7話「逃げたい気持ち」
一度くらいなら経験したことがあると思うが......朝、行動を起こすよりも先に、計画を練ったことが何度かあることだろう。
あれをして、これをして、ここまで行けたらいい。
そんな感じで計画すると思う。
中には具体的にランニング30km、腕立て伏せ200回などと計画をするやつもいるだろうが...大多数は、曖昧に計画を練るはずだ。
そして......脳内で計画を練っている時の自分はスムーズに動けていることだろう。
AをやってBをやって....Cまで行って...まだ時間があまりそうだったら...他のこともしよう。
そんな感じに思考を終えるのではないだろうか?
だが......なぜか計画通りに動けないことの方が多い。
そう体感している人間が遥かに多いだろう。
現に......俺も最初はそんな感じだった。
では......なぜそうなってしまうのか?
推測するに......外的要因を一切考慮していないのが理由だろう。
例えば、Aというパンを買おうと計画するのはいい。
だが......店に着くと誰かが先に購入していた、もしくはまだ品出しされていなかった、そもそも商品自体がなくなっていた。
などの要因が重なってしまうことがあり、その時点で計画は破綻することになるだろう。
もし.....完璧主義の人間であれば、自分は計画通りに動けない人間だと、ここで自分自身に言いつけてしまうことだろう。
......でも仕方ないと俺は思う。
世界は俺達の理想通りには絶対に動いてくれないし、
運がいいように見える人間も、実際は裏でとんでもない苦労と行動をしていたお陰でその結果が起きただけであって、苦労しない人間には幸運など訪れるはずもない。
俺達は自分の理想通りに、世界が動いてくれると誤認しているからこそ......その理想通りに動けない自分に、今の俺のように、イライラするのだと思う。
「......あぁ、面倒くさいな......。」
スッと行けると思っていたんだ。何事の弊害もなく。カグヤの家に。
だが......自分の理想とは裏腹に、目の前にいるのは狼の群れ。
ふざけてんのか?そう文句を言いたくなる。
「『月天の輝塵』1kgで、ここら一帯お前らごと焼き払ってやろうか?」
眉間にシワを寄せ、口角を下げながら、俺はそう呟く。
もし、この地域に善人がいないかつ、世界にとっても不要な土地と言われれば、俺は即刻でエネルギーを解放していることだろう。
そう考えてしまうほどに、今の俺は精神的に限界だった。
「ユウ...それは流石にやりすぎじゃない?1kgだと、威力が4メガトンになっちゃうよ?1km以上の巨大なクレータが出来るし、半径20kmくらいの建物、自然が衝撃波で破壊されるし、何より......カグヤちゃんの家もろとも消滅しちゃうよ?」
「......そんなことはわかっている、本当にやるわけないだろ......それくらい面倒だと思っているってことだ。」
改めて自分の術式について、おかしいと思った。
なぜ一個人が、それほどまでに巨大なエネルギーを発生されられるのか意味不明でしかない。
だからこそ...アゼルの存在は、間違いなく俺にとって必要不可欠だった。
まぁ...そもそもの話、こいつがいないと、そのまま地獄に行っていた可能性が遥かに高いんだよな...。
そうだと仮定した場合、アゼルは俺の命の恩人ということになる。
「アゼル......ありがとうな。」
そう思ってしまった以上、自然とアゼルの体を撫でていた。
想像外の俺の行動にアゼルが多少困惑していたものの、気持ちがいいのか特に不満を言われるようなことはなかった。
「うんっ、...ユウ、どうかしたの...?」
「いや...何でもないさ。」
この数時間で、何匹の狼と俺は戦えばいいんだ?
『月天の輝塵』で爆殺することを何度やればいいんだ?
なぜこの世界の生物はこれほど凶暴なんだ?
そのような質問を、アゼルに小1時間ほど問いただしたいさ...。
「ユウ、後方4時の方向から一匹来てるよ。」
ふつうなら...戦闘中に思考に耽るなどやってはいけないことだが...俺には、アゼルというとても頼りになる相棒がいる。
アゼルの言葉を聞いて瞬時に思考を切り替えた俺は、チラッと後方へと視線を向ける。
一匹の狼が、音を殆どたたせることなく、突進してきていた。
俺は気づいていないフリをして、数秒ほど待ち、狼の攻撃が俺に当たる直前で、ぐるっと方向を転換して、狼の速度と俺の肉体+魔力強化した手刀で効率的に、突進してきた狼の息の根を止める。
発泡スチロールを手刀で貫いたような感触だった。
左手からは、血と臓物の生暖かい感触が伝わってきて気色悪い。
俺は、すぐに左手を引っこ抜き狼だったものを、群れのボスらしき個体の前に投げ飛ばす。
そんな俺の行動に、狼達の群れからの空気がズッシリと重くなった。
チクチクと肌に突き刺さるような殺気だ。
「ふふ、狼との戦闘にはかなり慣れてきたみたいだね。それに、戦い方も凄く効率がいいね。」
「当たり前だろ、もう何度戦っているのか......」
「殺した数で言えば、今のを合わせて47匹目だね。」
「......具体的な数値を言うのはやめてくれ......」
アゼルのその言葉を聞くだけでも、反吐が出てくる。
「そもそもの話、『月天の輝塵』の威力が強すぎるんだよ...。なんで1gの粒子がTNT換算6tのエネルギーを持つんだよ...。もっとこう...威力を微調整出来るとかさ...。」
いつにも増してイライラしている俺は、とうとう自分の『月の支配者』にすらも文句をぶつける始末だった。
最低値の攻撃がTNT換算6t?どこの世界の魔王なんだよ......。
「仕方ないね、ユウはまだ覚醒したばかりだもん。微調整が可能になるのは当分先だと思うよ。」
アゼルはとても冷静だった。
実際、ボスが数の暴力を使って、俺を殺しにこないのはアゼルがいるからだろう。
子分たちは口元から牙を剥き出しにしているが、ボスだけは冷静だった。
今の俺達の行動を見て、受け身に回るのが正解だと認識したのだろう。
警戒するような視線をとかないまま、子分達の動きを静止させていた。
.......そんな冷静な判断が出来るなら逃げろよ...。ボスにはそう言ってやりたい。
「当分先か.......。だが...まだマシな方だな。威力は増加よりも、減少させる方が遥かに簡単だ。すぐに慣れてやるさ。」
絶対零度は-273.15℃しかないが、対するプランク温度(物理上の最高温度のことだ)は約1溝4168穣℃(141,000,000,000,000,000,000,000,000,000,000そのまま数字だけで表すとこうなる)であり、この数値を見れば威力を下げる方が遥かに簡単であると思えるんじゃないだろうか?
