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綴文歌は人でありたい  作者: シキ


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2章 佐護 3


 次の日、教室に入ると同時に私にいくつかの視線が刺さる。

 どうやら先に来ていた佐護君も囲まれていて、なんとなくその理由を察した。


「え、なになに? どうしたの?」


 昨日は部活に行ってしまって事情を知らない葵は、すぐにその様子に気づいて知り合いの女の子に聞きに行く。


「……ふみふみと佐護君が放課後デート⁉⁉⁉」

「違うって言ってんだろ!」


 葵のセリフにすぐに佐護君の声が被さる。

 佐護君が事情を説明して、べつに恋愛的要素はないと改めて言ってくれた。私はそもそもクラスであんまり話さないから、後ろで立って頷いていただけだ。佐護君の説明した内容が『たまたま神社で会う機会があって、神社のことで相談していた』という私でも首を捻るような内容だったのが気になったけど。

 佐護君も慌てていたのもあって、まわりの人たちはあんまり信じてなさそうなまま、ひとまずその場の質問ラッシュは落ち着いた。


「それでそれで、本当のところはどうなの?」


 信じていなかったのは葵も一緒で、昼休みに入ったらすぐに教室の外へ連れ出されてしまった。

 葵は私の魔法も知っているし、佐護君から私がどういう風に見えているかは共有しておいた方がいいと思って昨日のことを話す。もちろん、佐護くんの内情には口留めを約束してもらってから。


「なるほどー、佐護くんは『能力者』なんだ」

「……なんか『能力者』っていうとあんまりカッコよくないね」

「そう? 私はカッコいいと思うけど」

「まぁそれはそれとして……葵はあそこの神社なんの神様祀ってるとか知ってた?」


 実はあの神社は葵に初めて魔法を見せた場所でもある。さびれているとはいえある程度開けているし、人目にもつき辛いから、魔法を覚えた当初神社でいろいろと実験をしていた。


「ううん、知らない。あんまり神様とか興味ないし……大会の時とかはゲン担ぎしに行くけど、それで足が速くなるわけじゃないからね。神社が古そうなのは見たままだし、何時なくなっても不思議じゃないなーとは思ってた」

「まぁ……そう見えるよね」

「佐護君はあそこを残したいんでしょ? それならお父さんを説得しないと難しいってことだよね。ふみふみはどうするつもり?」

「え、私は別に」

「でも佐護君の力になりたいとは思ってる。ふみふみの話を聞いてそれはわかったよ」


 それはそうかもしれない。あの場所は私の個人的な理由……魔力還元がしやすいというのはもちろんあるけれど、佐護君の思い出の場所が消えるのはちょっと悲しいな、と思ったからだ。

 それに、神社をなくさないようになんとかする力が私にはある。


「……ふみふみ、これは私の我儘なんだけどさー」


 どうしたらいいか考えているうちに、葵が心配そうな目でのぞき込んできた。


「うん?」

「ふみふみの力は、本当はたくさんの人を助けることができるのは私も分かってるの。でも私はふみふみが魔法を使うことを、当たり前だと思ってほしくなくて……前も言ったけど、私もふみふみも普通の高校生で、本当はそんなことできないはずでしょ? だからあんまり魔法を使わないでほしいな。ほんとに、私がそう思ってるだけなんだけど」

「……葵」

「きっとふみふみは、魔法なんて使わなくても凄いことが出来るよ。私の大会の時だってそうしてくれたでしょ? だから佐護君を助けるのは、ふみふみがそうしたいならもちろん賛成なんだけど、私の時と同じみたいに、魔法は……」

「わかった。魔法は使わない」

「本当?」

「うん、約束する」


 心配そうな葵の眼を、私はまっすぐに見つめた。


「ありがとう。あ、でも本当に必要な時は使っていいからね! 誰かに襲われた時とか、少しピンチになったときとかまで約束守らなくてもいいから」

「さ、流石に危ない時は使うと思うよ……」


 死んじゃったら元も子もないし、痛いのも苦しいのも、感じるのは変わらない。栞さんが言うには、私はすでに人じゃないみたいだけど、こうやって葵が心配してくれるから私も葵と対等でいたかった。


 何かと視線が刺さる一日をなんとか終え、その日の放課後は図書委員のお仕事があった。部活がある葵と別れて図書室へ行くと、いつも通り麻衣先輩が貸し出しカウンターの中にいた。


