会合 5
ユーフェンが二人の傍に着くと、深く息を吐いた。彼の額にはうっすらと汗が滲んでおり、この男、グルーヴを捜していたのだろう。声にはどこか安堵が混じっていた。
「グルーヴ……勝手に居なくなられると困るよ」
「おぉ!ユーフェン殿、すまなかったね!」
言葉とは裏腹に、グルーヴは笑いながら頭を掻く。謝罪の気持ちなどこの男には微塵もないのか、ユーフェンの肩をぽんぽんと叩く。
ユーフェンは慣れているのかそんな彼を軽く流し、すぐ傍に居るファウナに微笑みを向けた。
「ファウナ、ご苦労さま。ゴミ出しに来たの?」
「あ、うん!今から燃やそうと……」
「ユーフェン殿!これは一体どういうことか!」
二人の間に割って入るグルーヴは、納得いかない顔をユーフェンに向ける。最も、一番納得していないのは話を中断されてばかりいるファウナなのだが。
切歯扼腕するグルーヴを、ユーフェンは戸惑いながらも答える。
「……え、え?何、話が読めな……」
「このような女子を使用人にするなんて!」
「いや、そう言われても……。グルーヴの城にも若い使用人くらいいるだろう?」
グルーヴは人差し指を出すと、顔の前で横に振った。その満足そうな表情から飛び出した言葉は、真昼間には相応しくない言葉で。
「僕なら彼女をお風呂担当にするね!」
「……なァ……っ!?」
思わず後ずさりするユーフェンとファウナ。ユーフェンは顔を赤くし、ファウナは顔を青くして。
お風呂から連想することが、二人は違ったようだ。
(無理無理無理!王家のお風呂って凄く広いし……っ。常に綺麗に掃除しておくのって絶対手が荒れるよ……)
ファウナの顔が青い理由、それはお風呂掃除と連想したためだ。
アレクサンドリアでは、お風呂の掃除は使用人の当番制。ごくたまに回ってくる当番だからこそ乗り切れるのであり、毎日となれば体がもたないだろう。
自分はアレクサンドリアで雇われていて良かった。そう思う彼女の肩を、グルーヴは自分の方へ引き寄せた。
「僕の目に間違いがなければ、彼女は脱いでも綺麗だと思うんだよ」
「……へぁ!?」
「ユーフェン殿、君もそう思わないか?まぁ少しボリュームに欠けるところもあるが、彼女はまだ成長途中だ。これからいくらでも期待はできそうだし……何なら僕が直接早めて……」
「グルーヴ!!」
ユーフェンはグルーヴの手を彼女から引き剥がす。お風呂担当の意味を理解したファウナは顔を赤くし、体を固く身構えている。
ユーフェンの行動に吃驚したグルーヴは、降参の意を示すように両手を上げた。だがユーフェンの顔は、まだ赤いまま。
「グルーヴ……、彼女にその手の冗談は通じないから」
ユーフェンはファウナの前に立ち、赤い頬を隠すように顔を背けた。
「そうか、悪かったね。でも君の方が余裕ないように見えるよ」
「……っ」
ユーフェンは言い返すことはせず、バツが悪い顔をして口を噤む。
何とも奇妙な空気が流れ、居心地が悪い。ファウナは自分のせいかと心落ち着かず、とりあえず話を変えようとしたときだった。彼女より先にグルーヴが反応をおこし、渡り廊下へ顔を向ける。
「アシュリ……!」
「!」
そういえばユイランは、“奴ら”と言っていた。だとすれば、グルーヴだけでなくまだ人が来るということになる。内心、もう彼のキャラにうんざりしていたファウナだったが、同じようにその人物の方へ目をやった。
ファウナと同い年くらいであろうか。童顔で、ふんわりとした柔らかそうな茶の髪を一つに束ねている。フリルとリボンがたくさん付いたワンピースがよく似合う少女だった。