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妖精 2

 体力には自信があったファウナであったが、まさか、と思う不安から流れる汗と、焦りからくる足のもつれで、広場に着く頃には息が絶え絶えになっていた。

乱れた服を直そうとはせず、膝に手をつき必死に呼吸を整える。この時ばかりは長い髪が鬱陶しく思え、汗で体にくっついた髪を片手で軽く手直しした。


「……あ、あの人、が……?」


 息を整えながら発した声は、少し安堵も混じっていた。

 広場の中央に佇んでいるその人は、頭からすっぽりとローブをはおり、顔すらも隠してしまっている。これでは黒の妖精かどうかというよりも、男なのか女なのかそれすらも確認できない。


「……これが最後の忠告だ。そのローブを取りされ!!」


 村の男が物凄い剣幕で怒鳴るにも関わらず、当の本人はというと身動き一つしなかった。

動揺しているようでもなく、かと言って挑発をしているようでもなく。

表情こそわからないがローブを脱ごうとする素振りを見せず、ただそこに立っていた。


(あの人……、どうしてここにいるんだろう)


 ローブの人と村人の間に流れる不穏な沈黙の中で、ファウナはふと思った。


 黒の妖精は、忌み嫌われる存在。黒の髪と瞳を持つ者こそ、人間のカタチをした悪魔だと言われている。

かつて黒の妖精がいた国は、その妖精の陰の気で内乱や謎の流行り病が起こり、滅んでいったという。そのため、どこの国でも厳戒体制がひかれているのだ。


 しかしそのようなことは、この世界にいる人間ならば誰しも知っていること。何故今更、あのようにあからさまに髪を隠しているのだろうか。


「あの……っ」


 らちがあかない、そう思ったファウナが一歩踏み出したときだった。


 彼らの異様な雰囲気を嗅ぎつけたかのように、短く強い風が吹く。その瞬間、先ほどまで騒いでいた男の顔が真っ青に変わり、がくがくと体を震わせながら遂には地面に尻もちをついた。


「く、黒の……黒の妖精だっ!!俺達のむ、村が……村が……っ、滅ぼされるーっ!!」


「……っ!?」


 男の叫び声で湧き上がる、悲鳴に泣き声、非難。

男女問わず両手に武器を持つ村人が現れ始め、「殺せ殺せーっ!」と叫び始める人も。

収穫祭の楽しい空気が一変し、たった一人の人間あくまを殺すために殺気立つ人々。

その中には、先程スープをご馳走になった女も混じっていた。


(このままじゃ……あの人は殺されてしまう!)


 ファウナは迷わず飛び出した。村人を敵に回してしまうだとか、黒の妖精の陰の気で自分が死んでしまうのではないのかとか、脳裏をよぎるだけで深く考えはしなかった。

考えてしまったら、この人の運命どころか自分の運命まで変わってしまいそうな気がしたから。


「早く、こっち!」


「!?」


 ファウナはローブの人の手をとって、一目散に駆けだした。

手の握り具合でその人が戸惑っているようにも感じられたが、彼女にとって関係ないこと。

そしてもう一つわかったこと、ローブの人は男の人だ。


「逃げる!黒の妖精が逃げるぞ!!追え追えーっ!!」


 武器を持って追ってくる村人と手ぶらの二人、どちらが早いかは歴然としたもの。

けれど二人は死に物狂いで走って走って走り続けた。村人が見えなくなるほど、必死に――。


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