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綴文歌は人でありたい  作者: シキ


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2章 佐護 6


 目を覚ますと、一瞬どこにいるかわからなかった。身動きができなくてそういえば寝袋で寝たんだったと思い出す。

 イモムシ状態のままのそりと起き上がると、葵の寝袋はすでに空になっていた。毎朝走ってるから、きっと今日もそうしてるんだろう。

 佐護君はまだ静かに寝息を立てている。昨日銭湯で前髪上げたほうがいいって言われたことを思い出してしまい、なんだか朝から心が煩い。

 と、私がじっと見ていたせいか、佐護君の眼がゆっくりと開いた。私の視線とばっちりあったかと思うと、寝袋のまま起き上がる。

 外から見てるとそれこそ大きなイモムシが起き上がるみたいで、なんだかおもしろかった。佐護君は朝があんまり強くないみたいで、私が寝袋から抜け出す合間もしばらくぼーっとしていた。


「夢を見た」


 しばらくして、佐護君が寝袋から半分出た姿勢でぽつりと言う。


「どんな夢?」

「爺ちゃんが出てきたんだ。この神社のことを、心配してくれてありがとうって言われた……気がする」


 そういう佐護君はどこか放心しているように話す。


「寝たきりになってから何か月も話せてないから、俺も何言っていいかわかんなくて……でも神社のことは気にしなくていいって、そう言ってた。自分の未来を大事にしろって」

「……そっか。お爺ちゃんも佐護君のことが心配で出てきてくれたのかも。佐護君には夢とかあるの?」

「夢?」

「うん」

「……俺、昔から爺ちゃんの跡を継いで神職なるんじゃないかって思ってたんだ。爺ちゃんにも子供の頃によく言ってて、それしか考えてなかった。でももしかしたら爺ちゃんは、それを心配してたのかな」

「きっと神社に縛られないでって、そう言いたかったのかも」

「そうかもな、なんかスッキリした。ありがとうな、綴。綴が誘ってくれないと、きっと爺ちゃんには会えなかったよ」

「わ、私は別に……」


 佐護君はどこかつきものが落ちたように笑ってくれた。その笑顔がなんだか眩しくて、視線を外すことができなくて……。

 しん、と静まり返った神社の中、そこに小さな声が聞こえてきた。


「おーっと、両者いい雰囲気! このまま言ってしまうのか、私の親友は私より先に彼氏を作ってしまうのか? 親友をちょっと取られてしまうような、私の気持ちはちょっとフクザツですが……でも幸せならOKです!」

「高崎……聞こえてんぞ。ちょっとふざけすぎじゃないか?」

「うわっ、マジ? 逃げろー!」


 私はなんだか恥ずかしくなってしまって丸くなりながらも、葵を追いかける佐護君を横目で見ていた。そこにはいつも通りの佐護君がいて、このお泊り会を言ってみてよかったと思った。


 もともとみんなで一泊することが目的だったから、その目的が済んだ後、午前の早いうちに解散した。佐護君は軽く手を振ってくれて、私達も手を振り返す。

 私と葵はお互いの家に泊まっている体で、家に帰るにもまだ早いから、近くのファミレスでモーニングを食べることにした。


「モーニングって初めてかも」

「そうなの? 私は時々するよん」

「そうなんだ」

「うん、休みの日とかに。朝ご飯食べて走って、その途中に安いモーニング出すお店があるからそこでー」

「二回目の朝ごはんってこと?」


 相変わらず葵の生活は私とは全然違ってびっくりしてしまう。


「それより、よかったね」

「なにが?」


 注文してすぐに、半分の食パンとベーコンと目玉焼き、小皿にのったサラダが猫ロボットで配膳される。葵に教えてもらったとおり猫ロボットの頭をタッチすると、喜んでいる表情になって可愛い。


「佐護君、なかなかいい表情になってたよ。神社はきっと壊されちゃうと思うけど、本人が吹っ切れた感じだったからよかったんじゃないかな」

「それならいいけど……」

「それよりあの夢の話って、ふみふみが魔法使ったわけじゃないんだよね?」

「魔法は使ってないよ。けど、あの場所自体が龍脈……わかりやすくいうとパワースポットみたいなものなの。お爺ちゃんが長年神社やってたんなら、その思いがあの場所に留まる可能性はゼロじゃないと思う」

「じゃあ夢に出てきたのってお爺ちゃんの幽霊ってこと?」

「わからないけどね、私にはなにも感じなかったし。でもそういうことでいいんじゃないかなぁ。落ち込んでる佐護君のことを、きっとお爺ちゃんが心配して夢の中に出てきてくれたんだよ」

「……うん、そうだね。どっかのお話にありそうでいい感じかも。佐護君もふみふみに助けられたねぇ。私と同じだ」

「いや、私特になにもしてない……」

「お泊り会って言い出したのふみふみでしょ? それをなにもしてないとはいわせぬぞ~」


 ともあれ、私達の平和な朝ごはんは続く。今頃佐護君も朝ごはん食べてるのかな、となんとなく思った。




 次の週、月曜日のお昼。

 チャイムが鳴って、食堂に行く人、購買に行く人、クラスで食べる人、と三々五々に散らばっていく中、私と葵の元に一人の男子が近づいてきた。


「たっ、たっ、高崎っ!」


 大きなその声に、私はビクリと身体を跳ねらせる。振り返ると、そこには同じクラスの阿部君……阿部康太君が緊張した顔をして立っていた、その後ろには微妙な顔をした佐護君もいる。


「康太君、どうしたの?」

「お、俺と50mで勝負だ! それでもし俺が勝ったら付き合ってもらう!」


 その宣言に、教室にいた誰もが騒めく。それは公開告白みたいなもので、廊下からもなんだなんだと違うクラスの人が顔を覗かせていた。

 葵は一瞬ポカンとしながらも、すぐに楽しそうに笑う。


「その意気や良し! グラウンドで勝負だ!」


 手に持っていたお弁当を机に置いたまま、葵と阿部君と先頭にクラスにいたほとんどの人たちがどやどやと出て行った。私はその勢いについていけず、お弁当を持ったままその背中を見送る。


「綴は見に行かないのか?」


 人の少なくなった教室、佐護君は私と同じく残っていた。


「佐護君も行かなかったんだ」

「あぁ、康太は野球部の中じゃ走るの遅い方だし結果は見えてる。辞めとけって言ったんだけどなぁ」

「私も葵が負けると思ってないから……」


 本当は目の前の展開についていけなかっただけ、とは言わない。


「ま、そうだよな……あのさ、康太も行っちゃったし、他のヤツは学食だから、俺、今日は一人で」

「?」


 ほとんど人のいないクラス、私達のことに注目している人はだれもいなかった。だからこそ、目の前にいる佐護君の言葉の端々に、ちょっとした緊張が潜んでいることに私は気づく。


「よかったらお昼、一緒に食わね?」

「…………うん」


 そのお誘いに、私は緊張しながらコクリと首を縦に振った。



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