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思案 1

 長い沈黙だった。ファウナが終始笑顔でいるにも関わらず、彼は依然として仏頂面だ。


「……頭おかしいんじゃねぇの?」


 ようやく口を開いたかと思えば、そんな台詞。てっきり驚くだろうと思っていただけに、彼女は拍子抜けした。

ユイランは城から出たいはず。いつも一人でここから外を眺める毎日に、うんざりしているだろうからと。外を自由に飛び回る鳥をひたすらに目で追っているのを、彼女は知っていた。


 ユイランは眉の皺を一層と深いものにした。


「俺がこの部屋から出ることは……」


「知ってるよ」


 ファウナは腰に手を添えて胸を張る。彼女の言葉に、ユイランは一瞬目を見開いた。


「出れないなら、抜け出せばいいよ」


 外にはたくさんの楽しいものや綺麗なものがあるから。それを彼にも知ってもらいたい、感じてもらいたかった。部屋で一生を終えるなんて、勿体なさすぎるから。


 そんな彼女の思惑とは裏腹な、ユイランの心。


「バカバカしい」


 一言だけ吐き捨てると、彼は顔をまた窓の外へと向けた。


「どうして!この部屋から出たくないの!?」


「……勝手に決めんな」


 それは彼女にとって予想外なことだった。この部屋でただ何をするわけでもなく一日を過ごすユイランは、誰よりも寂しそうで儚げだったのに。


自分の思い過ごしだったのだろうか。仕事をしなければいけないという思いに駆られて、自分の意思を押し付けていたにすぎないのだろうか。


(わからない……、ユイラン何を考えてるの?)


 再び沈黙が訪れる。どちらも目を合わさず、金縛りにあったかのように身動き一つとれない。


「……ごめん、また来るよ」


(ユイラン……)


 ファウナはカチャンと扉を閉めた。だがすぐにどこかへ行こうとは思えず扉にもたれ、小さく息を吐く。

自分が計画しようとしたことは、ただのお節介になってしまうかもしれない。少なくとも今の状態では外に出るなど困難だ。


「わからないよ……、出たくないの?」


 自分の前髪をくしゃりと混ぜる。


(頭が混乱する……。何故?)


 その時、彼女はある異変に気付いた。それは感じたことのある気配。


「誰が出たくないって?」


「……っ!ソルト!」


 まるでずっと前から此処に立っていたかのように、仁王立ちしている。彼女の心を見透かしてしまいそうな真っすぐな視線を向けて、それはどこか責めているようにも感じられる。“何をするつもりなのか”と問われているような。


「誰かと出かけたいのか?」


「あ……、や……っ」


 あまりにも的を射ている彼の発言に、ファウナは言葉をなくした。何か言い訳をしなければと思うほど、焦ってしまう。彼の瞳があまりに強くて、自分はそんなにも大変なことをしようとしているのかと、改めて感じさせられる。


「別に私は……っ」


 ソルトに叱られるのかもしれないと戦戦恐恐せんせんきょうきょうとしているファウナを見、彼は呆れたように小さく笑った。

わかりやすい。よほど鈍くない限り、「これから何かしでかします」と宣言しているよう。


「水くせぇな、話すだけでも話してみろよ。俺はそんなに信用ないのか?」


「あ……」


「話すならお前の部屋だ。ここじゃ誰かに聞かれても文句言えねぇからさ」


(……バレてる)


 観念したファウナはソルトに連れられ、彼女の部屋に向かった。心なしかどこか楽しそうに見えるソルトに、不安を覚えながら。


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