仲間 1
城内では、たくさんの人々が働く。住み込みであったり通いであったり様々だが、色々な環境で育った人々が、色々な事情の下で働いている。
家族代々で王家に仕える者は付き人を任されることが多く、料理に自信のある者は厨房で働いたり、剣の腕に覚えのある者は王家を守る護衛隊として雇われている。
そしてとある青年も、事情があって働く者の一人だ。茶の無造作に散ったふわふわの髪が印象的なこの青年は、くりくりとした大きな目で周りを見渡し、そしてある一つの焦点を見つけた。
彼がずっと捜していた者だった。
「ユーフェン!!ユーフェン、やっと見つけた!!」
年の頃合いはファウナと同い年、もしくは二・三歳年上ともとれる。何せ彼は大人びてかっこいいともとれるし、子供のように可愛いともとれ、見た目では判断がつきにくい。
「ソルト、どうしたの?」
ソルトと呼ばれたこの青年は大きく息を吐くと呼吸を整え、ユーフェンを見据えた。
呆れたように肩をすくめる。
「……ったく、捜したんだぜ、ユーフェン。居なくなるなら居なくなるって先に言ってくれよ。前も同じこと言ったの、忘れたか?」
「あぁ、ごめんごめん」
少々怒ったようにソルトはむっと膨れるが、逆にユーフェンは和やかに笑っている。
「彼女……、ファウナに仕事のことで用があってね」
「ファウナ……?」
ソルトにユーフェン、二人の視線が一度に自分に向けられ、ファウナは一瞬たじろいだ。
大きくて小動物のようなソルトの目と合うと、慌てて彼女はお辞儀する。
「は、初めまして!ファウナです!」
ソルトはじっと彼女を見つめ、そして次にユーフェンを見る。
ファウナは頭を上げると、不思議そうに眉を顰めるソルトに目を向けた。
「ファウナって……、ユーフェンが前に言ってたあのファウナ?何か村で助けられたって……」
「そうそう、彼女だよ。ちょっと訳あって、今日からここで働くことになったから」
「ふーん……?」
またジロリとファウナを見つめるソルト。
まるで品定めをするかのような、少なくとも大いに歓迎という雰囲気ではないようだ。
居心地悪く目を伏せるファウナに気付いたユーフェンは、ソルトに話を振った。
「そういえば僕を捜してたって言ってたけど、何かあったの?緊急?」
はっとしたようにソルトは手を叩いた。自分としたことが忘れるところだった、と慌ててポケットに手を突っ込む。
「研究室が今ちょっと大変なことになっててさ。俺じゃ収拾つけらんなくなってるから、ユーフェンに代わってもらおうかと思って。……で、これ鍵」
ソルトの手からユーフェンへ鍵が渡る。“L”と書かれたプレートがついたその鍵は、ファウナが持っているユイランの部屋の鍵よりも、一回り小さい。
彼の言葉を聞き、ユーフェンを取り巻く空気がピン、と張り詰めたものに変わる。
その変化に、ファウナも違和感を覚えた。
「ごめん、ファウナ。僕行かなくちゃいけないから、部屋で待っててくれる?」
「う……うん」
彼は返事を聞くと、すぐにその場を駆けだした。
ファウナはそんなユーフェンの背中をじっと見つめる。
彼をここまで突き動かす“研究室”とは一体何なのだろう。気になるのに、自分の横にいるソルトには聞きにくい。
彼からの威圧的な視線を感じるからだろうか。
「…………」
「……なぁ、お前さ」
「……はい!?」
突然声をかけられ、ファウナは思わず身構えた。彼から一歩、遠ざかる。
「……とって食いやしねぇって」
「す、すいません……」
言葉の端々が怖い。ユイランとはまた違った怖さだ。まるで見張られているような。
「お前、ユーフェンの何なの?何で城にいる?」
「私……っ」
空気が凍る。自分とユーフェンの関係なんて説明はいくらでもできるのに、有無を言わせないような圧迫感が彼女を襲う。
首筋に冷たい汗が流れ、声を発しようとしたときだった。
「あ」
ソルトが先に声を上げた。
「お前の部屋、どこ?茶でも淹れてよ。どうせユーフェンが帰ってくるまで暇なんだろ?」
「え……っ」
「早くしろって。俺こう見えて短気だから」
ファウナは呆気にとられた。わからない、理解できない男。非常識な男。怒っているのかと思ったら気の抜けたような言葉。
(……でもユーフェンも部屋で待ってろって言ってたし……)
ファウナは観念しソルトを連れて、渋々自室へと戻っていった。