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27話「妖魔十二神将」


「ふぅ......なんとか逃亡出来たな...。全く、受ける側の身にもなってくれよ...。」


二階へと続く階段を右足、左足と左右(さゆう)交互に出しノロノロと昇りながら、俺の口から愚痴が(こぼ)れる。


あーんという行為そのものは嫌というわけじゃない。


シンプルに恥ずかしいんだ。特にアゼルやカグヤなどの女の子からやられるならなおさらだ。


どうして若いカップルはこんなことが人前で出来るのだろうか。

ある意味では、彼ら彼女らに対して尊敬の念を抱く。


「とりあえず......リビングに戻っても面倒だろうし......自室で安静にでもしてるか。」


戻ってしまえば____間違いなく()()の餌食になるだろうしな......


それに、シンプルに眠い。


血糖値スパイクによる血糖値の急激な増加と減少、血液が胃に集まることによる脳への血流の低下、そして『黎明(ヘリオス・)の審判(セレスティアル)』による倦怠感と頭痛。


それらが重なってしまうことで、朝食後はかなりウトウトしてしまうのが新しい俺の身体の特徴なのだ。


「_____......カグヤの部屋...か。」


階段を昇りきって右側、

ドアに掛けられているドアプレートの文字が視界に入った俺は、その場に立ち止まった。


____女子の部屋とは、どんな内装をしているんだろうか。


ふとそんなことが気になったのだ。


質素なのか、豪華絢爛(ごうかけんらん)なのか、それとも以外とぐちゃぐちゃだったりするのだろうか。


見たことがないため、非常に気になるところだ。


「いつか......カグヤに頼んでみるか。」


断られることはないと思うが...頼む前には、機嫌を取ったりして成功確率を少しでも上げる努力をすることにしよう。


そうと決まれば......とりあえずは、この話題は脳の片隅にでも置いておいて、今からは予定でも決めつつ自室で安静にしておこう。


「......。」


疑問を抱いてしまったため、少しだけ名残惜しく感じるものの思考を切り替える。


数秒間ほど、『カグヤの部屋』という文字を凝視したあと、

自分の部屋までゆっくりと廊下を移動し、突き当りにある自室のドアノブを右手で握り締めて、扉を開けた。


「____うん?.....気のせいか?」


扉を開けたが俺だが、部屋の中には入らずに扉を閉める。


なぜ?と疑問に思うかもだが、聞いてほしい。


部屋の中で見られるはずのない光景が目に入ったんだ。


例えとしては、部屋に入った瞬間にゴリラがいた。なんて起きたらびっくりするだろ?


