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綴文歌は人でありたい  作者: シキ


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3章 桔梗 4


 どんよりとした曇り空が、なにかに半分隠れて見えた。


「はろ~」

「……栞さん?」


 その半分は栞さんの胸の部分で、私はいつの間にか栞さんに膝枕をされていた。起き上がろうとする私に、栞さんの手がかぶさる。


「ちょっと待った! 今この周り結構ハードな光景だけど、大丈夫?」

「えっと……どんなジャンルで?」

「すぷらった~」

「無理かも、デス」

「じゃあ、フィルターでもかけようか」


 栞さんに耳打ちされたとおり、私は呪文を唱える。


「これで大丈夫」

「……はい」


 いつまでも栞さんに膝を借りるわけにもいかないから意を決して起き上がると、そこには焼け焦げた荒野が広がっていた。木や建物も、何もかもぼろぼろに焼け焦げていて、だけど地面の所々に場違いな花畑が集まっている。

 実際にはその花畑の場所に、人が倒れてるんだろうけど……栞さんが教えてくれたのは、すぷらったーな光景を花畑に見える魔法で、これならなんとかなりそうだった。

 でも、その花畑は何か所も何か所もあって……それは数えきれないくらいで、きっと栞さんがそうしたってことで。


「……これ、なんで」

「攻撃してきたから」


 なんの感情もなく栞さんが言う。


「あいつら、罠仕掛けてきてさ。ここに来たってことは見たと思うけど、祠あったじゃない?あれ、魔女に対しての封印装置だったの」

「え!」

「あそこに見えるでしょ?」


 栞さんの指の先には、確かにさっき見た祠がそのまま立っていた。


「もしかして、私も……」

「あー、大丈夫大丈夫。中身書き換えておくから。というか、結局祠に詰まってる力も、もとは地球から吸い上げた力だからさ。それってつまりもともとは私の魔力じゃん? だから効くはずないんだよね。それが分かってない奴らの多いこと」


