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ロミオvs.ジュリエット To be, or not to be:As You Like It!  作者: 境康隆
第二幕、ジュリエット・バルコニー
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第二幕、ジュリエット・バルコニー11

 ジュリとロザラインは近くで銃声を聞いた。

「……」

「何だ? 今の銃声だよな、ジュリ? 何処のバカだ、昼間っから発砲してる奴は? お巡りに介入の口実を与えるような真似、すんなってんだ」

「違うわ、ロザりん。今の発砲音、聞き覚えがあるわ。自宅のチャイムのように、私にはもう耳に馴染んでるわ」

「ん、何だよ? てか、お前のアジト、チャイムなんてあったかよ?」

「あれは警察の制式拳銃の発砲音よ。間違いないわ。マキのところに戻りましょう」

 ジュリは慌てて身を翻す。その目の前の路地を、幾人かの集団がこちらも慌てて通り過ぎていった。彼らは怯え、互いを押し退け合うように去っていく。

「やっぱり、手入れね」

「何だよ。こんなところ、小物しかいないぞ。何しにくんだよ」

「分からないわ。でも、その小物の一人がマキよ。今のマキなら間違いなくしょっぴかれるわ」

 ジュリとロザラインは足早にきた道を駆ける。それは人の流れに丁度逆らう道のりだった。

「ちっ、向こうから人が流れてきやがる。マキの臥せってる地区から、ガサ入れを始めてるのか? ドンピシャか? クソッ、間が悪い!」

 ロザラインが苦労して人をかき分けながら毒づいた

「……」

 こちらは軽やかに人を避けながらも、ジュリが怪訝な顔をしていた。

「何だよ?」

「偶然かしら? それとも、まさか狙いはマキ……」

「はぁ? マキ一人捕まえるのに――」

 ロザラインは駆けながら、遠目に見え始めた制服警官達を見つめる。かなりの数だ。

「こんな大げさな人数で、やってくるかよ」

 制服警官達は銃をちらつかせ、警棒を振り上げている。そしてアクリルの盾で押しながら、こちらに隊列を進めてきている。

 マキの伏せるバラックはもうすぐだ。仮に制服警官の狙いがマキでも、自分達の方が先に駆け込むことができるだろう。だが警官達の狙いがマキだとは、ロザラインには到底思えない。

「人数そのものが、カモフラージュだったとしたら?」

 ジュリはそう言うと、足下に呪力を送る。ブーツにしてあった靴が、炎を上げた。ジュリはたった一歩でグンと前に出る。

「先にいくわ!」

 ジュリはそう叫ぶと、ロザラインを後にして、あっという間に人の流れの向こうに消えた。



「片端からしょっぴけ! 怪しい人間は、全部だ! どんな罪状でもいいからな!」

 血気にはやる大紋宮の警部――ティバルトは、上機嫌で指示を飛ばす。

 バラックが左右に並ぶ筋を、制服警官達が警棒を振りかざして駆けていく。彼らはバラックの住人をつかまえるや否や職務質問をし、少しでも違法なところがあれば、容赦なく後ろ手に手錠を架けた。中には手錠を架けてから、慌てて罪状を考える警官の姿すらあった。

「強引過ぎます! 手続きがめちゃくちゃです!」

 職務質問をする理由もなく、ましてや令状も持たずに辺り構わず容疑をかけていく警官達。澪は堪らずティバルトに意見する。

「些細なこった!」

「なっ!」

「それに、どいつもこいつも、現行犯逮捕だよ! 何がおかしい!」

「それにしても……これでは……」

「ロミオ! てめえは向こうの筋を指示しな! 二、三人連れてっていいぜ!」

 後ろで歯ぎしりをしたと思しき澪を、ティバルトが後頭部から頭を垂れて、横目で舐めるように見る。ティバルトの背の高さと相まって、それは殊更澪を見下した視線になっていた。

