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2話「後悔」




背中側から吹く風の影響で、後方に存在する森からの草木の香りと海からの磯の香りが交じりあい、この世界に今生きている、そう実感出来る。


温度も25℃前後のため、満月を見上げるには丁度いい環境だ。


だが......それを妨害するかのように、環境にノイズが入り混じっていることが許せない。


折角のいい空間が台無しになるからだ。


だからこそ、隣で涙を流している女に対して、俺は話しかける。


「......いつまでも泣くな。俺は静かに満月を眺めていたいんだ。......死んだ人間にそれ以上固執し続けるな、死んだ人間は二度と戻らない。それくらいお前達ならわかるだろ、馬鹿じゃないらしいからな。」


顔を(しか)め少しだけ不快感を(あらわ)にしながら、砂浜に膝をついている女に対して俺はそう話しかける。


ついでにさっき言われた馬鹿という言葉の皮肉も込めておいた。


女は少しだけ、キッとこちらを(にら)んだあと


「うっさい、あんたの方こそ黙っててよ...」


なぜかは知らないが、怒りの感情を(あらわ)にしながらそう文句を言われてしまう。


一方は膝をつきながら涙を流し、一方はそれを見下しながら冷徹に言葉を投げかけている。


...この絵面だけ切り取れば完全に俺が悪に映ってしまうだろう。


「......なぜ俺が黙る必要があるんだ.....。」


どう反応していいのかわからなかった俺は、自然と口からそう零れていた。


誰がどう考えても泣いているこいつが悪いだろうに......


意味が理解出来ず少し項垂れていると、トコトコとアゼルがこちらによって来ていた。


「ユウ......女心が全然わかってないね!昔から、モテなかったんじゃないの?」


悪魔の如く、恍惚とした笑みを浮かべながらアゼルが上目遣いでそんなことを言ってくる。


「さぁ...どうだろうな...彼女がいたかもしれないぞ?」


俺はアゼルと合わせていた視線を逸らし、夜空に存在する満月へと視線を向ける。


神々しいそのフォルムは、地球よりもさらに美しく感じる。


......やはり.......少しだけ、満月の大きさが()()()()()大きく感じる。


前の世界よりも、少しだけ近い距離に月が存在するのかも知れない。


そんなことを月を見ながら考えていると、唐突に全身を駆け巡るように猛烈な不快感が稲妻の如く走った。


「っ!?......おい、アゼル。俺について解析するのはやめてくれ...。」


俺はアゼルの方に向き直り、少し強めの語彙でそう懇願する。


さらに構えを取りながら、それ以上解析すると攻撃をするぞという意志を伝える。


......というか、本当に不快だからやめてほしいんだよな...解析...。


「えぇー、絶対にモテなかったと確信しているんだけどなぁ......ごめんね、どうしても確認したくって。」


ごめんね、と謝るものの、アゼルの表情はとても不満そうだ。


俺はそれを認識しながらも、この世界の不条理を一つ確定させる。


「プライバシーがあったもんじゃないな......。」


地球であればそのようなこともなかったが、この世界は地球ではない。

魔法という超常的なものが常識として世界に存在しているのだ。


地球のままの常識であれば...すぐに死んでしまうことは明白。


早急に、思考をシフトチェンジしていく必要があるな...。


特に...アゼルの解析については、どうにかしてもらいたいものだ。



「もう......何なのよ...あんた達...」



二人で言い争い(?)をしていると、女の声が静かな静寂の空間に響いた。


俺は、アゼルから女へと体を向き直し、問いかける。


「もう別れは済んだか?......人手が足りないなら、埋葬、火葬くらいは手伝ってやるぞ。」


ただ淡々とした感情のまま、女に対してそう伝える。


いつまでも泣き続けている女に対して、沸々と怒りが湧いてくる。


......お気に入りの高い服を、車が上げる水しぶきのせいで汚された時くらいの怒りだ。


「あんたに手伝ってもらう必要なんてない...。......もう、本当になんなのよ...あんたは...力も、性格も...私達が知らないものだし......ずっと隠していたの?」


