2章 佐護 4
佐護君のことを助けたい。決心は出来たけど、どんな方法がいいかは全然思いつかなくて、結局その夜、私は葵に連絡をした。
『うーん、なんとか神社を潰させない方法ねぇ』
「なにかないかなぁ」
『まぁ私が言った手前、魔法はなしでいきたいけど……二人だけの力じゃ難しいよね』
「そうだよね……」
『もし魔法が使えるなら、どんな解決方法があるの?』
「うーんと、神社を建てた当初のピカピカにするとか?」
『佐護君のお父さんはそもそもいらないって言ってるんでしょ? ぴかぴかになっても潰しちゃうんじゃない?』
「ぴかぴかにした上で、ぜったいに壊されないように魔法で障壁を作るとか?」
『壊れない神社としてメディアレビューしそうだね』
「佐護くんのお父さんの思想をちょっと方向修正して」
『はーい、ダメ、ダメでーす!』
葵とあーだこーだ話し合うけど、なかなかいい案は出ず。その内に電話の向こうの葵は寝落ちしてしまい、私が呼びかけても小さな寝息が聞こえてくるだけになった。
仕方なく、私は夜中に家から抜け出す。
私の中にある魔力のせいか、実はあんまり寝なくても問題ない。夜になれば眠くなるし、寝ようと思えば寝れるけど、寝ないと決めたら一週間くらいは活動できそうな気がしていた。こういう時に栞さんが言っていた、私達は人じゃないという言葉を実感してしまう。
誰もいない夜の道を歩く。誰かに見つかったら転移するつもりだったけど、神社までそんなに距離はなく、すぐにたどり着いた。
石段を登った先の神社は、明かりもなく真っ暗でさすがに怖い。葵にちょっと後ろめたい気持ちがありながら、暗闇の恐怖には勝てず、小さな光を手のひらに生み出して周囲を照らす。
神社を目の前に、どうしようか考える。その時気づいたけど、神社自体ちょっと発光しているような気がした。それは私の魔法に共鳴しているようで、神社が龍脈の中に長年存在しているから、おそらく建物が強力なパワースポットになっているんだろう。
こんなに光ってたら目立たないかな……と心配になりながら、ふと神社の中から一つの反応を感じ取る。それはどこか知っている反応で、誘うわれるように壊れかけの賽銭箱を横切り、鍵のかかった扉を『ごめんなさい!』と念じて魔法で開錠し中に滑り込む。
外観に比べて、本殿の中は意外と綺麗だった。もしかしたらこの中もたまに佐護君が掃除をしにきているのかもしれない。
私の気になったのは、その中に置かれている一体の仏像の中にあった。
ここは特に魔力の流れがいいからそれと紛れてわかりづらい。仏像の中に魔力を伸ばしその記憶を回収する。それは神社の中を眩い光で照らし、私はいつかと同じように記憶の中へ吸い込まれた。
「あら、こんにちは」
「栞さん」
「あ、もう私の名前知ってるんだね」
「……なんでこんなところにいるの?」
そこは森の中だった。
草が生い茂り陽の光も遮られているそんな場所で、栞さんは大きな木の下でしゃがみこんでいた。基本的に、記憶の中に移動するときは同じ場所に出るはずだけど、周囲には神社も鳥居も見当たらず、ただただ深い緑しか見えない。
「追手から隠れてるの。この樹、特別力の流れが強いでしょ? 樹に同化することで自分の姿をカモフラージュしてるんだよ。相手は魔力探知してるからね」
確かに目の前の樹には多くの魔力が流れているような感じがする。というかこの周辺も私がいた時と比べて全体的に魔力が多い。なんだか空気まで魔力を含んだ、濃厚な匂いがした。
「でもさすがにもう大丈夫かな。お腹もすいたし」
「どのくらい隠れてるの?」
「3日目くらい」
「3日!? そんなに悪いことしたの?」
「いやいや悪いことはしてないよ。ただあっち側がなかなかしつこくてねー。陰陽道ってわかる? 私みたいな魔法……というか陰陽以外の力はあの人達にとっては全部邪道なんだけどさ、見つかるだけで攻撃されるの」
「陰陽って名前だけ聞いたことあるけど……」
私の中では中国っぽいイメージしかない。安倍晴明とか?
