会合 4
翌朝、十時。天気はやや曇り、太陽が雲の奥に隠れてしまっている。風の音もうるさく、樹木がざわざわと騒ぐ。
それは、誰かの心境のようにも思えた。
「今日あんまり天気よくないね。ユーフェン達、帰り大丈夫かな」
いつものようにユイランの付き人の仕事をこなしていくファウナは、窓の外を窺いながら言った。今日はゴミ出しの日で、部屋のゴミの回収に来たところだった。
とは言うものの、彼の部屋からはあまり出ないのだが。
「雨、降らないといいね」
「……」
「ユイラン?」
いつも以上に無口で、そしていつも以上に不機嫌そうなユイラン。今日はまだ一言も彼女と口をきいてはいなかった。
(ユイラン、昨日の時のままだ)
「調子悪いの?」
心配になった彼女は声をかけた。
「……別に」
やはり素っ気ない。だが彼の言う通り、体に異常はないようだ。
(どうしちゃったんだろう……)
彼が気になりつつもゴミを回収し部屋を出て行こうとしたが、城門の方から人の声が聞こえた。驚いたような嬉しそうな、感嘆めいた声。窓から顔を出してみるが、樹木が邪魔をしてよく見えない。
もうユーフェン達が帰って来たのかと思ったがまだ昼前。帰ってくるにはまだ早い時間だ。彼女はあまり気にすることなく、ユイランの部屋を出て行った。
(……来やがったか)
窓の外を眺めるユイランの眉の皺は、また一層深まるのだった。
少量のゴミを持ち、ファウナは焼却室へ向かう。城から少し離れた中庭にポツンとある小屋が焼却室だ。彼女は渡り廊下を歩きながらそちらを見ると、煙突から煙がたっていた。
(皆ゴミ出すの早いな……)
恐らく雨が降り出す前にと考慮した結果なのだろう。雨が降っていると湿気でなかなか燃えないのだ。彼女が焼却室の扉に手をかけた時だった。
「おや、可愛い姫君だね」
「!?」
振り向いてみると、満面の笑みを浮かべた青年が立っていた。青年は長髪長身でユーフェンより高く、180センチはあるだろう。風に揺れる茶の髪も腰ほどまである。身なりも良く、きらびやかな装飾品をありとあらゆるところに付けている。
「あの……」
「君は見かけない子だね。新入りかい?」
ファウナの発言を遮り、青年は口を開ける。ファウナが持つゴミを指差し、顔を顰めながら続けた。
「麗しゅう姫君がそんな物を持つものじゃないよ!そんな物は使用人に押し付けてしまえばいいのさ」
「い、いえ……私が使用人なので……」
「なんと!君のような可憐な姫君が使用人!?何と勿体ない……ユーフェン殿は全く何を考えておられるのか……」
腕を組み考える素振りを見せるその男は、ファウナを舐めまわすように見つめる。何を考えているのか時折くすりと微笑み、頷く。
自分の背筋に鳥肌がたつのがわかった彼女は、一体どうすればいいのかわからず呆然と立ち尽くしていた。
(この人、一体何……?)
身なりからして一般人ではない。物言いからしても、かなりの身分も者だろう。ユーフェンの名前も出していた。
「!」
彼女は思いついたように顔を上げて、青年の顔を見つめた。ぶつかり合う二人の視線。
「はっは、何だい?僕の美顔に釘付けになってしまったかな?」
「貴方はもしかして……っ」
「……グルーヴ!!」
ファウナと男の会話を遮ったのは、聞きなれた声だった。彼女にとっては愛しい声。
グルーヴと呼ばれた青年の後方から走り寄ってくるのは、少し息を切らしたユーフェンだった。