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綴文歌は人でありたい  作者: シキ


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3/30

1章 葵 3


 次の日、私はちょっとだけ緊張しながら教室に入った。

 自分の席に荷物を置いて、佐護君の方をなんとなく気にしてみる。けど佐護君はお友達と話していて、特に挨拶とかもない(今までされたことないけど)いつも通りの朝だった。

 挨拶がなかったことに逆に安心しながら席について、体育がない平和な一日を過ごして放課後を迎える。葵は元気に部活に向かい、私も帰る準備をして、誰とも話さず学校を出た。

 昨日は結局魔力還元が出来なかったから、もやもやした気持ちがまだ胸の中で燻っていた。さっさと魔力還元で出してしまいたかったけど、昨日の出来事があったばかりの神社に行くのはなんとなく気が引ける。

 佐護君もたまにって言っていたし、二日続けてくることはなさそうだけど……この際、あの神社以外にも安心して魔力還元が出来る場所を見つけておいてもいい気がした。

 そうと決めた私は一度帰宅し、動きやすい服に着替えて学校とは反対側、あまり通ったことがない方向へと足を進める。

 魔力はどこに出してもいいわけじゃない。コンクリートの上には水が溜まり、やわらかい土には水がしみこむように、その場所場所で魔力の通りは違う。通りが良くない場所で魔力を出し続けてしまうと、魔力がそこに滞留して大地を巡るのに時間がかかるし、一か所の密度が高くなりすぎると、最悪爆発したりする。

 だからあの神社みたいに、できるだけ魔力の通りがいい場所を探す必要があった。ファンタジー小説の中で、そんな場所のことを『龍脈』と表現されていることがあったから、私も便宜上そう呼んでいる。

 そんな龍脈の見つけ方は私がこの役割を引き継ぐときに、ある程度教えてもらっていた。足元から魔力を波紋のように薄く広く流すことで、魔力の流れが遅いところ、早いところが分かって、早いところが龍脈の候補に……。


「ん?」


 その返ってきた反応に、思わず声を出してしまう。

 魔力を広げた先、2キロくらいのある場所で、魔力が()()された。

 それは今まで経験のないことで、龍脈でもそんな反応はしない。流した魔力が通り過ぎるのでもなく、そっくり無くなってしまうのは初めての反応だった。

 念のため、もう一度魔力を広げるけど返ってくる反応は同じで、間違いはないみたい。


「うーん……」


 行くべきか、行かないべきか。

 近くのコンビニに入って、適当なお菓子を選びながら考える。

 魔法というものを知った当初、その時まだ中学生だった私は、秘密の組織に誘われたり、特殊能力を持った人が話しかけてきたりと、そんなことを考えてはどきどきしながら毎日を過ごした。けど私の期待とは裏腹に何事もなく日々は過ぎていって、半年経った今ではもう全く期待することもない。

 だからその魔力反応も、調べたって今更なにかが変わることないと思う。思うんだけど……あの反応の大きさ、たぶん人じゃない。たぶん小さな箱くらいだから……いや、もしかして魔法のアイテムとか???

 その可能性に気づいて、お菓子を取ろうとした手が止まる。

 もしそれが本当に魔法のアイテムなら、それは初めて見る私以外の魔法の存在。それを見つけることが何かのスタートになって、それから……いや、期待しない、期待しない。さんざん期待したまま、高校生になっちゃったんだから。

 パフの入ったイチゴのチョコレートを買って、口に入れながらその方向に歩き出す。チョコレートの甘さが、少し冷静さを思い出させてくれた。

 でも見つけちゃったからには確かめるしかない。どうせ無視して帰っても、気になって眠れない自分が予想出来る。近づいてくる反応の先、なにがあるのか期待しないようにしながら、私は足を速めた。


 30分ほど歩いた先、魔力がなくなった場所には、小さな道祖神がいた。

 石製の小さい鳥居と、それ以上に小さい神様は、時々誰かが手入れしているみたいで汚れひとつない。

 こんな道端にも神様はいるんだなぁと、一応その前で手を合わせながら魔力を流してみると、やっぱり同じように魔力が消えた。その時初めて、そこにある存在に気づく。


「――これ、記憶だ」


 道祖神の中に、魔力で守られた記憶が埋め込まれていた。こんなの普通の人にはわからない、私と同じように魔力を持ってる人じゃないと……。

 やっぱり、ここからなにかが始まるのかもしれないと、鼓動が早くなる。

 きょろきょろと周りを見渡す。タイミングよく誰もいない。手を合わせる振りをしながら、道祖神に沈められた記憶を、自分の魔力で拾い上げる。それは繭のように細い魔力の糸で包まれていて、一か所結び目をほどくと中から強い光が漏れ出し、私は思わず目を瞑った。