「きっとわからない力が怖いんだろうね。魔法は地球……星の力だから、やり合ったらこっちの方が断然強いんだけど。でも私一人だしさー、束になってこられたらさすがに面倒だし、本気出したら相当な被害になりそうだから、めんどくさいけどこうやって隠れてたんだ。あなたもアイツらには気を付けた方がいいよー」
そういわれても今のところ私の時代にそんな集団はいあい。気にする必要もあんまりなさそうだけど……そんなことを話すと、栞さんは驚いていた。
「へー、陰陽がいない時代が来るんだ……いい時代だねぇ。まぁあなたがいるってことは私はいない可能性も高いけど、ゆっくり過ごせる時代が来るなら、頑張る力が沸いてくるね」
「……その時代に栞さんがいなくても?」
「大事なのは地球が続くことだから。争いは少ない方が、地球にも優しいでしょ? あなたはまだまだ魔力と同化してないみたいだけど、慣れてきたらもっと地球のことも分かってくると思うよ」
魔力還元自体は結構していると思ってたけど、栞さんに言わせるとまだまだらしい。だけどそう言われて、逆に私は安心した。できればあんまり魔力に馴染んでほしくないと思ってるし。
「使えば使うほど、力は馴染んでくるから早くいろいろなことができるようになりたいなら適当な場所で魔法を使いまくるのがオススメだよ、先輩からのアドバイス!」
「うん、覚えておく」
「精進したまえよー。……さすがにそろそろアイツらも近くにいないかな。念のためここにたどり着けないようにする魔法も使ってたんだけど、いらなかったみたい」
栞さんが軽く手をふると、ちょっとだけあった違和感が消えた。ずっと魔法を発動しっぱなしだったらしく、栞さんは少し疲れた顔で伸びをする。
「さすがにお腹空いたし、なんか美味しいものでも食べにいこっかな! ……の前に」
栞さんが歩くと、なんと目の前の木々が場所を空けるようにズレる。それはきっと栞さんの魔法で、私が見てもどういう風にやっているのかさっぱり理解できない。
でもその魔法のおかげで、鬱蒼した森の中でも歩きやすかった。後ろを振り返ると樹が根を下ろしている場所は変わっていないように見えて、歩いてきた道はなくなっているからまさに魔法のような光景だった。
森を突っ切る栞さんの後をついていくと、少し開けた場所に出る。その真ん中には杖を抱えたままのお爺さんが倒れていた。
「やっぱり。なんか反応あるけど動かないなーと思ったら……きっと私の魔法に迷い込んじゃったんだね。入口も出口も見つからない魔法にしてたから」
「生きてますか?」
「まだ大丈夫、気を失っているだけだね。この人は私が送るよ」
その光景を見ながら、私はなにか違和感を感じていた。こんな話、つい最近聞いたような?
「ゲホッ、ゲホッ」
栞さんに抱えられていたおじいさんが激しくせき込む。
「もーお爺ちゃん大丈夫?」
背中をさすられるお爺さんはうっすらを目を開く。けどだいぶ消耗しているみたいで、ほとんど意識はないように見えた。
「ぉぉ、神よ……」
と一言小さく呟いて、お爺さんはまた気を失ってしまった。
「お爺ちゃん? おーい? 息はしてるか……私、神様に見える?」
「えっと……」
後ろを振り返ると、朝日が森の向こうから昇り始めていて、辺りをオレンジ色に染めていた。その日差しを背負っていれば、まるで神様みたいに見えるかもしれない……かな?
「……本当に神様じゃなかったんだ」
そしてこの話を教えてくれた佐護君に、本当のことを言うべきかどうか私は迷った。




