。

こうなる時の伴は殺気立っていると知っている乱獅子隊の幹部たちは、伴に視線を送った。

「そもそも女はすっ込んでな。汚れた仕事をすんのは男だけで充分だぜ」

きっと土方は、危ないから行くなと言いたかったんだろう。

だが伴にとってそれは皮肉にしか聞こえない。

殴りかかろうとした伴を、獅子駒の声が制した。

「堪えろ伴。

土方さんもそんなこと言わないでやってくれ、こいつがそういう性分だってこと薄々気づいてんだろ」


静まり返ったその場に、土方の舌打ちが響く。

伴は目を吊り上げたまま、「くそっ」とつぶやいて永倉の隣に立った。

「これより俺たちは新選組の救助へ向かう。全体指揮をとるのは俺と土方さんだ」

静まり返った場所であるだけ、獅子駒の声がよく聞こえる。伴は一言も聞き逃さないよう集中していた。

「一番組は土方と新選組の屯所へ。他はその道を作るのを手伝え。だが、兵藤は残って村を守れ」

「はっ」

江守と家長は赤いはちまきを頭に巻き、引き締まった表情を浮かべる。

永倉は槍の刃こぼれを今さらに見ていた。

それを見ていた伴が笑みをこぼした。

「おうおう永倉、どうしたんだ今更よぉ」

”土方と一緒に”という部分だけが気に食わなかったが、屯所には新選組幹部らがいるはずだ。

少しは話しが通じる奴がいるかもしれない。

「言ってくれんじゃねぇか伴ちゃん。そっちこそビビって逃げんじゃねーぞ」

「誰に向かって言ってんだ馬鹿っ」

永倉の傷も癒えてないだろう。しかもよりによって腕に受けてしまった傷は槍を振るうのには不利がある。

だから獅子駒は私をこの一番組に置いたんだろう。

チラリと獅子駒を見ると、頼んだぞとばかりに彼がうなずいた。

「はっ……面倒なことばっか押し付けやがって」

「あん? なんか言ったか?」

「別に?」

自分を信用しているから任せるのだろう。昨日だって、逃げた隊士を追わせるなんて仕事、普通なら獅子駒直々に行うことだ。

それを任されたとなると、なんだか照れた気分になる。

「相手は新型武器を持っている。決して油断するんじゃねえぞ」

土方の言葉に自分たちは戦況の不利さを思い知らされた。

「では乱獅子隊、出動!」

「新選組、いざ出陣!」

二人の怒号を合図に、隊士たちがいっせいに走り出した。

追いかけようとした伴に、獅子駒がはちまきを手渡す。

「……生きて帰ってこい」

すれ違い様に言われた言葉に、伴はうなずいた。

「あんたもな」

背中を軽く叩いて、伴は走り出した。



〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


どれくらい走っただろう。ここからでは先頭を走る永倉と土方の姿は見えない。

目の前にいる新選組の隊士は、後ろを走る伴をちらちらと見ている。

「なんだ? さっきから」

さすがに視線に気づいた伴が睨みつけながらつぶやく。

「いや……何でもねぇ」

「?」

そう言ったきり、視線は感じなくなった。

「———!?」

だがその直後、目の前の隊士の体が横に吹っ飛んだ。

「おい!」

その隊士にかけより、異変に気づいた一番組の列が止まる。

隊士を吹っ飛ばしたモノの正体が分からない今、判断は全て永倉に任せたほうが良さそうだ。

「永倉! 隊士がひとり重傷したっ、どこかに敵がいるから気をつけろ!!」

そう叫び、男の腕を肩に回して立たせる。

「出血はしてねぇ……いったいどうなってんだ」

文字通り吹っ飛ばされただけなのだろうが、その勢いと速度は人間離れしている。

この巨体をあんな瞬間的に吹っ飛ばせる奴がそうそういるか?

