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犠牲 2

 何も言い返すことができず、うつむくファウナ。ユイランの沈黙がとても息苦しい。

けれどそう思ったのもつかの間、地が震える程の低い爆発音と共に、夜空に大輪の花が咲き乱れた。


「わぁ……っ!」


 火薬遊びが始まったのだ。色鮮やかに光る粒が、黒の画用紙を埋めていくようだった。

ファウナも初めての火薬遊び。口をポッカリと開けて空のアートを見上げる。


「あいつは……」


「え?」


 大きく低く唸る音響の中で、彼は言葉を紡ぐ。黒の瞳には、光の宝石を映して。


「あいつは……、俺の全てを奪ったんだ」


「全て……?」


 ファウナは空を見上げる彼の横顔を見つめた。いつもと変わらない表情ではあったが、どこか憂いを帯びている。


「母上にソルト、それにお前。俺の自由と……光を」


 ファウナの瞳の片隅で光る花。それが瞳の中心になることはなく、ユイランから目を離すことができなかった。


「そんな……、ユーフェンが……?」


 少なくとも、彼女の知っているユーフェンはそのような人ではなかった。いつも冷静で、温厚で。笑顔が柔らかい人。一緒に居ると安心する人。彼女はユーフェンの、そういうところに惹かれたのだ。


 ユイランは呆然としている彼女に、こう告げた。


「俺にとって、あいつは悪魔だ」


 時間が、止まった気がした。妖精とはいえ、血の繋がった兄弟だというのに。


(どうして……?)


 ファウナはユイランから目が反らせない。何か言いたいけれど、何を言えばいいのかわからない。彼女は混乱するばかりだ。


「……もうこの話は終わりだ。折角の祭りだろ」


 ユイランは地面を背にし、視界を空でいっぱいにした。職人達の想いが込められた様々な花が、黒の大空に光り輝く。


「……これでも感謝はしてるんだ、お前に」


 その言葉は火薬遊びの音に紛れ、彼女の耳には届かなかった。


 いくつもの花が空を飾り続け、その度に湧き上がる村人の歓声は止むことを知らない。

ファウナとユイランは話が前進しないままでいた。


(ユイラン、今何を思ってるんだろう……)


 彼女はちらりと横目で見るが、ユイランは何の反応も示さない。

相手を何も知らないもどかしさ。それを打ち破ってくれるかのような花が、また空を飾る。


(やっぱり綺麗……)


 花が咲くこの瞬間だけは、ファウナの様々な想いが流れていくようだった。


「……ん?」


 先程の花が咲き終わり、次の花が咲くまでの間のこと。彼女の鞄の中で、ぼんやりと光るものに気付いた。


「無線機!」


 ソルトの私物であり、この時のために借りたもの。今ソルトはユイランの部屋に誰も近づかないように見張ってくれている。


(緑色……だからソルトだ!)


 ファウナは光の色を確認してから無線機をONのボタンに切り替えた。


「ソルト?どうしたの?」


 無線機の奥は静かで、相手の息使いだけが聞こえる。


『……ファウナもっと早く出ろよ。結構呼びだしてたんだからな』


「ごめん……、無線機の光って小さいし、わかりにくくて」


 ソルトは声を潜めているようだった。まるで何かから身を隠しているような。

ファウナもそんな彼につられ、声のトーンを落とした。


「……ソルト、何かあったの?」


 あくまでも落ち着いて話す彼女に対し、ソルトは少し早口で話した。


『いや、ユーフェンがさ……。……って、とりあえずユイラン連れて戻って来い!そろそろ限界だぞ』


「わ、わかった」


 ファウナが言い終わるか否かという瞬間、すぐに切れてしまった無線機。ソルトはよほど急いでいるのだろう。だとしたらすぐに戻った方がいい。


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