瞼から零れ落ちる涙を、服の袖部分でゆっくりと拭き取り、こちらを見てくる。


俺は質問に対して少しの間、思考したあと


「さぁな。そんなの問題、お前達からすればどうでもいいはずだろ?ただ俺をサンドバッグ(前の人格のユウを)としか認識していなかった、それが自分よりも格上だと理解した途端にその質問か?......典型的なクソ野郎だな。......俺は、もう少しだけ月を見ていく予定だ。お前達はとっとこの場から消えてくれ。邪魔..._____なんだ?...まだ何か言いたいことでもあるのか...?」


喋り終えたため、やつと視線を合わせて、邪魔の意志をはっきりと伝えようとしたのだが......女が何かを、言いたそうにしていたため、話しやすいようにそう問いかける。


...これ以上時間を潰されるのはたまったもんじゃない。


「......あんたは人間なの?...悪魔なの?」


上目遣いでこちらを見ながら、そんな意味不明な事を言ってきた。


予想外すぎる方向の質問だったため、少し返答に遅れてしまう。


「......人間だが?その...なんだ、化け物を見るような目でこちらを見てくるな...。俺はこいつと違って普通の人間だからな。」


隣に立っているアゼルの頭をナデナデしたり、髪の毛をぐしゃぐしゃしたりしながら女の質問に対して、そう返答する。


チラッとアゼルの方を見てみると満更でもないご様子で俺を受け入れてくれているのを恍惚とした表情と口元から漏れ出るえへへ...///という言葉から、感じる。


...妖艶な雰囲気を醸し出しているが...その本質が悪魔であることを忘れないようにしないとな...。


いつか心も体も喰われてしまいそうだ。


......よし、もうやめよう。


少しだけブルッと体の芯が震えた俺は自然とアゼルから手を離していた。


アゼルが名残惜しそうこちらを見てくるが......悪いな。


俺の理性を保つことの方が遥かに大事なのだ。


そんなアゼルとの攻防(?)を繰り広げていると、女が俺達を冷めた目で見ていた。


「あんたが普通の人間なわけないでしょ......頭おかしいんじゃないの?...あんたは、人の皮を被った悪魔、そうでしょ?」


「おい...それは流石に言いすぎだろう...。俺であっても、その言葉は落ち込むぞ......」


あまりにも酷すぎる言葉に殺意を少しだけ込めることにした。


少しくらいなら許されるだろう...。....許されるよな?


と、俺がそんなことで自分と格闘している中


「それに関してはキミに同感だね、だって...殺した人間の埋葬を手伝おうか?なんて僕でも言わないもん。ユウは...悪魔以上に、悪魔の素質があるね!悪魔である僕が言うから間違いないね。」


味方(?)であるはずのアゼルが、何故か敵側にまわっていた。


「......そうかもな...。」


しかし...アゼルの言葉と女の言葉を改めて心の中で思案してみると...


思い出したくもないが......両親についての記憶が呼び起こされることになった。


......父からは大きな紫色の痣や骨折する程のいきすぎた暴力に、精神が何度壊されたのかわからない罵倒の数々。


母からはあまりにも過剰すぎる勉強の強制と、規律の強制、塾の強制

などを受けたものだ。


簡潔にこう表現しているが、実際は他者が思う数倍以上に地獄そのものだった。


何度自殺を図ったのか、何度精神と肉体がボロボロになったのか、最早数え切れない程。


しかし......皮肉なことに、それのおかげで身についた力は今の俺の自身に繋がっている。


それが、俺にとっていいことなのか、わるいことなのか、イマイチよくわかっていない。


だが、一つだけ確かなことがある。


そんなクソ共の血が俺には入っているという事実があるということ。


子供というのは、親を選ぶことが出来ない運命を受け入れなければならない。


それが例え、クソ共であったとしても。


「ユウ......?」


表情に出していたつもりはなかったが、僅かな空気の変化でも察知したのだろうか?


