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対 2

 コンコン。

 ファウナの身支度がすんだ頃、部屋の扉が鳴った。「どうぞ」と返事をすると、それが開かれる。


「用意はできた?うん、とてもよく似合うよ」


 真っ白な膝丈までのワンピースを身に纏い、ピンクのリボンで髪を縛っているファウナを見て、ユーフェンは満足げに頷いた。


「やっぱりリルが着るのと君が着るのとでは全然感じが違うね。リルはリルで似合うんだけど……こう何ていうか……、……うん、まぁいいや。リルから話は聞いてるね?」


 ユーフェンは一人で話を完結させると、恐らく本題なのであろう話題を彼女に振った。


「あ、うん。私のお仕事の話でしょ?何すればいいの?」


 きょとん、と首を傾げる彼女に、ユーフェンは「あー……」と言葉を濁す。リルが全てを話しているだろうと勘違いしていたらしい。

けれど彼はすぐに彼女に答えた。


「君には“付き人”をしてもらうよ」


「つきびと?」


 そういえばつい先ほど聞いた言葉だ。確か、リルがそのようなことを言っていたような。


「そう、要はお世話係だよ。食事を運んだり、付いている人の部屋を掃除したり、その他色々だったり。僕の付き人はリルにあたるよ」


(あ、それなら私にもできそう……!)


 ファウナは少しほっとするが、同時に疑問も思い浮かんだ。部屋を出て行くときのリルの言葉、そして表情。覚悟とは一体何の覚悟なのだろうかと。


「それで……ファウナ、君が付き人をするのは僕の弟だ」


「……弟!?ユーフェン、弟さんがいたの!?」


「名前はユイラン。三人兄弟の真ん中だよ」


 道理で面倒見がいいはず。兄弟がいないファウナにとっては新鮮で、心が躍るようだった。命の恩人と言い換えてもいい彼の兄弟は、どんなに素敵な王子なのだろうか。

少なくともこの時は、そう思っていた。


「末っ子にはまた近いうち会わせてあげる。今日は次男……、ユイランのところに行こうか。とりあえず顔合わせだけでも早い方がいいからね」


「……?うん」


 ユーフェンはファウナの肩に手をあてると、そっと廊下へと促す。


 彼女が一歩自室から廊下へ出てみると、大体部屋の様子から想像はついていたのだが、開いた口が塞がらないとはまさにこのことなのだろう。


普通の家では絶対にあり得ないほどの広い廊下、その幅は約五・六メートル程で、金色の刺繍が入った赤い絨毯じゅうたんが廊下いっぱいに敷かれている。


その上を皆土足で歩いているにも関わらず、掃除がいき届いているせいか塵一つ落ちていない。


次に壁を見てみれば風景画や彫刻、芸術品の数々が数メートルごとに並んでおり、その美しさに目を奪われる。


(凄い……、さすが王家だ)


 ファウナがあんぐりと口を開け魅入っていると、「ファウナ、こっち」とユーフェンの声。

彼女は彼の後について歩くと、ユーフェンはピタリと立ち止まった。


「ここだよ」


「え、ここ!?」


 ユーフェンが指差した部屋はファウナの隣の部屋。道理でアッという間だった。……というよりも、一国の王子の部屋が使用人の部屋とあまり変わらない位置にあるなんて。


 色々なことが思い浮かぶも、ユーフェンは彼女に釘をさした。


「ファウナ。この部屋に入る前に一つだけ約束してほしいことがあるんだ」


「約束……?」


 ユーフェンは人差し指を自分の口にあてると、呟くように言った。


「ファウナが喋っていいのは自己紹介のときだけ。……絶対」


 いつもとは違う、真剣な声。

ファウナはゴクリと唾を飲むと、疑問を覚えつつも無言で頷く。その様子を見、ユーフェンはほっとしたように微笑んだ。


「ありがとう。約束だからね」


(どうして喋ったらダメなんだろう……。何があるの?)


 気になって仕方なかったファウナだが、どうしても聞くことができず。

ただただ心の中で自問自答する他なかった。

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