3話「地球の双子」
鬱蒼と生い茂る森の中を、俺は弾丸の如き速度で駆け抜けている。
本来、夜の森の中を駆け抜けるなど馬鹿のやることでしかないが......俺は『修羅』との戦いを始めてから夜の森で行動することが極端に増えていた。
そのおかげだろうが、夜でも月が出ていれば朝に匹敵はしないまでも、一般人よりも素早く移動することが出来るようになった。
そんな道中で、またしても狼やオークなどに遭遇するものの『月天の輝塵』を使って瞬時に殺戮していく。
俺が走ってきた道のりはそれだったものの塵灰で地獄絵図になっていることだろう。
まぁ、死体の塵灰は生物の栄養になるだろうし...片付ける必要など皆無だ。
そんなことを時折考えながらも、脳のリソースを足元と周囲に気を配ることに使っていたため、思考ということを殆どしていなかった俺だが、
フッ、と疑問が湧いてきたため、その疑問を解決すべく徐々に速度を落としていき、数秒後には完全に動きを停止させることにした。
歩いたままでもよかったが、難しい計算をしなければならない可能性を考慮して断念することにする。
「ユウ...?」
アゼルからすれば唐突に、理由もなく俺が動きを停止したかのように感じるだろう。僅かにだが困惑しているのを言葉のトーン感じる。
『少し考え事だ。』アゼルの体を右手で優しく撫でながらそう一言伝えておく。
俺は、まだ困惑しているアゼルに少し悪いかも知れないが、本題に入る前に聞いておかなければならない必要事項をいくつか聞くことにする。
この必要事項を聞くことで、俺は本題に入ることが可能になる。
「アゼル、この星の自転周期と公転周期、自転軸の傾きについて教えてくれ。」
俺が聞きたかった必要事項は、この星のデータについてだ。
何だその質問......と思うかも知れないが少し考えみてくれ。
...ここは地球とは違う異世界だ、つまり”俺達が知っている基本的な常識とは違う可能性が大いにある”。
少し面倒くさいかも知れないが、基礎は何事にも重要なこと。
基礎なくして応用なし、だ。
「えっ?...ちょっとまってね......自転周期が23時間58分。公転周期が365日。自転軸の傾きが23.6度だね。」
質問の意図が一瞬理解出来なかったアゼルだったが...流石は悪魔だ(関係あるのか知らないが)、簡潔にこの星のデータを教えてくれた。
俺は顎に手を添え、さらなる質問を厳選しながら思考を整理していく。
「地球とほぼ同じ数値か...ならば、地球での生活のまま過ごすことが出来るな。じゃあ次に、この星の大きさと、重力加速度と、大気の組成を......」
俺は疾風怒濤の如くアゼルに質問を投げかける。
「ちょっとちょっと!?質問が多いよ!?えぇっと......星の大きさが半径6400km...重力加速度が9.8m/s²...大気の組成が窒素78%、酸素21%、アルゴン0.9%二酸化炭素0.04%だね。」
質問に質問をぶつけたため、アゼルが翅をパタパタと動かして焦っていたのは少しだけ面白かったのは言うまでもない。
小数点以下の正確な数値がないのは...正確な計算をするのが難しすぎるからだろか?
まぁ......単純に割愛しているだけかも知れないか...。
その点については、この世界の文明レベルを知る必要があるため、現状不明だ。
それにしても...アルゴンまで近しい数値とはな...。アルゴンは殆ど化学反応を起こさない元素であり、カリウム40という放射性物質が何十億年もかけて崩壊したものだ。
そのアルゴンまでもが近い数値であるということは、この星の地殻成分や星の年齢が地球と殆ど大差がないことになる。
『地球の双子』と呼んでも違和感を感じないほどだな。
「自転周期と自転軸の傾きが少し違うが.....こちらも俺が住んでいた地球とほぼ同じ数値。なら...学習した計算式をそのまま当てはめても誤差は殆どなし。....特に変わっている数値としては...月とこの星の距離くらいか。...ざっと...34万kmと言ったところか。となると...月の公転周期が変わるから...満ち欠けの周期は約24〜25日。...皆既日食の時も...この距離であれば完全に太陽を覆い隠すことになるし...金環日食が消滅することになるな...。」
夜空に浮かぶ月を眺めながら、改めて俺という存在が地球とは違う星に生きていることを実感する。
アゼルは月の満ち欠けによって、俺の魔法と権能の出力が増加すると言っていた。
まずは...この世界の満ち欠けに、俺の体を無意識レベルで適応させていく必要がある、それが出来ることで無意識レベルで脳が勝手に計画を立案してくれるようになるだろう。
「ユウ...どうやって月とこの星の距離を測ったの?そんな権能は『月の支配者』にはなかったはずだけど...」
俺の言葉を聞いて気色悪いものでも肌で感じたのだろうか?