アゼルが若干だが心配そうな目で、不安げにこちらを見てくる。


俺がふざけている(?)時は、アゼルもふざける。

俺が真剣な時は、アゼルも真剣になる。


なんともアゼルらしい性格、だと思う自分がいる。


「...何でもない、ただ少しだけ昔を思い出していただけだ。」


アゼルから視線を逸らして、再び夜空に浮かんでいる満月を視界に収める。


......やはりだ。


じっくりと観察してみると、地球よりも月の大きさが若干だが大きいように感じる。


......少し違和感だが......まぁ、月であることに変わりはない。


見かけの大きさが違えど本質は変わらない。


そんなことを月を見上げながら考えていると______脳内に美しい声が響いた。


『ふふ、どこの世界でも...あなたの正義は変わらないようですね。あなたがその力をどう扱うのか、......今からとても楽しみにしていますね。私はずっと、あなたを見守っていますよ。』


脳内に直接語りかけるように、アゼルでも女の声でもない存在の声が響く。


「......あんたを楽しませられるかは不明だが......やってやるさ。どこの世界であろうとも、俺のやるべきことに変わりはない。」


声の主......謎の存在ではあるが、声から敵意や憎悪は感じない。


誰であるかは不明だが、一つ確かなことは、俺の術式に関係しているということだろう。




   *




「____さて...そろそろ行くか。」


謎の声が脳内に直接響いてから、5分ほど。


戦闘で疲弊した体力が回復したのを感じたため、早速行動に移そうと考えたわけだ。


.......もう少し休憩してもいいのでは?


そう思う人間もいるだろうが......


今の俺の状況を察してほしい。


何も知らない世界。


アゼルとかいう悪魔の存在。


月の支配者(ツクヨミ)』というあまりにも過剰過ぎる力。


魔法に魔力に......色々と知りたいことが山程あるということがわかるだろう。


そんな状態の時に、休憩できると思うか?寝れると思うか?


......無理だな。


逆に頭が活性化しすぎていて眠れない。


それに......なぜか知らないが『月の支配者(ツクヨミ)』に覚醒してからというもの、気分がすこぶるいいのだ。


なぜ気分がいいのか......もしかすると『月の支配者(ツクヨミ)』の『月天の(ルミナス・)摂理(セレスティアル)』の効果であることも否定出来ないが...


まぁ、それに関してもこれから知っていけばいいだろう。


俺は、砂浜に存在しているシャレル(だったもの)、金髪の女、アゼル、岩陰に隠れている二人...をそのままに、大海とは正反対の位置に存在している森の中へと足を踏み入れようと、移動を開始し始めたのだが...


なぜか俺が歩くと同時に、続くように砂浜を蹴る、ザク、ザクという音が聞こえたため、後ろを振り返ると俺に従うようにアゼルが歩いてきていた。


俺は眉間にシワを寄せながら、顔を(しか)める。


「まさか......お前も付いてくるのか...?」


アゼルからの否定の言葉を望んでいると...


「うん、僕もユウに付いて行くよ。」


と望みとは正反対の言葉を言われる。


......アゼル。


こいつ自身が言ったように、こいつは悪魔だ。


地球上で15年生きたからこそのレッテルかも知れないが、最悪の未来しか想像出来ない。


そんなやつが付いてくると?

いつ爆発するかわからない爆弾を抱えているようなものではないだろうか?


そんなことを考えていると...


「ユウはこの世界について何も知らないよね?魔法についても、魔力についても、自分の先天的魔法術式の『月の支配者(ツクヨミ)』ですらも。それに、さっきの戦闘中、ユウは『月天の輝塵(セレスティア)』を使用したけど、僕が『因果律(ロジカル・)の箱庭(コンストラクション)』の『因果の(バタフライ・)転移(エフェクト)』を使用していなかったら、威力が強すぎてユウは確実に死んでいたんだよ?それでも......僕の存在は、いらないのかな?」


まるで俺の心の中を見透かしたかのように、アゼルという存在がいかに俺にとって重要であるのかを、プレゼンしてきた。


それも......俺にとってもっとも重要かつ無視出来ないものであるため、一瞬にして俺とアゼルの立場は逆になる。


「確かにな......アゼルがいないと実質俺は詰みみたいなものか...。」


アゼルが言ったように...俺はこの世界に関しての知識について殆ど知らない赤子のようなもの。


そんな状態の中で一人で行動する。


アゼルという爆弾を抱えている以上に危険な可能性がある。


結局のところ、どちらの選択肢も俺にとって地獄でしかないということだろう。


「それに......僕がいると...華やかでしょ?ユウ一人だけだと、化け物みたいだしね!それを僕の可愛さで緩和してあげるよ。」


ここぞとばかりに、アゼルが可愛さをアピールしてくる。


......くそ...少しだけ、可愛いと思ってしまう自分が少し情けないな...。


俺は、若干アゼルの表情に心を揺さぶられながらも、未来を冷静に想像した結果......