周りを見て、同じような体格をしたような奴に怪我人を預けると永倉の元へ駆け寄った。


「どうした!?」

慌てた様子の土方に、伴は眉を寄せた。

「後ろのほうで隊士がひとり気絶させられた。ここは私がなんとかしておくから先に進め」

「一人でか?」

そう言う永倉に伴はうなずく。

「屯所には怪我人も多いはずだ。これ以上ここで面倒看きれねぇ。あいつは村に連れてく」

「わかった」

早口で伝えて、伴はもう一度最後尾へ戻った。

「お前は村に戻る。他の奴は先に進め!」

伴の凛々しい声に、隊士たちはうなずき走り出した列を追いかけだした。

取り残された伴と、その伴に肩を支えられて立つ隊士は焦りを隠せなかったのかもしれない。

何度も後ろを振り返った。

「おい……」

不意に、伴が足を止めた。

何かいる。後ろに絶対誰かいる。

そう思ったのだ。

「ここからは一人で行けるな。私はここで敵を食い止める」

「……!! ぅ、す、すまん…」

苦しげな表情を浮かべる隊士。

だが今は、和んでいる場合じゃない。

「行け!」

背中を軽く叩き、伴は刀に手をかけた。


「おいくるぁ、誰だてめぇ。こそこそと跡つけやがって……正体見せやがれ!」

もはや脅迫に近いその言葉に、一人の男が茂みから現れた。


「君は女ですか。正々堂々と立ち向かってくるとはいい度胸をしている。」

男だった。体格は獅子駒とそう変わらない。

だがその男が放つ覇気や殺気は人間とは比べ物にならない。

「だが、—————愚かだ」

その言葉に伴は顔をしかめた。

「てめぇ……どこの軍だ。薩摩か? 長州か?」

その問いに答えるべく、男が口を開いた。

「我らは、どこにも属さない。」

属さない?

その意味がわからない伴は、刀を握る手に力を込めた。

「君は……? よく見れば、我らと同胞ではありませんか」

「はぁ?」

男は闘う構えを解き、こっちをじろじろと見ている。

「女ながらのその戦闘力、なぜ今まで気づかなかったんですか」

今度はこっちが問いかけられている。

いったいどういう意味だ。

同胞?何を意味わからないことを言ってる。私は乱獅子隊に属しているんだぞ。

「主に、いい手土産が見つかりましたね」

「!?」

男が、不意に伴の首に手を回した。

殺される! そう思い覚悟を決めた時だった。


「その子を放せ」

その言葉と同時に、刀が振られた。

男の背中に刃が滑り、鮮明な血が吹き出す。

「———! 兵藤!?」

そうか。あいつが呼んでくれたか。

フッと笑みをこぼし、伴も暴れだす。

「いつまでやってんだ!」

腕を振り払い、懐に入り刃を振るう。


————はずだった。

「ぐぁっ……」

伴の口から思わずその言葉が出たのは、男の思いもしない行動のせいだ。

懐に入ってきた伴の腹に拳が入った。

ぐったりと動かなくなった伴の体を肩に担ぎ、兵藤を振り返る。

「では、失礼します」

丁寧に言われたって、こんなこと許せるか。

兵藤が男の足下を狙った攻撃をしかける。

「む……」

だが男は兵藤の攻撃をあっさりと避けると、地面を強く蹴った。

それだけで男は人間離れした瞬発力で飛び上がり、高さのある杉の枝の上に着地した。

「……くっ」

やっと目覚めた伴が、再び暴れ始めた。

「やめなさい。落ちますよ」

その言葉の意味を、下を見てようやく理解できた。

思わず足が竦んだが、それでもかまわない。

「放せこの馬鹿!」

男の背中を蹴り、腕を振り回し続ける。

「はぁ……暴れ馬にでも乗った気分です」

ため息まじりに、もう一度気絶させようと腕があがる。

「それを待ってたぜ!」

肘で男の心臓の上を思い切り打ち、腕が緩んだ隙にそれを振り払った。

だが、勢いが良すぎたのかもしれない。


スゥッと、一瞬無重力空間に放り出されたのかと思った。

足場が、ない!

そう思った時にはもう遅い。

伴は杉の木から落ちていた。

目を硬く閉じ、死を覚悟した。

「馬鹿! 目ぇ開けとけ!」

下から、獅子駒の声が聞こえた。

「えっ」

目を開けた直後、伴の体に衝撃が走る。

「———っ! つっ……ったぁ……て、生きてる!?」

腕を動かし、まだ体が動くことに伴はケラケラと笑いはじめる。

だが、自分を抱えている人の顔が目にうつるとその笑みが引きつった。

「し、獅子駒さん!?」

そう言えば、確かに獅子駒の声が聞こえていたような……

「て、てんめぇ……ずいぶんと呑気そうだな……あぁ?」

「す、すんません!」

獅子駒の表情が、”重い”と言っている気がした。

すぐにおりて、辛そうな彼の腕を肩に回す。

「大丈夫っすか!?」

「こんのド阿呆!! なんでじっとしていられねぇんだ! どうしてすぐ俺が行く事ぐらいわかんねぇんだ!」


思い切り怒鳴られ、唖然としてしまった。

「すんません!!」

思い切り頭を下げて、誤る。

「で……あいつらは一体なんなんだ」

「よくわかんねぇ。でも、私を同胞呼ばわりしやがった……」

真剣に悩む伴の顔を見て、獅子駒ははぁとため息をついた。

「よくわかんねぇが、とりあえず新選組の幹部たちの移動は成功した。今村に戻ってるはずだ」

「よかった……じゃぁ成功したってことか」

「ったりめぇだ」

それが一番嬉しかった。

あ、別に土方は死んでくれてもかまわなかったけど。

「とにかく、助かりました!」

まだ体には違和感が残っているが、伴はそれを振り切って村へ向かって歩き出した。

獅子駒の隣に立ち、まっすぐに前だけを見つめて。



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