そんな感じだ。


「......いや、脳の錯覚だな。......そうだ、それ以外には考えられないぞ...」


数秒間考えてみるが、そうとしか思えない。


いや、思いたくなかった。


俺はそう結論づけてから、再び自室の扉を右手で開ける。


「____っ......やっぱりおかしいよな......」


扉を開けた俺は、錯覚ではないことを完全に理解してしまう。


ベッドには、ふっくらと山のような膨らみが存在しており、微細ではあるが動きも認識出来る。


間違いなく、布団の中に何かがいる。


それもかなりデカいやつが。


「...安静になりたいだけなんだがな...」


後頭部を左手で掻きながら、不満が零れる。


転生してからというもの、一日が凄まじく濃い。


濃厚カレーくらい濃い。


とりあえず......まずは正体を確かめないとだな。


俺は、部屋の中に足を踏み入れた後、ゆっくりと扉を閉めてからベッドの側まで近づき、躊躇(ためら)うことなく布団をガバッと(まく)った。


「____へっ?......うわわっ!?......」


中にいたそいつは、布団がなくなったことに焦ったのか、

ギュッと身を丸め、布団を両手で強く握りしめ、防御の姿勢に入った。


「......お前は......縁側にいたやつか。」


ボサボサとした灰色の長髪の特徴的な姿。


オドオドとした性格。


間違いなく縁側で話した時のやつだ。


先に誰かを確認しておいてよかったな...。


危うく蹴飛ばすところだった。


「先に伝えておくが.....そんなに怯えなくていいぞ。お前に危害を加えるつもりはない。食後の消化のために安静にするだけだ。」


まずは、警戒体勢に入っている彼女を安心させるために言葉を伝える。


ベッドの上でゴロンと横になりたかったが、彼女が占拠しているため、ある程度の距離を置いてからベッドの上に腰を下ろすことにした。


「それなら......急にお布団をとらないでください......喉から心臓が飛び出そうになったんですよ.....?」


彼女はこちらに顔を向けることなく、自身の実情を打ち明けた。


どうやら......少し強引にやりすぎてしまったようだ。


「そうか、それは悪いことをしたな。だが、そんなことは驚くだけでは起きないだろうし安心してろ。」


俺はカグヤに対するように、言葉を繕うことはせずに言葉をぶつけた。


どうすれば驚くだけで喉から心臓が飛び出るのか。

この場でご享受させてもらいたいほどだ。


「...あの......人によって態度変わりすぎじゃないですか......?カグヤちゃんに対しては......あんなにも優しいのに.....」


彼女は、嫉妬の感情を含んだような声色で喋った。


お前は人間ではなく妖怪なのでは? というツッコミはしないでおく。


「......まぁ、カグヤは良くも悪くも単純だからな。俺の素の性格は毒にしかならない。その点、お前なら素の性格を出せるし会話の負担は比較的少ないな。」


俺は、隠すことをせずに本音を伝えた。


巨大な闇を抱えているとわかっているからこそ、彼女に対して共感の念を抱き、本音を伝えようとするのだろう。


「相変わらず......酷い人ですね......。カグヤちゃんが可哀想です......あなたみたいな人が......お兄ちゃんだなんて...」


彼女の声色は少しだけ高くなった。


言葉もどこか意味深であり、いくつかの意味を含んでいそうだった。


「......だからこそ、カグヤに対しては優しくしているつもりだ。それに、俺の正義にはカグヤは必要不可欠な存在だ。 お前が想像するような悪いことは一切しない。」


俺はあくまでも不条理が嫌いな人間であり、世間が言うような悪ではない。


と自負している。


「......信じられませんね......どうせ.....いつかはカグヤちゃんの心に浸け込んで......キャッキャウフフな関係にでもなるんですよ......死ねばいいです...」


ドス黒い闇を纏った声で、彼女は俺の心をぶち壊そうとしてくる。


どうやら......否定をしたとしても、このネガティブ女子には無意味なようだ。


正面から言われれば確実に傷つくであろう言葉の槍を、遠慮なくぶっ刺してくる。


こいつが何を考えているのかは想像に難くないが......死ねは酷くないか?


「そんなことするわけないだろ、倫理的に考えてな。カグヤとは血が繋がっている兄弟なんだぞ? ありえないだろ。」


どこの誰が実妹(俺の場合は厳密には違うが)に手を出すんだ。


しかし、カグヤ本人の意思でなら_____いや、それ以上は踏み込んではいけないな。


この話題はブラックホールの中にでも、ぶち込んでおこう。


「そんなこと言ったて......どうせ、()()()()()()()....なんて理由付けするんじゃないですか......?」


「っ......。 ......場合による。というか......気づいているのか?俺の中身が変わっていることに。」


カグヤならユウの中身が変わったことを見抜けるだろうが......普通は、そうは思わないだろ。


あまりにも当たり前のように彼女が発言したため、脳が一瞬だがフリーズしてしまった。


「......分かりますよ。......彼とあなたは...抱いている闇があまりにも違いますから......。」


まるで自分のことのように、彼女はそう語った。


「闇が違う......か。そこまで分かっているなら、前のユウが無理を繕っていたのにも気づいていたんじゃないのか?」


彼女の言葉を聞いて、俺はそのように指摘をした。


カグヤは俺の言動や仕種(しぐさ)から違うと見抜いた(確定ではないが、99%以上の確立で見抜いている)。


対して、こいつは闇という心の奥底にあるものを認識して、中身が違う存在だと見抜いた。


そこまでの卓越した認識能力があるのであれば、ユウを救えていた可能性が(わず)かながらだが存在していると俺は推測した。


「......そう...ですね。 カグヤちゃんには悪いですけど......気づいてましたよ。 彼が無理をして笑顔を作っていたことも、いじめを受け続けてきたことも......」