「厄介払いですか?」

「キャリア様の力を、信じて任せてやるって言ってんだ! 嫌ならもっと前に出て、制服組に手を貸してやりな!」

「く……」

 澪は悔しげに唸ると、近くにいた――つまり後ろの方にいた制服警官に声をかける。

 後ろの方にいるということは、多少なりともこの捕り物に懐疑的なのだろう。澪が声をかけると、四人が黙って頷いてついてくる。

「まぁ、あんま期待しないからな! 適当にやってろ!」

 ティバルトの嫌みを背に、澪は辻の向こうに消えた。

「ははっ! これでやり易くなるな! おい、もっと奥だ! 早くいけ!」

 ティバルトは団子状態になっていた制服組に、前へいけと背中を押す。

「この周辺の検挙には、まだまだかかりそうですが?」

 制服組の中でも階級の高そうな警官が一人、奥へと急ごうとする上官に怪訝に振り返る。

「同じところばかりじゃ、不公平だろ? 悪い奴らは、平等に捕まえてやらねぇとな――」

 ティバルトはそう言うと、まるで目的地でもあるかのように遠くを見る。

「たとえそれが、どんなに小物でもな!」

 ティバルトは警官達に割って入り、一人先を急ぐように歩き出した。その目で捉えたのは、バラックから出てくる――少女を抱えたこちらも赤と白の少女だった。



「ロザりん! 逃げるわよ!」

 ジュリはマキを抱えてバラックから飛び出した。外に出るや、やっと追いついていたロザラインに声をかける。

「おう!」

 ロザラインは応えてジュリに手を貸し、元きた道を振り返った。その時――

「そこの赤いねぇちゃんよ! そのゴミを置いていきな!」

 不意に二人は後ろから声をかけられた。

「――ッ!」

 ジュリの顔が一瞬で憎悪に歪む。そのまま怒気をはらんだ目で振り返る。

「今、何て言った?」

「おい、こら! ジュリ! 熱くなるな! 相手の思う壷だぞ!」

 ロザラインがジュリと背後の人間を交互に見やる。一人の背の高い四角い顔の男が、制服警官を引き連れて立っていた。

「おっと怖いね。また会ったな、衛藤ジュリ。俺に気でもあんのか? ははっ!」

「今何て言った! 答えろ!」

 ジュリは相手の言葉を無視し、全てをかなぐり捨てたように声を荒らげる。

「ははっ! ジュリエットにすらなぞらえられる、小股の切れ上がったいい女だって聞いていたが……随分と汚い言葉遣いだ」

「ジュリしっかりしろ……」

「だって……聞いたでしょ? あいつが、マキのことを……何て言ったか……」

「だからって、お前が熱くなって、マキが守れんのかよ? 悪い癖だぞ! しっかりしろ!」

「だって……」

「マキの為だ……」

「ぐぐ……く、分かったわ。ロザりん……マキをお願い」

 ジュリは惜しげもなく呪力を曝し、己の左手に炎を溜める。油断なくティバルトを睨みつけながら、ロザラインにマキの体を預けた。

 ティバルトが撃鉄を起こした。シングルアクションのようだ。

 撃鉄を跳ね上げ、後はその――

「尻軽女のように軽い、俺の引き金と、どっちが早いかな!」

 そう、後はその軽い引き金を引くだけだ。特にこの男のように、躊躇などなければ尚更だ。

「ジュリ……」

 ロザラインがマキに肩を貸す。マキはうなされているのか、体重を全てロザラインに預け、額に脂汗をかいて唸っていた。ジュリ達の背後――筋の向こうでブーツの足音が鳴り響いた。回り込んでいたのか、警官隊数名がジュリ達の逃げ道を塞ぐ。

「何が目的? 随分と人数を割くじゃない?」

 ジュリは囲まれたことを確かめると、自分に注意を向けさせる為にか、単にその怒りの為にか、一際大きくその左手の炎を空に向かって立ち上がらせた。

「こちとら、公僕でね。今日は、粗大ゴミの回収にきたのさ」

「まだ言うか! この娘にだって、ちゃんと名前はあるの!」

 ジュリは血を吐き出さんばかりに絶叫する。

「知ってるさ! 牛尾うしおマキだろ? おっと、失言だったかな?」

「――ッ! 貴様……」

「ついでに言うと木の呪術使いで、呪術の使えない鬱憤を、クスリに求めていた――だろ?」

「貴様……何を知ってる……」

「おっとまたまた失言か? まあ、いいか。全員やっちまえば、一緒か」

「……ロザりん……バラックの裏から……」

「……ああ、無茶すんなよ……」

 二人が小声で囁き合ったその瞬間――

「はは! くらいな!」

 ティバルトが警告や威嚇はおろか素振りすら見せずに、マキを狙い撃ちにした。


(『ロミオvs.ジュリエット To be, or not to be:As You Like It!』第二幕、ジュリエット・バルコニー 終わり)

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