過去 1
暗く深い闇の中に、小さな光が見える。その光は目も開けれないほど眩しく、小さなユイランを途端に包みこんでいく。
(ここは、城の庭……?)
フワフワと宙に浮いているような感覚だった。まるで、自分自身が絵本の中に入り込んでしまったかのように。
『母上……っ』
どこかで聞いたことのある声がした。
(ライトの声……?)
否、違った。その割には声が大人びている。
(ユーフェンだ)
この頃はまだ背も低く、今よりも髪が短い。生意気そうな子供。
『母上!ユイランが……!』
小さいユーフェンに手を引かれる王妃。このときはまだ、今程体は弱くなかった。
『ユイラン、泣かないで』
小さなユイランの頭を、王妃は優しく撫でる。
ユイランは泣いているのだろうか。何故か彼だけが黒い霧がかかったようによく見えない。
『貴方は、世界を変えることができる子』
ユイランの手をとって、王妃は微笑む。その笑顔にも少し靄がかかったようだったが、彼はちゃんと見ていた。
『私の、大切な子』
そう言ってユイランを見た王妃の瞳は、涙が出そうなほど綺麗で。その瞳に吸い込まれそうな感覚に陥った。
(忘れかけてた……)
これは本当にあった昔のこと。
(俺は過去を夢見ているのか……?)
途端に強い風が吹いた。何もかも吹き飛ばしてしまうほどの、嵐のような風。
その流れで先程の情景が一気に別のものに変わる。
(今度はどこだよ……)
辺りは真っ白で、人の気配はしない。シン、とした部屋に閉じ込められているような感覚。
心なしか空気が熱い、体が熱い。
『助けて……助けて……っ』
恐怖に脅えた少年の声。
(この声は……っ)
『兄上、助けてぇぇっ!!』
(何で今さらこんな夢を見るんだ、タチが悪い……)
誰も、助けに来ない。いくら泣いたって、叫んだって。所詮は皆、独りなのだから。
(我ながら情けない)
『母上、ごめんなさい、ごめんなさい……』
泣いたって状況は変わらない。それなのに何故、許しを乞うのか――。
(……あぁ、そうか。このときの俺は理解していなかった)
王妃がどうして変わってしまったのか。あれほどにも優しかった王妃がどうして。
自身を守ることに精一杯で、周りが少しも見えていなくて。
『母上、熱いよ!熱い、熱い……っ!!』
(……もう勘弁してくれよ)
ユイランは頭を抱え、跪いた。
(全ての元凶は、俺だ……)
もし自分が白の妖精であれば、王妃は変わることはなかった。昔のまま、あの平和だった昔のままでいることができたであろう。
もしくは自分がいなければ――。
(……俺は一体何のために生きているんだ?)
わからないのは、最初からただそれだけだった。それなのに色々な想いが混じり合って、いつの間にか支離滅裂になっていただけなのに。