彼女の声のトーンは奈落の如く、深く深く落ちていった。


諦観(ていかん)と絶望の感情。


彼女の声からはそんなマイナスなものしか伝わってこない。


プラスの感情が入る余地が一切ないほどに。


それだけでも、アゼルのようにユウを助けたかった気持ちが嫌ほど伝わってくる。


「私を責めますか?......気づいていたのに......彼を救わなかったことを......」


彼女はギュッと布団を握りしめて、涙をこらえている。


どうやら......私を責めて欲しい______()()()()()()()()()()()


「いや、責めない。 救ってほしかったのはユウだけじゃなくて_____お前もだろ?」


彼女が隠しているであろう本音を言語化して彼女に伝える。


「っ........」


言葉が出ずにいるが、それが答えだ。


「......心が摩耗しているやつに、誰かを助けることは出来ない。誰かを助けるということは、正常者や力あるものに与えられた特権だからだ。 お前がそれで責めてほしいならいくらでも罵倒してやるが......それは本音じゃない。そうだろ?」


彼女と顔を合わせて会話をしていないからこそ、躊躇いもなく言葉を紡ぐことが出来る。


違うベクトルでの例えになってしまうが......


今にも餓死しそうな人間が目の前にいて、


『他者に食べ物を分け与えろ。』


そんな言葉をそいつの目の前で言えるか?


大半の人間は、実際にそのような状況になれば言えないだろう。


彼女がそれに近い状態と理解しているからこそ、俺は責めるようなことをしないのだ。


「......。...私は......あなたが嫌いです...」


数秒間、___沈黙を続けた末に、彼女は言葉を伝えてくれた。


「どうしてそうなるんだ......。」


言葉を選びに選んだつもりなんだが...そんなにも間違っていたのだろうか。


「......そんなの......私にも...知りませんよ......」


彼女はそれを示すかのように、布団で身体全身を覆った。


どうやら、俺が間違っているというよりも、彼女自身の問題に近い。


精神が壊れないように、身体が拒絶反応を起こしているように感じる。


......今の関係値では......これ以上は踏み込めそうにないな。


流れを変えるべきだ。


「____そう言えばなんだが......俺はお前の名前を知らない。 今更で申し訳ないが、なんて名前なんだ?」


迷った挙げ句、『遅っそ...』なんてツッコミを入れられそうな質問をぶつけてしまった。


議論や理論説明などは比較的得意だと自負しているが......日常会話というのはトコトン苦手だ。


これもある意味では、母さんの教育の賜物とも言える。


「____......し、四凶天(しきょうてん)......です....」


彼女は覆っていた布団を少しだけかけ直し、顔をそっと出してからそう名乗ってくれた。


「四凶天......?」


予想外の単語に、刹那の時間であったが思考が停止してしまう。


また有名どころが来ると踏んでいたんだが...聞いたことがない。


他の妖怪達の名前はすぐにリンクしたんだが......四凶天?