「……収まった?」


 眼を開くと、特に変わらない風景が見えた。道祖神も山へ続く登山道もさっきと変わらない。……いや、まわりの家は少し違う? なんというかちょっと古い家が多いような。


「こんにちは!」

「わぁ!」


 突然背後からかけられた大きな声に、ビクリと身体を震わす。恐る恐る振り返ると、そこには私にとって忘れられない人がいた。


「あの時の……」


 それはあの日、私の腕の中で光になったはずの魔法使いだった。

 理解が追いつかない、なんであなたがここに? だって私の手の中で消えたはずじゃ、いや、それより聞きたいことはいっぱいあって。


「じゃあ、行こうかー」


 思ってもみなかった人が急に現れ、私は声も出なかった。けどその人はそんなことお構いなしにくるりと背を向け歩き出す。


「ま、待って! お名前を!」

「お、私? 私は古宮栞(ふるみやしおり)。栞ちゃんって呼んでね」

「……栞さん?」

「まぁそれでもいいかー」


 ふらふらと歩く栞さんの隣に並ぶ、それは間違いなく、あの時の魔法使いだった。

 栗色の髪、私より20cmは高い背、年齢は……大学生くらい? カーディガンにロングスカートと服装は落ち着いていて、歩いているだけでも私とは大違いの美人さんに見えた。

 消えたはずの人が目の前にいる。しかも何度も夢に見た人が。けど会えてうれしいとか、泣きたくなるとか、そんな気持ちは不思議と浮かんでこなかった。先ほどまであった混乱もいつの間にかなくなっていて、なんだか不思議な力で感情が抑えつけられているような気さえした。


「私の名前も知らないってことは時間なかったのかな? こんなこと背負わせちゃってごめんね」

「えっと、私まだ何もしてないです」

「何もしてないってことはないはずだよ。地球に魔力を流してるでしょ? それが一番大切な魔女のお仕事だから」


魔女、と自分の口で言ってみる。その時に、私も魔女になったのかなと自覚した。


「それって、しなくなるとどうなるんですか?」

「大地が荒廃してくよ。木や植物が育たなくなるし、地震とか噴火が多くなる。それも自然の摂理って言っちゃえばそうなんだけど」


 それは初めて聞いた内容だった。私が受け継いだ記憶には、ただ魔力を流すのがとても大事なお仕事で、それだけは欠かさずやるという意識しか伝わっていない。


「魔力は大地にとって血液みたいなものだから、促していかないといろいろなところが悪くなっていくんだ……というかこれも伝わってないの? 力を引き継ぐ時には、ちゃんと全部の知識が引き継がれるような契約をするんだけど……あ、着いたよ」


 いつの間にか一件の建物の前にいた。ここが目的地らしい。

 引き戸は開かれていて、「お邪魔しまーす」という元気な声で栞さんは建物の中に入っていく。いいのかな、と思いつつ私も入ると、その中には様々なお菓子が並べてあった。


「駄菓子屋?」

「そうだよー。来た事ある?」

「いえ、ないです」


 カゴに小さなお菓子が山盛りになっていて、30円やら50円やら小さなポップがついている。壁から垂れ下がっているお菓子や、スーパーボールが並んだくじ、飴が入っている箱みたいのがいくつも並んでいて、それはついつい目移りしてしまう光景だった。

 さっきまで魔女の話をして、聞きたいこともあったのに、その内容も一瞬忘れてしまうくらいに。


「はいこれ、私のお気に入りなんだ」

「あ、ありがとうございます」

「あー……敬語やめない? 一応後継者みたいなものだし、私敬語で話されるの苦手なんだよね」

「わ、わかった。ありがとう」


 大人な雰囲気の栞さんに、自然と敬語になっちゃいそうなのを我慢する。もらったのは小さなチョコマシュマロで、スーパーとかで見たことがあるものだった。

 売り物なのにいいのかな? と思ったけど、栞さんは気にせず次から次へと駄菓子を食べていたから、私も袋を開いて口に入れる。


「……? 味がしない?」


 予想していた甘さはいつまで経ってもこなくて、マシュマロの弾力だけが返ってくる。味がしないマシュマロはまるで柔らかいゴムを噛んでいるみたいで、お世辞にも美味しいと言えない。


「あーやっぱりかぁ。味までは再現できなかったや、ごめんね」

「いえ、あの……ここって記憶の中、だよね。なんでそんな風に話せるの?」


 目の前にいる消えてしまったはずの栞さん、人気のない住宅街、無人の駄菓子屋。栞さんがいきなり出てきて考える暇がなかったけど、ここが記憶の中に再現された世界なのは間違いなかった。その中でも私と自然に会話ができている栞さんの存在だけが分からない。


