計画 1
本当は、聞きたくてたまらなかった。あの研究室は一体何なのか。
だが思った通りでもあった。ユーフェンの態度はあからさまでもあったから。
(きっとまだ出会って間もないから……。当然だよ)
自分に足りないのはユーフェンからの信頼。ファウナはそう思っていた。時間さえ経てばきっと彼は教えてくれるはずだと。
手をぐっと握り気合いを入れてから、彼女は村へ向かった。
ローブは絶対被ってはならない。黒の妖精だと疑われるから。
瞳の色を隠してはならない。これもまた上記に同じ。
ファウナはできる限りの変装――髪を一つに結わえ、口にマスク――をした状態で村に着いた。
何故、変装する必要があるのか。それは以前、ユーフェンを助けたことが原因だったこともあるが、彼女の母親は黒の妖精。母親を殺したのは、それを仕事とする始末屋。妖精の身内である彼女がのこのこと出て行けば、無傷で帰れる保証はないのだ。
(買い出し買い出し、っと)
村の中を歩くのは久々な気がした。ユーフェンと出会ってから時間の流れが早く感じる。
ファウナは村を懐かしみながら歩いた。思い出は少ないが、村の雰囲気は好きだった。
朝は早くから店を開け、市場の活発な声。昼になると広場に子供達が集まり、楽しそうに走り回っていて。夕方には夕飯作りのために女達が思案しながら買い物をする。
(良い村だと思ったのに……)
黒の妖精。たったそれだけのことに、村人は武器をもった。
考えれば考えるほど、嫌な気持ちがうまれる。
自分の母親が殺されてしまったのは、村人の所為――。
母親は一歩も家から出なかったのに、何もしなかったのに、どうして殺される必要などあったのだろう。
(いけない、こんなこと考えちゃ……っ)
心が闇に沈みそうになる。同時に怒りさえ出てきそうになる。怒りからなんて、何も生まれないのに。
「……そういやさ、村の外れにあった家に黒の妖精が居たの知ってるか?ずっと前から住んでたって話だ」
「おっかねぇ……。俺達ずっと悪魔の傍で暮らしてたのか?全く始末屋のお陰だぜ、俺達が平和に暮らせるのは。でもちゃんと見回りやってほしいぜ」
ファウナの横を通り過ぎていく二人の村人。聞きたくもない会話が、耳に入ってくる。
(お母さんが……何をしたっていうの)
とても、とても優しかった母親。陰の気なんて、母からは感じなかった。少なくともこの村人達よりは綺麗な心を持っていた。自分の置かれた境遇に不平不満を洩らすことなく、かと言って人を憎むこともなく。
(あんた達の方が悪魔じゃない……!!)
返して、返して、返して――。もう決して戻ることない思い出を。
ファウナの瞳が、闇で濁る。血が滲むほどキツく拳をつくり、通りすぎていく村人達を振りかえる。
もう、どうなってもよかった。自分のこの想いの捌け口となるなら。相手は男で決して力で敵う相手ではないことはわかっていたが、もう抑制などきかなかった。
「あんた達、その口……っ!!」
「いけません」
殴りかかろうとしたファウナの腕を、誰かが後ろに引っ張った。声は冷静で、静かだ。
「あ?何だ、お前ら?」
ファウナの声に気付いたのか、村人は二人の方を向く。その表情はとても怪訝で、言い返せば争いは避けられないだろう。
ファウナを後ろに引っ張った人物は、彼女を自身の後ろへと隠した。
「いいえ、何でもありません」
「……ふんっ」
村人は地面に唾を吐き捨てると、その場を去って行った。