___四凶という言葉は確か......『春秋左氏伝(しゅんじゅうさしでん)』という中国の書物に登場する四柱の悪神...だったか?


...渾沌(こんとん)窮奇(きゅうき)檮杌(とうごつ)饕餮(とうてつ)だったはず。 


それと何らかの関係があったりする妖怪のだろうか。


____ちなみにだが、『春秋左氏伝』には部首が全て同じ四字熟語の魑魅魍魎(ちみもうりょう)が登場したりする。


「あの....なんですか......私の名前......そんなに悪いですか?.....文句でもあるんですか?......」


ただ名前に対して疑問に思っただけなんだが...どうしてこうも過激に反応を示すのだろうか......。


このネガティブな性格はどうにかならないのか。


「そうすぐにマイナスの思考にならないでくれ.....ただ考え事をしているだけだ。」


カグヤしかり、アゼルしかり、こいつしかり。


精神的に不安定なやつが周囲に多すぎる。


そりゃあいつも苦労するだろうな...。


「あの......そう言えばなんですけど...私もあなたの本当の名前を知らないんですけど......」


四凶天は恐る恐る言葉を口にした。


ネガティブ女子らしく、自ら質問をすることは苦手らしい。


「そう言えば......そうだな。......(ゆう)月之宮(つきのみや)(ゆう)という名前だ。」


日常会話が苦手なやつが会話をすると、こんなにも阿呆らしくなるのか。

流れが絶対におかしい気がする。


それに......言葉にしていて思ったんだが、アゼルにすら俺の苗字を伝えていなかったな。


こいつといると、素の自分を曝け出してしまう節があるようだ。


「......ユウ? 名前が同じ...なんですか...?」


僅かに目を見開かせて、四凶天はその事実に驚く。


「...あぁ。 俺も最初は驚いたもんだ。」


無意識に天井へと視線を向けて、当時の記憶を思い起こす。


まさか、憑依転生したやつの名前と自分の名前が同じだとは。


憑依転生だけでも確立は天文学的なレベルで低いだろうに......誰かが運命を操作していると言っても納得出来るレベルの事象だ。


「カグヤちゃんには......話したのですか? ......『転生召喚』......ですよね...?」


「......あぁ。 そして、そのことについてだが....まだ話していない。 兄...中身は違うが、が帰ってきたばかりだ。カグヤの精神は依然として不安定なままだと俺は認識した。 だからこそ、カグヤには回復の時間が必要だと結論づけたんだが_____」


俺はそこで言葉を区切った。 


満面の笑みを浮かべるカグヤを思い浮かべ、自分の考えが合理的であるのかを再度考える。


「......本当に.....おかしな考え方、です......。でも......優しいんですね...。」


「_____......」


俺は少しだけ四凶天の方に顔を向けたあと、また彼女とは別の方角へと視線を戻す。


「これを......優しさと表現出来るのかは微妙ではあるがな。」


自分の左手を眺め、握りしめる。


そもそも優しさとはなんなのだろうか。


嘘をつかないことだろうか。他者に手を差し伸べることだろうか。


....答えは出そうにない。


「とりあえず、カグヤに関しては様子見だな。 一番楽なのはカグヤ自身から聞いてくることなんだが......それは難しいだろう。 (いず)れは俺から聞くことになる。」


カグヤが聞けば絶句するような言葉を淡々と彼女に告げる。


「......。」


四凶天は俺の言葉を肯定も否定もせず、ただ沈黙を貫くだけだった。


こいつ自身も......何が正解で何が不正解なのか、判断のつけようがないんだろうな。


「......なぁ、話は変わるんだが......いつまで俺のベッドにいるんだ?」


俺達二人は至って真面目な会話をしているが、端から見れば『何この光景...』などと言われても、『そうだな』としか言いようがない状況にいる。


ずっと違和感でしかないため、そろそろこの状況を打破したいのだ。


「別にいいじゃないですか......あなただけのベッドではないのです......」


彼女はそう言い終えるなり、自分の領域であることを示すかのように、布団はさらに自分の身体へと巻き付けた。


「逆に......お前は嫌じゃないのか? 一応、俺は男だぞ?」


「...嫌じゃないですよ...私は妖怪ですから......。」


強がりなのか、本音なのか、判断のつけようがない声だった。


流石は妖怪。


カグヤなら顔を真っ赤にする光景が目に見えるのにな...。


「そうなんだ。 なら俺も構わない。 女子が俺の布団で寝ているってちょっと嬉しいしな。」


男子なら即蹴飛ばし案件だが、女子だとなぜか許してしまう。


いや、女子というよりも四凶天だからこそという方が正しいか。


「......あの...本音じゃないって分かりますけど......その...キモいです......ゾワッとしたので......どっかいってください....」


表情を見れないが......間違いなく表情は笑っておらず、汚物でも見るような目をしていることだろう。


「それを俺に言うか...?」


だが、俺にも反論はある。


そもそもだが、ここは俺の部屋なんだが? 