「わかった。これからよろしくな、アゼル。」


「うん、よろしくね、ユウ。」


アゼルを受け入れることを選んだ。



この選択が良かったのか、悪かったのか。


それはいつまでも経っても結論を出せなかったが......


隣に、相棒と呼べるような存在がいる。


それがいかに恵まれていることなのかを俺は理解することになる。




   *




「僕...少し疲れてきたし...ユウの肩に座らせてもらうとするね。」


悪魔でも疲れるのか?


と聞きたかったが...今のアゼルを見てみると...瞼をパチパチとしていてとても眠たそうだった。


...俺を召喚したからだろうか?


聞いてみたいものの、今は脳を使わせるべきときではないだろう。


だが......どうしても聞いておかなければならない質問が一つだけ存在している。


「......俺の肩に座る?...お前は俺の肩をぶち壊すつもりか?」


どう考えても無理だろ。


いくら小さな身体とは言え、アゼルの身長は140cmほどはあるんだぞ?


それを肩に乗せて歩けと?


......俺は刃◯のように筋肉質ではないんだぞ...。


驚いている俺とは裏腹に、アゼルはとてもニヤニヤしていた。


「ふふ、大丈夫だよユウ。ユウが今考えているようなことにはならないから。

それに...ユウから重いって言われるのは僕も嫌だしね。」


と、悪魔とは思えない乙女のようなセリフを言ってくる。


「...でも...どうするんだ?お前を肩に乗せて歩くなんて絶対に無理だぞ?......それが可能な魔法でも使うのか?」


そう。


この世界は地球とは違う。


魔法という超常的な力が存在している世界。


そうであるならば、そのような非現実的なことも可能だろう。


...地球で形成された思考形態を再構築したいものの...15年の月日を経て形成されたそれは簡単に再構築出来るようなものじゃないようだ。


アゼルは顎に手を添わせて少しの間思案したあと、


「魔法や権能の応用で出来なくもないけど......それよりももっといい方法があるよ。それも圧倒的に効率がいい方法をね。」


「魔法や権能よりもいい方法...?」


頭上に『?』を浮かべながら俺の口元からそう言葉が零れる。


魔法や権能の他にも、便利な力だったり道具があったりするのだろうか?


アゼルは俺をみて、ふふっと笑ったあと、


「仰天して、倒れたりしちゃだめだよ?」


「...何だ、何をするんだ...?」


嫌な予感がした俺は、自然とアゼルから一步後ろへと足を引いていた。


アゼルはそんな俺をみて、口角を上げて、頬をほころばせた。


「そんなに身構えなくても大丈夫だよ、()()()()()()だしね。」


「変身?」


その言葉を言われて最初に想像したのは、

幼少期に僅かにテレビで見たことがあった戦隊ヒーロー達の記憶だった。


だが......アゼルの姿と戦隊ヒーロー達は=で繋げれそうにない。


どういうことだろうか?


と疑問が湧くものの......それはすぐに解決することになった。


俺の疑問が解決しない内に、

アゼルが答えを示すように_______アゼルの体から数百、数千に匹敵するかも知れない黒い何かが、バサバサと大きな音を出しながら飛び出してきた。


「前が見えないな......」


手で視界を抑えながら、手の僅かな隙間から状況を把握する。


黒い何かは、バサバサと音を周囲に響かせながら、ここから一帯の砂浜を旋回して......最終的には空に溶け込むように消えていった。


「......消えた?...マジシャンがやりそうな鳩を使ったマジックみたいだったな...。」


先程起きた光景を地球の基準で当てはめると、それが一番近いだろうか?


それにしても...質量保存の法則がぶっ壊れているような気がするが......


まぁ、この世界らしいと言えばそれで済むな。


そんなことを考えながら消えた黒いもの達を名残惜しむように、空を眺めていると......


