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綴文歌は人でありたい  作者: シキ


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3章 桔梗 3


「ふみふみ、グミいる?」

「ありがと、葵」


 研修旅行当日、予報通り天気は快晴で、私達は朝早くバスへ乗り込んだ。

 研修旅行は日帰りで、グループごとに9時から15時までの自由に予定を決める。決められた研修内容(神社、農業、工場などの見学)があってそこは必ず経由しなければならないけど、それ以外は自由行動が認められている。実質旅行みたいなもので、私はもちろんクラスも色めきたっていた。

 葵からもらったグミを口に入れながら窓の外を見ると、雲ひとつない青い空が広がっていた。その空を見ていると、夢だと思いながらも台風を消滅させたのは良かったなとちょっと思ってしまう。


「着いたらまず移動だよね」


 葵も口をもぐもぐさせながら、佐護君が作った日程表を眺める。


「目的地までちょっとあるみたいだよね。バス停とかは佐護君が調べてくれるはずだけど」


 バスは男女で分かれているから今は佐護君はいない。それが分かった時にちょっとだけバスも一緒だったらいいのに的なことを漏らすと、葵に凄いいじられたからもう言わないようにしている。


「お昼は良さそうなとこ調べてあるから、楽しみにしててね」


 研修旅行では、佐護君が日程を作ったように各々担当することが決められている。

 そういう葵はお昼担当。レストランや食堂はもちろん、お洒落なカフェみたいな場所も葵は調べていて、お店が混んでいることも考えて第5候補まで決めていた。なんならお昼を食べてからカフェで一息入れるまでが目標らしい。

 私は記録係、いわゆる書記だ。終わった後に記録をまとめて先生に報告して、その後A3用紙に新聞のようなものを作成する。

 賑わうバスの中、みんながはしゃいでいたし、私も同じだった。神社もそうだけど、佐護君が案内してくれる場所がどんなところなのか、そればっかり頭の中で考えてしまっていた。




 大きな駅の前がスタート地点。私達は佐護君と阿部君と合流し、そのまま別のバスへと乗り込む。


「ここから30分バスで、その後10分くらい歩く。山道だしちょっと大変だけど、休憩しながら行こう」


 佐護君を先頭にバスに揺られ、ちょっと田舎っぽくなってきた窓の外を眺めていると、それほど掛からずに目的地のバス停に到着する。


「冬弥に聞いてはいたけど本当になんもないのなー」


 阿部君の感想の通り、家が点々としているほとんど畑というところで下車する。


「神社は立派だから、こんなとこでも結構人は下りるらしいけどな。ほら、あそこ」


 佐護君が指さした先には、『桔梗神社はコチラ』と手書きの看板と、その横に階段があった。階段の先は山になっていて先が見えない。


「なんか有名な神社って聞いてたから、もっと開けてるのかと思ってた」


 葵の感想に私も頷く。


「まぁ、感想は登ってからいってくれよ」


 少しだけ期待外れな感想を漏らした私達の先を、佐護君は歩きだす。なにやら自信あり気で、ほんとかなぁ、と首を傾げながら私達はその後に続いた。

 10分ほど階段を登る。見上げると葉の先は少しずつ色づいていて、風が葉を揺らしていく。それに夢中になっているうちに階段の終わりが見えてきて、最後の石段を上がった後私達は息をのむことになった。

 まず規模が違った。巨大な朱色の鳥居が視界に飛び込んできて、その奥には大きな本殿がある。本殿は年季が入りながらもしっかりと手入れされているようで、大きなしめ縄が印象的だった。その手前、木々に囲まれるように顔を覗かせている社務所も、何人かの巫女さんが接客中だし、その手前にはちょっとした休憩スペースもある。

 私達の身近にあった神社はすでに壊れかけだったのもあって、大きさから雰囲気まで何もかもが違う神社に、私達は圧倒させられた。


「すごー」

「うん……」

「冬弥んとこの神社とは全然違げぇな」

「それは言わないでくれ……」


 これだけ立派なのに人が少ないから、余計に広く感じられる。私もついつい地元の神社を想像してしまっていたから、心の中で佐護君に謝った。

 私達はまず本殿へ挨拶する。お賽銭を入れ、二礼二拍をしてと手を合わせる。ちらりと横目で見ると、佐護君は慣れたように手を合わせていて、葵はきっと次の大会のことをお願いしていて、阿部君はなんかたくさん念を送っているように見えた。

 私も手を合わせながら、ここに来てからちょっと気にしていたことを試してみる。


 ………………


「おーい、ふみふみー」

「あ、うん」


 気づくとみんなが不思議そうな顔でこちらを見ていた。いつの間にか手を合わせているのが最後になっていたみたいで、慌てて一礼してみんなに追いつく。


「綴、石みてーに動かなかったな!」

「ふみふみそんなにお願いすることあったの?」

「う、うん。そんなとこ」


 後ろに並んでいた人はいなかったとはいえ、みんなちょっと待ってくれたみたいで恥ずかしい。赤くなった顔をぱたぱたと手で扇ぎながらごまかす。

 でも私が気になっていたことに対しては、期待以上の場所なことはわかった。

 後で絶対もう1回試そうと思いながら、みんなの後を追いかけた。




 佐護君のお知り合いという桔梗神社の神主さんは、長く白いひげを生やしていて、教科書でみるような神主さんだった。本殿の中をゆっくり解説してもらって、年末行事でしか入れない場所などまで見せてもらい、まとめるには十分な資料を手に入れた。