というものだ。


まぁ、四凶天がいる分には問題はない。話し相手にはなってくれるしな。

しかし、ベッドを占拠するということに関しては断固否定だ。


「......なぁ......どうして、中身が違う俺をお前は受け入れているんだ? そもそも、俺がどうのこうのは興味がないのか?」


質問の応酬で申し訳ないが、四凶天に聞いてみることにした。


俺も、誰かと会話をすることで思考整理をしたいという気持ちがある。


結局のところ、俺も彼女と似たような存在だ。


「......微妙に差異はあります。...ですが......あなたと彼の間にはそれほどの違いはありません...。 簡単に言えば...あなたは闇のユウ、彼は光のユウ。 ......私にとってはそんな感じです......あなたは......酷い人ではありますけど......優しいですから......。彼のように....」


喜怒哀楽...彼女はそのどれにも当てはめることが出来ない声を発した。


彼女にとっては、この態度や言動は優しさなのか。


......。


「____まぁ、俺からすれば好都合だな。」


俺が思っている以上に、入念に演じる必要はなさそうだ。


あいつが過ごしてきた人生は、俺の思った以上に憑依転生後の人間が過ごすうえでの良い条件を満たしてくれている。


いじめられてきたということは、それだけ友好関係も少ないだろうし...いい置き土産をしてくれたな。


疑問に思うやつも少ない以上、この問題はすぐに解決する。


「......あの...妖怪の私が言うのもなんですけど......あなたは人間なんですか...?」


「......質問の意図が掴めないな。俺はアゼルのように悪魔でもない。お前のように妖怪でもない。 正真正銘の人間、ヒトなんだが?」


なぜ人間じゃないやつに、人間なのか? なんて聞かれないといけないのだろうか。


「あっ......間違えました....。ヒトの姿を被った....サイコパス....宇宙人....でしたね...。すみません........」


彼女は横の体勢のまま、頭を垂れた。


「そこは謝らなくてもいいんだが...?」


なぜそこだけ律儀なんだ。


それよりももっと優先するべきものがあるのでは?


そう考えて止まない。


「___最後にもうひとつだけ、いいか?」


「....お好きにどうぞ...」


質問攻めで悪いが......それだけ彼女のことを知りたいという気持ちでもある。


四凶天なら、そう理解してくれるはずだ。


「俺は...『月の支配者(ツクヨミ)』という先天的魔法術式を持っているんだが......妖怪である四凶天にも先術はあるのか?」


アゼルや数日前に戦った狼達と、四凶天や高天原(こうてんげん)などの妖怪たちはまた違う存在だと俺は認識している。


なんと言えばいいんだろうか......存在してはいるが、どこか曖昧な感じだ。


幽霊...地球の基準で言えばそれが近しいかも知れない。


「......持ってますね...。他の妖魔十二(ようまじゅうに)神将(しんしょう)の方たちも...保有してますよ。」


「妖魔十二神将?」


......初めて聞く単語だ。


他の、という言い方的に四凶天もその一人なんだろう。


十二という数字を(かん)しているし、まだ俺の知らない妖怪が二体いるんだろうか。


「妖魔十二神将は......カグヤちゃんを守護する......私を含めた、十二体の妖怪達から構成される......カグヤちゃん護衛隊のことですね。 私は入った覚えがないんですけど......いつの間にか強制加入させられていましたね......」


その時の記憶が思い起こされたのか、はぁ...と深いた溜息を彼女は零す。


「......そう...なんだな。」


俺も母さんによって強制的に地獄の日々を与えられていたからだろう。


四凶天の気持ちもよく分かる。


弱者とはいつも、強者の勝手な都合に左右されてしまう。


「あっ......話を戻しますね...私の場合は....四つの先天的魔法術式を保有しています。」


彼女は特別なことなどない、という風に淡々と語った。


「____はっ? 四つ?」


意味不明すぎる四凶天の言葉に、俺は素っ頓狂に言葉を口にしてしまう。


確かに一人の生命が保有出来る先術の数が一つとはアゼルから聞いていないが......