ふと左肩に違和感を感じたため、意識を向けてみると


いつの間にか、一匹の小さなコウモリが俺の左肩に停まっていた。


俺は、多少驚きはしたものの......平常心をすぐに取り戻してコウモリに問いかける。


「お前......アゼル...なのか?」


アゼルの変身という単語からそう推測して、そいつに問いかける。


「うん、コウモリの姿で違和感かもだけど僕はアゼルだよ。この姿なら、ユウの肩に乗れるでしょ?ふふ、僕はこう見えても結構凄いんだよ?」


僅かに声のトーンを上げながらアゼルはそう言った。


アゼルは凄いと言うが...俺からすれば無駄にしか感じない。


「変身......凄いものだとは思うが、時間がかかるし、あとシンプルに邪魔じゃないか?」


こう......なんだろうか、スッと変身すると思っていたんだ。


しかし...それとは裏腹にアゼルが変身すると同時に、まぁわんさかと大量の黒い物体がバサバサ音をたてるわけで...


戦闘の最中に変身しようものなら、本当に味方にとって妨害でしかないなのでは?


そう考えたのだが......


「あっ、ちなみにだけどさっきのは演出だよ。」


「いや、演出なのかよ。」


アゼルの言葉に対して、某人気芸能人のようにツッコミを入れてしまう。


さっきの思考時間は完全に無駄骨のようだった。


アゼル(蝙蝠の姿)は、

信頼の証なのか、よろしくという挨拶なのか、前のユウが好きなのか...理由はわからないものの、体全身を使い俺の頬に頬ずりをしてくる。


不快感を一切感じない、柔らかい毛並みの感触が心地よくくせになりそうだ。


俺はアゼルの体を一度優しく撫でてから、遂に出発のために足を動かすことにした。


「さて、そろそ..」


「ちょっと待って!」


   ッ!?


俺が言葉をいい終えるよりも早く、女が遮るように言葉を割り込ませてきた。


急な大声に、体全身がビクッとなり、心臓がキュッとなったのは......ここだけの話しにしておこう...。


しかし...アゼルは俺の左肩に乗っていたわけで...俺が驚いたことを完全に見抜かれてしまい、ふふ、っと笑われてしまった...。


俺は深夜に玄関付近で物音がしたため、恐る恐る確認するような感じで、大声がした方向へと体を向ける。


「なんだ?やっぱり埋葬を手伝えと?それとも火葬か?......塵灰(じんかい)すらも残さずに『月天の輝塵(セレスティア)』で焼き尽くしてやろうか?」


本来の冷静な俺であればこんな言葉は絶対に言わない。


だが...驚かされた分の仕返しをしたくてたまらないので、きつくは感じるかも知れないが、そう問いかける。


「...あんた、本当に悪魔みたい......ってそれはもういいや。あんたが悪魔だってことはもう十分にわかったから。」


女は若干呆れながら、そう言葉を紡いだ。


「......人権問題で訴えるぞ......」


またしても悪魔と言われる人間の絵図。


地球であれば、人権問題として訴えても勝訴出来る自信がある。


まぁ......俺の場合は、それ以前に大量殺人の罪で捕まるがな。


「じゃあなんなんだ?...俺を殺したいのか?文句を言いたいのか?」


女の真意を理解出来なかった俺は、氷のように冷たい声でそう問いかける。


仏の俺でも流石に我慢の限界が見え始めてきている。


「...それも...違う...。」


悲しいのか悔しいのか、横たわるシャレルを見て、手を血管が飛び出そうな程に強く拳を握りながらも...首を強くふり、俺の言葉を否定した。


「じゃあいったい何なんだ?結局お前は何がしたいんだ?何を伝えたいんだ?グダグダしていないでさっさと話せ。『月天の輝塵(セレスティア)』100g

分をぶつけてやろうか?」


もう我慢の限界だった。


だからこそ、そう言ってしまったが...改めて考えてみると、絶対にやっていけないことだ。


100gの場合、威力は400キロトンと意味不明な火力になってしまう。


そして...もしこのエネルギーを解放してしまった場合、

半径数kmは地獄のような光景になってしまい、数十kmに渡り衝撃波が伝わり窓をぶち壊すだろう。


それに、『夜なのに......太陽...?』


周囲に存在する殆どの人間がそう思ってしまうほどの光を発することになるだろう。


俺がそんな風に淡々と計算しているなか、女は一人葛藤しているように見えた。


「あんたが悪魔なこと、今日はそれをよーく理解したつもり。......じゃあ...なんで今まで反撃してこなかったのよ...あんたなら...いつでも出来たじゃないの...」