「麻衣先輩、今日も早いですね?」


 麻衣先輩の隣に座るとがしっと私の腕が捕まる。


「ふ、文歌ちゃん、彼氏が出来たって本当? 嘘だよね……嘘って言って」

「どこで聞いたんですかっ!」


 しょぼしょぼした麻衣先輩が会うと同時にそう聞いてきたから、下級生の恋愛話なんてどこから噂が伝わっているのかと驚いてしまった。


「たまたますれ違い様にそんな噂を聞いただけ。でも火のない所に煙は立たぬって言うし……」

「誰とも付き合ってないですよ! ……いや、もし私が誰かと付き合ったとしても、麻衣先輩には関係ないと思いますけど」

「関係なくない! 一緒に寄り道とかできなくなっちゃうでしょ! 私にとっては重要なことなの!」

「えぇ……」


 大げさだなぁ。と思ったけど、麻衣先輩が言った理由は私が葵に彼氏が出来た時に考えてしまった内容と似ていて、あんまり人のことを非難できないなと思ってしまった。


「噂は噂ですよ。麻衣先輩もしっかりしてください」

「そう? 本当? 今日も一緒に帰ってくれる?」

「帰ります」

「文歌ちゃんのお家に遊びに行ってもいい?」

「それはちょっと……というか、そんな話今までしたことありましたっけ?」

「いつか遊びに行きたいなって思ってて。ほら、文歌ちゃんももう少し成績伸ばしたいって言ってたし。私勉強みてあげれるよ?」


 その話は本当のことだった。麻衣先輩は成績がよく、いつも上位1ケタに名が載るほど。図書委員の合間にもわからないところがあれば教えてもらっていた。


「……そのうち、ならいいですよ?」

「じゃあ、また次の機会にお願いするね」


 曖昧な返事でごまかそうとしたけど、麻衣先輩はまだ諦めてくれなさそうな感じだった。だからといってはっきり断るのもやりづらい。

 ちょっと元気になった麻衣先輩と図書委員のお仕事を始める。基本的には頼りになる先輩だけど、最近は特に私を気にかけることが多くなった気がする。……どうしてだろう?

 そんなことを考えるが、今日は本を借りる人が多くて意外と忙しく、お仕事をしているうちに一日が終わってしまった。


「文歌ちゃーん、帰ろ?」


 全部のお仕事が終わり一息つくと、本棚からひょこ、と顔を出して麻衣先輩が誘ってくる。麻衣先輩は美人さんだけど、その様子可愛くみえて見た目のとギャップが凄い。一緒にいればいるほど、どうして私を気に掛けるのか不思議に思った。


「どうかした?」

「いえ……ナンデモナイデス」


 司書の先生に報告をしてから麻衣先輩と学校を出る。お話をしながら、いつも麻衣先輩との別れる十字路に差し掛かる。それは神社に上がる石段の少し手前だった。


「麻衣先輩は、あそこの神社のこと知ってますか?」


 別れ際、麻衣先輩にも神社のことを聞いてみる。


「もちろん知ってる。最近は行ってないけど、子供のころはよく遊びに行ったりしたかな。昔はもう少し綺麗だったんだけどね」

「そうでしたっけ?」

「文歌ちゃんはあんまり行かなかったんだ?」


 年始にお参りしに行く時は家族で少し遠くの大きな神社に行くことが多かったから、佐護君の神社の記憶はほとんどなかった。


「確かに小さな神社だからね、年始に行くなら確かに隣町のほうかも」

「こないだたまたま行ってみて、ずいぶん古びていたのでちょっと気になって」

「最近は初詣行く人も少なくなってきてるみたいだし……今にも崩れそうだから、あんまりありがたみもないよね、昔、妹と肝試しに――」


 そこで、麻衣先輩の言葉が途切れる。麻衣先輩に妹がいるという話は初めて聞いた。


「麻衣先輩、妹がいたんですか?」

「……うん、そうなの」


 麻衣先輩の言葉は、そこから続かなかった。私のことをいつもかまってくれる麻衣さんなら、妹さんのことも可愛がってそうだし、いくらでもお話はありそうな気がする。だけど麻衣先輩の言葉はそれきりで、私と違う方向に進む。


「じゃあまたね。文歌ちゃん」

「はい、麻衣先輩もお気をつけて」


 そのまま帰り道を歩く先輩の背中は、どことなく寂しそうな気がして。その先もついていった方がいいかなと考えてしまうくらいだった。

 でも私がそうしなかったのは、神社への石段の前に見たことがある自転車が停まっているのに気づいたからだ。

 石段を登り、見つからないように鳥居に隠れてのぞき込むと、いつかと同じく社務所を掃除している佐護君がいた。ざっ、ざっ、とホウキで埃を外へ出している佐護くんは、教室でお友達と話している時と少しだけ様子が違う気がする。

 簡単な掃除が終わると、がらがらとシャッターを閉めベンチに座り込んだ。

 視線の先はさびれた神社、佐護君はじっとそれをみつめて座っていた。どんなことを考えてるのかはわからないけどやっぱりそれは、なんだか寂しそうで。

 ふと、ここで佐護君と話した時のことを思いだす。

 あの時の佐護くんはクラスにあんまり馴染めていない私にでも、普通に話しかけてくれた。葵としか話せなくて、他の人と話すのはなんとなく怖くて。クラスのみんなも私を邪険にはしないけど、特に進んで話しかけたりはされない。きっとその原因は私にあるのもなんとなくわかっている。

 でも、佐護君はそうじゃなくて……私が初めてちゃんと話せた男の子で、それが私はやっぱり嬉しかったんだ。


「綴?」


 いつの間にか、私は佐護君の前に立っていた。


「佐護くんは、この神社が大切なんだよね?」


 私は一つだけそう聞く。佐護君はもう一度神社に視線を向け、困ったように笑った。


「……そうだな」

「わかった」


 その返事を聞いて、私は佐護君に背を向ける。石段を下りて、家までの道を歩いていく。

 やっぱり佐護君の力になろう。何ができるかはまだわからないけど、たくさんたくさん考えて、少しでも佐護君の気持ちを軽くできるようにしたい。


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