先天的魔法術式は、遺伝と精神(精神をもっと厳密に言えば、過ごしてきた環境だろう)を糧に構築されるらしいが......


四つも出来るか?


「少しだけ...私について話しますね...。私は元々...四体の妖怪だったのですけど......それらが合わさって......私が誕生しました。......それのせいか知らないですが......四体までなら分裂したりも出来ます.....意識は同じですけどね...」


「四体の妖怪......」


その言葉を聞いて、ようやくバラバラだったピースが揃ったような感覚になった。


四凶とも数が一致しているし、四凶天は四凶という悪神が全て合わさった妖怪なのだろう。


そして、四体の妖怪が合わさったことで、四つの先天的魔法術式を持つに至ったというわけか。


「理屈はわかったが......代償はないのか?あまりにも世界の法則を無視しすぎているだろ。」


それが問題だった。


俺の『月の支配者(ツクヨミ)』は夜の間は最強だが、朝はカグヤにすら押し倒されるほどに弱い。


アゼルの『因果律の悪魔(バルバトス)』は支援と防御能力がずば抜けて高いが、1000年という莫大な時間を経て構築されるに至った。


そんな等価交換に近い世界で、代償がないとは到底思えなかった。


「......正解...です...。先天的魔法術式は、言い換えれば人格みたいなものですし......それが四つもある私の気持ちが理解出来ますか?......多重人格よりも酷いです......それのせいか知りませんが...身体(からだ)も心も......安らげた日が一度もないです......別に...こんなにも術式はいりませんよぉ....」


ベットの上でジタバタと右往左往しながら、四凶天は藻掻(もが)く。


「つくづく....俺と似たような実情だな...。助けてやりたい気持ちもなくはないが...まぁ、現状だとどうしようもないか。」


彼女からすれば大事なことだろうが、俺はそう切り捨てる。


合理的な解決手段がわからない以上、悩んでも仕方がない。


「......私の術式...入ります...?別に一つや二つくらいなら......上げますけど...」


僅かに躊躇いながらも、最後まで彼女は言い切った。


自分の力が無くなる...という不安よりも、俺に迷惑をかけないだろうか、という不安の方が大きいんだろうな。


「いや、必要ない。 『月の支配者(ツクヨミ)』だけでも現状は十分だしな。それに......どんな代償を(こうむ)ることになるのか不明な以上、わざわざ貰う必要はないな。 今は苦しんでおいてくれ。」


悲しい現実だろうが、俺の命を渡すようなことに近い馬鹿な真似はしない。


この世界では、俺は何よりも自分が生き延びることを優先する。


以前のようなヘマはしない。


「そうですか......はぁ......どうすればいいんでしょうか......」


肺の空気を全て吐き出すほどの、深すぎる溜息が彼女の口から出てくる。


四凶天の言葉に絶望の感情は感じられず、あるのは諦めの気持ちだけであり、


それだけでも、相当な時間を考えに考え抜いたのだと思える。


「それだったら......もういっその事、四つの術式を一つの術式に統合すればいいんじゃないか?」


彼女にとって救いになるのかどうか不明だが、そう助言してみることにした。


「.....ですけど.....そんなことを......私に出来るのでしょうか.....」


四凶天は身体を丸め、少しだけ歯を食いしばる。


「さぁな。だが、元々は四体いた妖怪が合わさった姿がお前なんだろ?......可能性でしかないが......その人格すらも自分の一部である。 そう認めるのが条件だったりするんじゃないか?」


確信...というほどのものではないが、その可能性が濃厚だと俺は考えた。


「自分の一部...ですか。_____....頑張ってみますね.....」


彼女は、7秒ほど沈黙を続けた後、そう答えてくれた。



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