 花畑をよけながら祠へ近づく。焼け焦げた大地の中、その祠だけはススもかぶらずポツンと立っていて、私がいた時よりも強い魔法の残滓を感じた。


「うーんと……うん、魔力的な道はまだ残ってるね」


 栞さんが祠に手をかざし、なにかを操作する。横で見てても、何をしているかはさっぱりわかんない。


「あと勘違いしてるかもしれないけど、この風景私がやったんじゃないからね」

「……そうなの?」

「やっぱり疑ってた! こんなに可愛い淑女が殺戮なんてするわけないでしょ、ぷんぷん」


 淑女は殺戮なんて言葉使わないと思うけど、とは口に出さなかった。


「ただの自滅よ。この祠に込めた力が多すぎたの。それと私の魔力が反発して大爆発した……っていうと半分私のせいみたいに聞こえるな。もしかして半殺戮……?」


 思案しながらも、栞さんの手はぼんやりと光を放ちながら動く。


「栞さんを封印しようとしたのは陰陽?」

「陰陽? その名前は聞いたことないな……私の知ってるのは『白夜』って組織だね。私が聞いたことないなら、陰陽ってやつはもっと先の時代の組織かも」

「そっか」

「『白夜』も対魔女組織の中ではかなり大きい方だから、後の時代に残ってても不思議じゃないけど。というか残ってるからあなたが飛ばされてきたのか……はい終わり」


 栞さんの手から光が消える。祠には特に変わりない。


「今日の記憶を埋めたよ。『白夜』の連中からはちゃんと封印装置が機能しているように見えるよう偽装してるから、バレる心配もないと思う」

「私がここで栞さんと話してるってことは、実際に問題なかったってことだよね?」

「そうだね、結果がすぐわかるのは嬉しいなぁ。いい仕事した」


 うんうん、と栞さんが頷く。


「でもこれが栞さんの記憶なら、私、すぐに元の場所に戻ることになるよね? 桔梗さん、どうしよう……」

「桔梗? ってのが、敵の名前なの?」

「うん、魔女って口にしてたし、私のこともきっと分かってるんだと思う」

「あ、じゃあ」


 栞さんがもう一度祠を操作する。今度は短時間でおわった。


「これを起動した人の力を、ぜーんぶ奪いとっちゃうワナも追加したよ。素晴らしいアフターサービス」

「あ、ありがとう」

「あとは腕っぷしで負けなきゃ大丈夫! まぁ魔法使えば一発よ。それじゃ頑張ってねー」


 ひらひらを栞さんが手を振ると辺りが白く染まり始める。結局、栞さんのおかげで私は命拾いした。

 というか今回の栞さんは言動がいつもより子供っぽい感じがして話しやすかった。何歳くらいの栞さんだったんだろ……。

 そんなこと考えながら、光の流れに身を任せる。




「――り! 綴!」


 眼を開くと、焦ったような表情をした佐護君がいた。頭の後ろにジーンズのような感触があって――?


「ひぁあ!」


 びっくりして起き上がると、ゴッ、と鈍い音を立てた。佐護君は顎を押さえていて、私のおでこもなんか痛くて、顎に思いっきり頭突きしてしまっていた。


「ごごごごご、ゴメン! 佐護君!」

「いや、いいんだ……でも急に倒れたからこっちもびっくりして……」


 栞さんの次は佐護君にひざまくらをされていたようで、栞さんよりもよっぽど申し訳ない。


「でも本当に大丈夫か?」

「う、うん。もう大丈夫! 平気! ありがとう!」


 安心してもらうためにぶんぶんと腕を振り回してみると、私がなかなかしない仕草のせいか佐護君は笑ってくれた。


「元気ならよかった。それより……」

「?」


 佐護君の視線の先には、桔梗さんが呆然とした表情で立っていた。


「なん……で? 封印されるはず……っ! 私の鍵がないっ!」

「封印? 鍵?」


 佐護君がその単語に眉をしかめる。


「こらー! 桔梗ー!」


 と同時に、住職さんがぬっと現れた。


「なにをやっとるか! 佐護の息子の邪魔しおってからに! しかも自分の仕事もさぼったなぁ!」

「お、おじい様! そんな場合じゃないの!」

「問答無用! 佐護の息子よ、せっかくのアオハルを邪魔してすまなかったな……」

「あ、いえ……アオハル?」

「いやほんとーにすまなかった! どうか気にせずゆっくりしていってくれ。こいつはよく言い聞かせておく!」

「ちょ、おじい様! 耳引っ張らないで! 痛いってば!」


 ずるずると桔梗さんが引っ張られていく。神社を案内してくれた時の神主さんとは全然違う態度にびっくりして、私なんか一言も話せなかった。

 やがてまた二人きりになったけど、桔梗さんが現れる前の空気なんか戻ってくるわけなく。


「……戻るか」

「……そうだね」

 とっくに決着がついているであろう葵と阿部君のもとに、素直に戻ることにした。




「おそーい!」


 戻ると葵はソフトクリームを手にしていて、阿部君も同じものを食べていた。


「あ、葵ずるいよー」

「ずるくないよ、これは勝利の味なの。勝利したものが与えられる特別な、ね」


 と訳わかんないことを言っているが、単に葵と阿部君が競争して、負けた阿部君が奢ることになったらしい。


「それで、どうだった?」

「なにが?」

「ごまかさないでよぉ! 佐護君と二人きりだったんでしょ?」

「えっと、なにもなかった、よ?」


 その他のことはあったけど。心配させたくなくてとりあえずそう答えた。


「え? そうなの? 意外とヘタレ? せっかく二人きりにしたのに……?」


 葵はぼそりと言ったつもりなんだろうけど、その言葉はしっかり聞こえている。


「二人きりってどういうこと?」

「あー、いや、何でもないよん」


 私はてっきり葵と阿部君を二人っきりにするためって話を聞いていたけど。もしかしてそれも違う?


「おーい、そろそろ行くぞ」

「あ、はーい! ほらふみふみも行くよ」


 もし佐護君が私と二人きりになりたくて、今日のシチュエーションを用意したのなら。

 それを想像するとまともに佐護君の顔を見られなくなりそうだった。ぶんぶんと頭を振って一旦忘れ、ズレた眼鏡をかけなおした。



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