まぁ...極端すぎる話かも知れないが......それについては寛大な心で許してほしい。
「うん、その意気だねユウ。今は時間も差し迫っているし今回は特別に、僕がなんとかしてあげるね。だからもっと強く、かっこよくなってね。」
「何とかする?...どうやって_____」
アゼルは確かに強いが、攻撃面で言えばそれほど脅威を感じない、というのが俺の見解だった。
言うなれば、究極の防御兼サポーターとしての側面がアゼルの本質だと思う。
だからこそ...アゼルがどうするのか、俺にはわからなかった。
「後天的魔法術式『風撃』+『因果の転移』+『悪魔の証明』。」
アゼルがそう宣言すると同時に、俺の耳にビュッ!と強い音が響いた。
......うん?今何か音がしたか?
あまりにも一瞬すぎる出来事であったため、何が起きたのかさっぱり理解出来なかった。
「ユウ、もう終わったし行こっか。」
放心状態にいる俺を完全に無視して、アゼルは流れを進めようとした。
「いや、まだ敵がいるだろ?」
アゼルがそう言うものの、俺の周囲を囲うように今だに敵がいる。
なぜアゼルがそんな言葉を言ったのか、本当に理解できなかった。
「ふふ、その必要はもうないよ。もう死んでるしね。」
「はっ?どういう______っ!?」
突然だった。
アゼルの言葉によって、世界の物理法則が動き出したかのように......
周囲に存在していた狼達の胴体が______”切断”されていた。
子分たちは何が起きたのか理解出来なかったのか、俺と同じにように固まった表情のまま切断され、
ボスだけは直感で危険だと感じたのだろうか?
最後に避けようと体を動かしていたが、その程度避けれるほどアゼルの攻撃も甘くはなかった。ボスだけは子分達とは違う表情だった。
体が崩れていく直前、一瞬だけボスの瞳がこちらを見たような気がした。
「ふふ、流石のユウも驚いているみたいだね。『風撃』は比較的強い程度の風をぶつけるだけの、『火炎球』と同じ、多くの人間が最初に学習する魔法の一種。本来そこまで強くない技なんだけど、僕の権能で”速度”を強化して、さらに確率操作で拡散するエネルギーを、一つの線上に収束させることで、今みたいに超音速で飛来する見えない斬撃みたいになるんだよね。『風撃の刃』って僕は呼んでいる。」
アゼルは今やったこと淡々と説明した。
さも普通の技のように使ったが......少し言いたい。
俺は周囲に広がる死体の山を、一度グルッと見渡した。
「......酷い技だな...。流石に...連発は無理だよな?」
あまりにも不条理過ぎる現実に、そう問いただしてしまう。
アゼルは、うーん...と唸ったあと、
「流石に連発は無理だけど、一日に頑張れば千発くらいなら撃てると思うよ。さっきのはユウの体を起点として、円が広がるように風を飛ばしただけだね。」
「風を飛ばしただけと聞こえはいいが......実際は、見えない不可視(のように感じる)の斬撃だろ?それを一日に千発だと?やっぱりアゼルは化けも......んじゃなくて凄いな...流石は俺の相棒だ。」
ある単語を言いかけてしまい、アゼルからドス黒いオーラが漏れ出したように一瞬だけ感じたが......誰かが噂していて、俺の脳細胞が勘違いしたんだろうな。
そう思うことにした。
「ユウ、早く行こうよ。カグヤが待ってるよ。」
僅かに機嫌が落ちたのか、アゼルの言葉はどこか淡々としていた。
「......わかっている。...助かったぞ、アゼル。」
抵抗されることを承知で、感謝の意を込めてアゼルを優しく撫でた。
抵抗.....するような素振りは見せず『...これくらいは当然...』と呟くだけだった。
アゼルの態度に安堵したはずだが......それでも俺の心の中から消えることなく渦巻いている感情があった。
......時間が経っても......この逃げたいという気持ちは変わらなかった。
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