 見学は特になにごともなく進んでいたけど、ひとつだけ問題……というか、気になることがあって、それは私だけじゃなく、みんな同じく思っていたはず。


「じーーーーー」


 それは私達が案内される数歩後を、巫女服姿の女の子が追いかけていたことだ。

 柱の陰から頭だけ出してこちらを窺っているのは、私と同じ背丈くらいで歳も同じくらいに見える、ちょっと強気な視線が特徴の可愛い子だった。


「こら、桔梗」


 神主さんが声を掛けるとすぐに頭をひっこめるけど、数分経つとまた視線が刺さるようになる。


「すまんな。いつもはこんなことないんじゃが」

「いや、大丈夫ですけど……どうして見られてるんですかね?」

「同年代の客が珍しいのかもしれん、どうしても桔梗より年上の客が多くなるもんでな。とはいえ、桔梗があれだけ興味を持つのは珍しい。よかったら仲良くしてやっておくれ」


 そういわれ私達の視線が桔梗さんに集中すると、その頭はすぐに引っ込む。

 神主さんは一時間ほど案内してくれたけど、桔梗さんはずっと後ろをついてきた。話しかけようにも一定距離を保っていて、目が合えば隠れてしまうから難しい。

 結局そのまま見学は終わり、私達が本殿の外へ出ると桔梗さんはいなくなっていた。


「なんだったんだろうな」

「私達っていうか、ふみふみが見られてなかった?」

「え、私? そうかな?」

「いや、俺を見てたんじゃね? 一目ぼれされたか……」


 阿部君はカッコつけてそう言うけど、今から告白する人のセリフじゃないと思う。

 それからみんなでおみくじを引いたり、お守りを買ったりして、ある程度やることが終わってから佐護君と視線を合わせる。


「あー、俺ちょっと神主さんに用事あるから」

「私もちょっと……おトイレ借りてもいいかな」


 とあくまで自然に葵と阿部君を二人きりにするタイミングを作る。まだ午前中だけど、競争するならお昼の前の方がいいだろうと、二人の時間を作ってあげることにした。私達の中ではフラれる前提だから、さっさと済ませてほしかったのもある。

 なんだかそわそわしている阿部君を気にしながら、私と佐護君はその場を離れた。


「よし、行こう」

「うん」


 それに私達にもちょっとした約束があって。こっちはこっちで落ち着かない気持ちのまま、佐護君を追いかける。




 本殿の向こう、樹々が生い茂る場所。その合間に一本の道があって、人一人くらいなら通り抜けられるような隙間が空いていた。


「こっちはちょっと紅葉も進んでるんだね」

「あぁ、進むにつれて色づきやすい品種を植えてるらしい」


 奥に入るにつれ、葉の色は緑から黄色になっていく。全体が黄色になるのはもう少し日数が

必要だろうけど、これでも十分色の移り変わりが楽しめる。

 佐護君の後ろを歩いた道の先、到着した場所には赤い小さな祠がポツンとあった。


「こんなところに」

「聞いた話だと、ここが桔梗神社の起源だとか。大昔のことだからわからないけど」

「なんだか絵になるねぇ」


 祠はちゃんとお世話されているのか汚れひとつなかった。小さなお皿にお供え物もあって、この場所が大切にされていることが分かる。

 赤い祠に少しだけ色づいた紅葉。告白するならこういうシチュエーションの方がよかったかも? と葵と阿部君のことを考えながら、この場所を教えてくれた佐護君に振り向く。


「佐護君、ありがと。連れてきてくれて。私ここの雰囲気、好き、かも」

「……おう」


 佐護君は少し視線を外して返事をしてくれた。しばらくお互い無言になる、けど景色も雰囲気も良いその場所では、無言さえも贅沢な時間に変わっていた。

 十分その場所を堪能してから、佐護君に振り返る。


「そろそろ葵のところも終わったかな、戻る?」

「綴」


 あんまり戻らないとそれはそれで心配されてしまうから。けどそれは、佐護君ちょっと緊張した声に消されてしまう。


「……はい」

「いや、えっと……」


 佐護君の声は明らかに緊張していて、その緊張は私にまで伝わってきた。

 え、うそ、これって。

 ちょっと顔を赤らめて、言いにくそうにしている佐護君。さすがの私も、佐護君が言おうとしていることにひとつの予感がよぎる。

 まさか、そんなわけなくて、なんで私に……どうしようどうしようどうしよう!


「お邪魔しま~す」


 緊張が最大まで高まったところに、そんなゆるーい声が響く。いつの間にか私達が来た道に一人の女の子……桔梗さんが立っていた。


「あら? もしかして本当にお邪魔だった?」


 先ほどまで隠れていたところからは予想できない、どこか挑発するような言い方。そのセリフはイタズラな表情が似合う桔梗さんのイメージ通り……じゃなくて。


「……なんで桔梗さんが?」

「あなたのおかげで上手く事が進むわ、まさか魔女を連れてきてくれるなんて」


 その単語にはっとする。


「なんで……」

「もう遅い」


 桔梗さんの口が素早く動くと、私の意識はなにか大きなものに飲み込まれ、目の前が真っ暗になった。



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