アゼルが若干引き気味で、俺にそう質問してくる。
近かった声も、僅かにだが遠く聞こえてくるのは気のせいだろう...。
「わざわざ『月の支配者』に頼る必要などないな。地球よりも4万km近いと直感でわかるんだ。それに......感じるだろ?月の引力で地球よりも0.数g体が軽いと。」
そう言うものの、アゼルは地球で過ごしていないためわかるわけがないと、自分でツッコミを入れる羽目になったのは言うまでもない。
「えぇ...それはちょっとキモ......いや、凄いね!流石はユウだと、僕は感心したよ!」
アゼルの口から一瞬、悪口を言われたようなそんな気がするが......まぁ、問題ない。
”慣れて”いるしな。少し言われた程度では、俺の心は何一つとして揺さぶられない。
慣れとはある意味では恐ろしいものだ。
「だが......そうなると問題が起きるな...。」
この世界は地球と殆ど同じ、だからこその問題が起きる。
「えっ?問題?どういうこと?」
アゼルなら数%の確率で理解してくれそうだったが...まぁ数%だしな。
今の俺がいる世界線とは違う並行世界の一つの可能性のどこかでは、これだけの質問から理解してくれる察しのいいアゼルがいることだろう。
俺は必要事項を聞いたうえで、すぐに本題に入ることにした。
「もしこのペースで進めた場合、カグヤの家に辿り着く時間帯がP.M.11:00頃を過ぎる可能性がある。なんかこう...違くないか?それに...夜に帰りでもすれば迷惑をかけることになるだろうし...そう考えた場合、それまでどのようにして時間を過ごそうか、とな。」
キモいと言われた腹いせに、左肩に乗っているアゼルを優しく抱きかかえてから
ツンツンと人差し指で顔に触れてみたりした。
「えぇ、別に夜でも問題ないと僕は思うんだけどなぁ...」
抵抗する素振りを見せるかと思いきや、なぜか一切の抵抗をせずに受け入れているアゼルがいる。
......可愛いなコイツ。小動物みたいで愛嬌があるため、アゼルと一緒に行動することを選んでよかったと確信するのに十分だった。
「すまんな、日本では夜に訪れるなど論外なんだ。まぁ、諦めてくれ。」
別にこの世界の文化に俺が合わせる必要はない。
お前たちが俺に合わせればいいだけの話だ(強欲)。
「どうせ...カグヤに会うのが恥ずかしいからでしょ?素直になればいいのになぁ、ユウも。」
ボソッと俺の耳がギリギリ振動をキャッチできるくらいの声量で、アゼルが呟いた。
「うるさいな...さっき泣いていたやつが母親ヅラを見せるな...。」
本音の一部を言われてしまった俺は、瞬時に冷静さを失い対抗するようにアゼルにそう話しかけていた。
「......ユウ...それ一番言っちゃいけないことだよ?......覚悟は出来てるの?」
穏やかなオーラから一変、殺意マシマシのドス黒いオーラをアゼルは放った。
「いや、俺は事実を言っているだけだ。俺が百悪いわけじゃ____っと!?」
俺が言葉をいい終えるよりも早く、人型の姿へと変身したアゼルが俺に攻撃をしてくる。
「ったく......お前も俺も変わらないな...」
「それは嬉しい言葉だけど、容赦しないからね。」
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何がどういうことなのか......ここで少しの時間、回想に入ろうか。




