会合 3
もともとファウナはユーフェンを知らなかった。アレクサンドリア王家は白の妖精が居る、ただそれだけの情報しかなかった。事情が事情だけに住まいを転々と変え、友達すら、知り合いと呼べる人すら居なかった彼女は、情報に乏しい生活を送っていた。
初めてユーフェンに会ったのは、拠点をあの村に変えた数日後。村の祭りがあったときだった。
「初めて会ったときはユーフェンはローブを被ってたんだよ。髪も瞳も隠しているから、最初は黒の妖精かと思ったんだ」
「ユーフェンがローブを……?」
ユイランは険しい表情をすると、考え込むように顎に手を添える。
「村の人達も、皆警戒してた。でね、挙句の果てには黒の妖精だと決めつけてユーフェンを……」
彼女は口を噤む。この後の言葉を続けていいのだろうか。目の前にはまさに黒の妖精がいるのに。否、そのようなことを考えることすらいけないことなのかもしれない。
「ユーフェンを、何だよ」
ファウナは我に返ったようにはっとした。黒の妖精である彼だからこそ、この先の展開は容易に想像できる。気にする方が、今更なのだ。
「ユーフェンを……ユーフェンに敵意を向けた。私と初めて会ったのは、その時」
「……」
ユイランは何も語らない。恐らく彼の中で、理解したのだろう。ファウナの母親は黒の妖精だ。ユーフェンを黒の妖精だと思ったからといって、彼女が動じるはずはない。それはユイラン自身も感じていることだ。
(……だからか)
人間だから、妖精だからと壁を作らない彼女だからこそ。ユーフェンは彼女を慕うのかもしれない。
それは理解した。――そのことは。
「……何であいつはローブを着て村へ行ったんだ」
新たに生まれた疑問。顔を顰める彼に、ファウナは答えた。
「白の妖精の待遇を受けたくなかった、って言ってたよ」
あの祭りの日、確かにそう言った。白の妖精の特別扱いを受けることによって、折角の祭りに水を差すことが嫌だと。
だがユイランの疑問はまだ晴れない。
「だからってローブを着て行くのか?そんなもの、自分から黒の妖精だと……普通ではないことを言ってるようなもんだろ」
故意に髪と瞳を隠すことは、その色を見られたくないから。どこの国でも、その色を隠してはいけないと暗黙のルールになっている。それをユーフェンが知らないわけがない。そうなると、まるでわざと仕向けたみたいだ。
「そもそもあいつ一人で村に降りることなんてない。国の様子見は必ず付き人を連れるんだ。なのに何で一人で行ったんだ、何のために、何でローブを着て?」
「そ、そんなこと聞かれてもわからないよ……!」
考えれば考えるほどわからなくなっていく。自分にとって大切だと思える人が、考える度に遠くなっていくような、そんな気さえする。
彼女の返答にもうこれ以上聞いても無駄だと思ったユイランは、話を元に戻すことにした。
「それはそうと明日の昼、気をつけた方がいい」
その表情は真剣で、ファウナもつられて表情をなくす。
明日の昼、ユーフェンとリルが帰ってくる頃だ。
「明日は、この国にも様子見の奴らが来る」
ユイランは彼女から目を逸らし、窓の外を見る。ファウナはその時の彼の表情こそ見えなかったが、言い方から、“奴ら”が来るのを拒んでいるように思えた。
「その人達って隣国の人?ユーフェン達と一緒に来るの?」
彼女の問いかけに、ユイランは振り向きもせず「あぁ」とだけ答えた。
その後、色々問いかけるも彼は素っ気ない返事ばかり。
(ユイラン、どうしたんだろう……)
しまいには口を開かなくなったユイランの部屋を軽く掃除し、彼女は自室へと戻るのだった。
明日の昼、とんでもない人達が来るのも知らずに――。