女は...理解が出来ない現実を、なんとかして受け入れようとしているように俺は感じた。


俺は......そんな女に対して淡々と答えるのではなく、少しの間思案をしてから、口元をゆっくりと動かすことにした。


それが”今の”女に対する姿勢だと思ったからだ。


「さぁな、俺もその理由については知らないし、どうでもいい。.....ただ......”友達になりたい”。とでも思っていたんじゃないのか?」


断片でしか前の人格のユウを見ていないが、多分そう考えていてもおかしくない人間だった。


それかもしくは...ただ単純に一切の反撃をしようとしない愚か者かつ、ありえないほどの善人だった可能性もあるにはあるが......そんな人間は存在しない。


多かれ少なかれ表面上はそう感じても、中身は真っ黒なことも十分にあるからだ。俺はそんな理想上の存在を信じない。


だが......だからこそ、これからは前の人格のユウについても知っていく必要がある。


やつについて抱いた疑問、その答えを見出すために。


俺がそう考えて事をしていると、女も何かを思案していた。


「......友達......かぁ......。もし私達が最初からユウを受け入れていたら......シャレルも...」


などとありもしない未来を、涙ながらに想像していた。


そんな姿を見ると、こう思ってしまう。


どこの世界であろうとも、人間の本質は何一つとして変わらないな、と。


例え......魔法があったとしてもだ。


人間とは、失ってから初めて真に後悔する生き物だ。


ずっと続くと思っていた日常。


それを今日、俺は破壊した。


それがやつらにとって幸か不幸なのか。


俺にはどうでもよかった。


ただ、人間の縮図としてその光景を客観的に淡々と見ることしかしない。


「ごめんなさい......ごめんなさい......シャレル......ユウ.......」


その光景を、少しの間冷めた目で見てから、


俺は、その場から”逃げるように”立ち去った。




   *




満月の夜の下、俺はある理由でとても苛立っていた。


「___またか......失せろ。『月天の輝塵(セレスティア)』」


「『因果の(バタフライ・)転移(エフェクト)っと。』


俺の超絶火力の『月天の輝塵(セレスティア)』をアゼルが自身の権能の技である『因果の(バタフライ・)転移(エフェクト)』で威力を減少させてくれることも、慣れたものだ。


俺達は今、”ある場所”に向かって移動している道中だ。


そして....その道中でやたらめったら現れる狼やオークに俺はうんざりしながら殺戮を続けている。


もうどれだけの数の狼とオークを殺したのか俺は覚えていない。


月天の輝塵(セレスティア)』の白い光が消え去り、残ったものは狼やオークだったものの残骸らしきものだけだ。


俺は周囲に敵がいないことを確認してから、深呼吸を行い、精神を平常心に戻すことに尽力する。


「ふぅ......ゴキブリのように湧いて出てくるな......まぁ、弱いから関係ないが...シンプルに時間の無駄だな。」


周囲に散在する狼やオークだったものを見渡しながら、俺はそう呟く。


「ゴキブリ...?なにそれ、美味しいの?」


俺のゴキブリという単語に反応したアゼルから、一切想像したくもないような光景の言葉を発してきた。


「うっ......、アゼル......ゴキブリって言うのは俺が前に住んでいた地球、にいる...めちゃくちゃキモい生物だ。触覚に、動きに、全てが気持ち悪かったな....まるで人間が忌み嫌う象徴の生物だったな...。推測するに......病気にならないための防衛本能と予測できない動きの生理的嫌悪、学習による刷り込みが合わさったからだろうが....」


俺は吐き気を感じながらも、アゼルに対していかにゴキブリが気持ち悪い生物なのかを説明した。


ネットの掲示板で話していた同士達でも...9割以上、ゴキブリが嫌いと言っていたような気がする。


アゼルは俺の言葉を聞いて、顔を顰める。


「結構気持ち悪い生物なんだね、ゴキブリは...。ユウが嫌悪していそうだし...僕もゴキブリきらい...」


声のトーンを僅かに落としながら、アゼルがそのように言葉を発した。


...嫌いの理由が、”ユウが嫌悪しているから”というのはいかにもアゼルらしい言葉だと思う。


「なぁ、アゼル......”カグヤが住んでいる家”まで、あとどれくらいの距離だ?」


ゴキブリの話しはもうやめよう。


...気分が最悪になるからな...。


だからこそ流れを変えるように、俺はアゼルにそう質問をする。


アゼルはうーん...と唸ったあと


「あと...25kmくらいかな?ユウなら一瞬で移動出来る距離だね。」


周囲の状況をぐるっと確認したアゼルは、そう答えてくれた。


「一瞬で移動は無理だろ...」


25kmはフルマラソンの約6割の距離に匹敵するんだぞ?


