決行 1
ソルトが部屋を出て行ってから、ファウナはすぐさま準備に取りかかった。肩から掛けられる小さめの鞄を用意する。そしてもう一度、ソルトから受け取った無線機を見つめた。
(確か緑のランプが光ったらソルトからの連絡だから、とらないといけないんだよね)
ユイランが部屋にいない間、ソルトがその場を見張っていてくれる。誰も近づいたりしないように、近づいても弁解できるように。そもそもユイランの部屋に近づく人なんて限られてはいるのだが。
(青のランプはユーフェンからだっけ)
この無線機はソルトの物。ユーフェンの付き人であるソルトの無線機に、ユーフェンから連絡があっても不思議ではない。
(……うん、取らなきゃいいんだよね、取らなきゃ)
そう思うも、少しも不安がないわけではない。一番最悪なことは、自分とユイランが出かけるところを誰かに見られることだ。それだけは何があっても避けなければならない。
ファウナは無線機を鞄の中へ入れた。あとは深めのニット帽も用意。帽子で髪を隠すなどしてはいけないが、それでも万が一のためだ。
火薬遊びが見える場所までの道なりは決めてある。ちゃんと、誰にも見つからない経路だ。
あとはユイランの意思だけ。一番厄介なもの。
(ユイラン、付いて来てくれるかな……)
本当は外に出たいはず。けれど過去の柵に囚われている。
ファウナは窓の外を眺めた。彼女の部屋はユイランの部屋の隣というだけあり、少し薄暗い。整備されていない樹木のせいで、光が遮られる。とは言ってもユイランの部屋ほどではないが。
月の光さえも届かず、今日が三日月なのか満月なのかさえわからない。彼はいつも、一体何を考えながら過ごしているのだろうか。
「……」
彼女はシャッとカーテンを閉めると、布団に潜りこみ目を閉じた。するとユイランの顔が思い浮かんでくる。
(そういえばまだ付き人になって浅いけど、私色んなユイランを見た気がする)
最初に会った頃の印象は最悪で、首を絞められたり。付き人になったらなったで、言い合いして胸ぐらを掴まれたりもした。何より目を合わせてくれなくて。
けれど一度だけ、本当のユイランを見た。
『母上……っ!!』
必死になって王妃の所へ駆け込んだユイラン。彼の人間らしい一面だった。
(私がユイランを救う、んだから……)
草木も眠る丑三つ時、ファウナは時を刻む時計の音を聞きながら、眠りに落ちていった。ユイランのことだけを考えながら――。