「それに気づくとは優秀だ。でもその答えも、私がそう言う風に設計したからってしか言えないんだけど」


 栞さんは小さなヨーグルトをあけて、木のスプーンで口に入れる。とても美味しそうに食べるのがなんだか羨ましく思えてしまう。


「私、もともと日本生まれでさ。この力が手に入ってからいろいろな場所に行ったんだ。そこで現地の人と交流して、体験させてもらったりして。そうやって長年世界中巡ったけど、やっぱり日本が一番好きでね。好きな場所もたくさん出来たんだけど、私の思い出を共有できる身近な友達はすぐいなくなっちゃうの。でも私の楽しかった記憶を残しておきたいから、一緒に体験出来るように記憶をまとめたんだ。いつか私と同じ立場の人が見つけてくれればいいなと思って」


 世界中とか、すぐいなくなっちゃうとか、気になることはあったけど、こんな綺麗な人でも友達がいないことなんてあるんだという事実に共感が生まれる。


「あ、なんか失礼なこと考えてない? 友達はいっぱいいたよ。でも私より先に死んじゃうから、300年過ぎたくらいで積極的に付き合わないようにしたんだ」

「さんびゃく?」


 それこそ聞き間違いかと思った、だってどうみても20歳くらいにしか見えない。


「レディーに年齢を聞くのはーって女の子ならいいか。今は500歳を超えてるよ。あなたもそれを望めば、そのくらい生きることができることはわかってると思ったけど」

「望めばって……」

 そんなこと、考えたこともなかった。けど、内にある魔力はそれが可能だと言っている。

「うーん、伝えてないことが多すぎる! 私どんな最後だったのかなぁ……まぁそれをこの記憶の私が知っても仕方のないことではあるけど。もうそろそろ時間だから、知りたいことがあったらまた記憶を探してよ。いろんなところにあると思うから」

「え、ちょっと待って。まだ聞きたいことが」

「またねー」


 笑顔で手を振る栞さんが急に遠ざかる。駄菓子屋は空間に消え、また現れた強い光に私は目を瞑った。

 

「ん……」


 先ほどまでの小さな道祖神が私を見つめていた。スマホを確認すると、ほとんど時間は経っていない。周りを見渡して、自分がもといた場所に帰ってきたことを知る。


「……栞さん」


 名前を知れてよかった。今まで彼女のことを思い出すことは何度もあったけど、名前もわからないと時が経つにつれてどうしてもイメージがぼんやりしてきてしまう。

 今度からは、思い返してもちゃんと名前で呼んであげられる。そのことに一番安心した。

 そのほか、気になることとか新しく知ったこともあるけど……まず私はついさっき栞さんと歩いた道を一人で進んでみる。

 見覚えのある角を曲がって少し歩くと、その建物はまだそこにあった。期待して近づいてみるけど。


「やっぱりやってない」


 木造の家は所々壊れたように放置されていていて、駄菓子屋だった当時の雰囲気は少しも残っていない。人が住まなくなって長い時間が経っているようだった。

 なんとなくそんな予感がしていた私は、諦めて来た道を戻る。意外と遠出になっちゃったし、そろそろ帰らなきゃいけない。本来の目的だった新しい龍脈は見つけられなかったけど、それ以上の発見ができたからよしとしよう。

 それでもなんとなく気持ちが引っかかっているような気がして……行きに寄ったコンビニを見てなにかに気がつく。


「あれって、コンビニでも売ってなかったっけ?」


 栞さんがお気に入りと言っていたチョコマシュマロ、その味はどんな味だったか。記憶の中で口に入れた時からもう一度食べてみたいと思ったんだ。

 そうすればきっと、チョコマシュマロが好きと言っていた栞さんのことを、もう少し知れるような気がした。




 その夜。


「お、多すぎる……」


 私は部屋のベッドの上でそう呟く。

 栞さんの記憶を探った結果、該当する場所はなんと二百箇所以上。一県に最低一箇所はあって、この周辺でも十箇所以上見つけることができた。


「これだけあるなら、なんか急いで探す必要もない気がしてきた」


 ひとまずその記憶の場所には私の魔力でマーキングして、ベッドへ倒れこむ。かなり広範囲を探したから慣れない疲労感を感じた。魔力自体はいくらでも引き出せるけど、気持ちはどうしても疲れてしまう。


「栞さんにとってはきっとまた初めましてだし」


 栞さんの記憶は、その時栞さんの過ごした時をトレースしている。だから、私と一緒に駄菓子屋へ行った記憶は、他の栞さんの記憶に引き継がれている可能性は低いと考えていた。

 栞さんとの記憶が積み重なっていくのは私だけ。やっと知り合うことができたのに、また栞さんに『初めまして』と言われてしまうのは、なんとなく、ちょっと聞きたくなかった。

 ひとまず聞きたい質問はメモしておくことにして、スマホの中に貯めておく。困ったときとか、たまたま近くを通りがかった時にでも聞ければとりあえずいいかな。


 

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