一瞬で移動なんて出来るものなら...そいつは最早歩く災害と何ら遜色ない。


移動する度にソニックブームが発生して周りの地形が死ぬ未来が想像出来る。


「えっ?出来なくないよ。だって......ユウ、()()()殆ど使っていないでしょ?いくら『月天の(ルミナス・)摂理(セレスティア)』があるとは言え、魔力による身体強化込みの状態と比べれば、まだまだ肉体的に見れば弱い状態なんだよ?」


俺は、点々とした知識を一度思考整理するために、敢えて”歩くことにする”。


考えている時...意外と歩いている時の方が思考の整理がつきやすいものだ。


「アゼル...シャレルとの戦闘中にも気になっていたんだが、その...”魔力”とは何なんだ?」


転倒しないように、地面に意識を向けつつも、8割のリソースを思考整理に回す。


アゼルは俺の質問を真剣に考えているのか、少しの間ぶつぶつと自身の中だけで言葉を整えていた。


「魔力についてかぁ......うーん......確定してこれと言った考えはないんだけど、世界に存在するエネルギー、肉体能力を向上させる力の源、魔法や権能を使用するための対価として払う燃料......と言ったところかな?後天的魔法術式はこの魔力を、炎や水、雷と言った物理現象に変換させている仕組みを取っている、先天的魔法術式の”権能”は、魔力を対価にして発動出来る仕組み。この時に払う魔力量が多ければ多いほどより強く、広範囲の魔法や権能を発動出来る。...簡潔にわかりやすく伝えると...こうかな?今のユウは、無意識的に魔力を使っているようなものだから...実質、魔力を使っていないと同義だと僕は思うよ。」


アゼルから開示された新しい知識を、事前に保有していた知識と照らし合わせながら納得のいくように思考整理していく。


「エネルギーに、対価としての側面か。どうやって魔法を発動しているのか甚だ疑問だったが......魔力というエネルギーを対価にして発動していたんだな。...そう言えば......アゼルは権能という単語を使うが、魔法と権能とではニュアンスが違うのか?」


権能という単語も...魔力という単語と同様に気にはなっていた。


「次は、権能と魔法についてだね。少し長くなるかもだけど、しっかりついてきてね。先天的魔法術式の力のことを権能、後天的魔法術式の力のことを魔法、と僕達は呼ぶ。僕達が言葉を使い分けているのにはもちろんだけど理由がある。先天的魔法術式は後天的魔法術式と比較しても、より拡張した現象を起こせるからだね。例えば......僕の先天的魔法術式の『因果律の悪魔(バルバトス)』には情報を解析する『万象解読(ラプラス・レコード)』、確率を操作する『悪魔の証明(デビル・プルーフ)』と言った能力があるんだけど、これは単純な炎や雷などの物理現象を起こすのとは分けが違うでしょ?後天的魔法術式は、あくまでも単純な物理現象しか起こせない。でも、先天的魔法術式は違う。後天的魔法術式よりもより高度な事象を起こせる。だからこそ、僕達は先天的魔法術式には権能、後天的魔法術式には魔法、という言葉を当てはめて使っている。」


アゼルの言葉に頭が混乱しそうになるものの...なんとか俺は喰らいついてく。


「なるほど...起こせる事象にレベルがあるからこその使い分けか。というか...情報解析に、確率操作とは...アゼルの『因果律の悪魔(バルバトス)』も『月の支配者(ツクヨミ)』に匹敵するほどにバグっているな...。」


万象解読(ラプラス・レコード)』は、どこまで解析出来るのかによるだろうが、病気の発見・肉体の遺伝的弱点の発見・心を乱す技などを出来るだろうし......攻撃、支援両方に使える権能だ。


そして......問題は『悪魔の証明(デビル・プルーフ)』の確率操作という言葉。


どれだけの確率を操作出来るのかによるが...


確率操作で真っ先に思い浮かべる使い方としては、ギャンブルなどでサイコロ、トランプ、スロットなどで特定の目の出る確率を上げるとかだろうが...


物理を勉強している人間であればあるほど、解釈次第では世界が滅ぼせる力だと理解出来るはずだ。


何せ...弾丸が一切当たらずに戦地から逃げ切れたり。


周囲の酸素分子全てがたまたまある場所に集まってしまい、呼吸が出来ずに窒息死させれたり。


相手の攻撃の当たる確率を0%にして、こちらの攻撃の当たる確率を100%にする。


なども理論上出来たりするわけだ。


こいつ...やはり見かけによらず中身は化け物そのものだな...。


チラッと左肩に乗っているアゼルを見てからそう考えてしまうな...。


表面上は可愛いコウモリでしかないが、本質は悪魔そのものだ。


そんなことを考えていると...


「ユウ...今、僕のことを化け物とか思ったでしょ?酷いよ?」


なぜわかった...?という返しが喉奥から出そうになったが、ギリギリで止める。


「...いやいや、そんなわけないだろ。アゼルのような可憐な少女に対してそう思うわけないだろ。」


アゼルからヤバそうなオーラがドス黒く漏れ出しているため、何かを察した俺は意識的にそう返答をした。


「ふふ、そうだよね!ユウが僕に対してそんなこと思うはずないもん。だって...僕はユウの命を助けたんだよ?、さっき。命の恩人に対して、流石のユウでもそんなことは思わないでしょ?」


アゼルが若干、耳に寄りながらも囁くようにそう左耳に呟く。


何かいけない雰囲気を感じた俺は、ブルッと背筋が震えてしまう。


「だ、だな...そうだな。」


最早バレているだろうが......俺は、アゼルの言葉に対してそう返答することにした。



それが一番......マシな未来になると信じて。



「____覚悟は...出来たかな、ユウ?」



その言葉と同時に......俺はアゼルの理不尽さを身をもって体感することになる。





   *

  



静かな静寂の空間。


そこに......対極的に存在するように、過呼吸気味の俺がいる。


「ユウ、これに懲りたら僕のことを化け物とか思わないでね?」


満月の夜に負けないほどの、アゼルの綺麗な表情が地面に大の字に倒れ込んでいる俺の視界を埋め尽くすように現れる。


悪魔とも天使とも見分けがつかない表情を見て、口角を少し上げながら


「...無理だな、...戦ったからこそ思う。...理不尽極まりないな......。」


アゼルに怒られることを覚悟しながら、戦った果てに下した結論を伝える。


「えぇ、そうかな?『因果律(ロジカル・)の箱庭(コンストラクション)』の技の『因果の(バタフライ・)転移(エフェクト)』で、ユウの『月天の輝塵(セレスティア)』の威力を超減少させて無効したり、『悪魔の証明(デビル・プルーフ)』でユウの確率を操作して、戦闘中に低確率で起きる確率を収束させて確定させたり、『万象解読(ラプラス・レコード)』で常に不快感をユウに与え続けたりしただけだよ?」


とアゼルは全くの悪意が籠もっていない表情でそう言うものの...その内容自体はあまりにも鬼畜極まりない。


自分の攻撃は全て無効化され、ありえない不幸が何度も続き、常に不快感を感じさせられる。


その上、アゼル自身の肉体能力は『修羅』と比較しても10倍以上はあると来たものだ。


......そんなやつを、化け物と呼ぶなと?


無理に決まってんだろ。


「でも...ユウも凄いと改めて思ったよ。現状使える権能が、『月天の(ルミナス・)摂理(セレスティアル)』と『月天の輝塵(セレスティア)』だけの上、さらに魔力による肉体強化も殆どなしでよく善戦した方だと僕は思うよ。精神と技術が卓越したレベルであったからこそだと思うし...権能を完全に自分のものにしたユウは、この世界でも最上位の一角に間違いなく入り込めるよ。だから、弱いなぁ...とか思って落ち込んだりしないでね?」


そういい終えると同時に、アゼルが地獄から引っ張り出す女神のように右手を差し出してくれた。





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