20話「魔力活性剤」
「____根性が足りぬ......ね。」
アゼルの攻撃を、死に物狂いで捌き終えた俺の心から湧き出て言葉。
夕食前の模擬戦(?)の時に、高天原が俺に対して言った言葉だ。
正直......前の世界ではどうとでもなった。というのがこちらの世界に来てから思った結論だ。
ある程度の肉体、技術さえあればどのような体格の人間であろうとも、勝利することは出来ずとも、今のようにただ圧倒される続けることなどなかったからだ。
だからこそ_____どのような状況下であろうとも冷静さを保っていられた。
「はぁ......はぁ......」
森の中に豊富に存在する酸素を、貪りくらい、消費された酸素を体内に供給していく。
心臓は猛烈な痛みを発していて、酸素不足で脳内に回せるエネルギーが少なく、今の俺は冷静さを欠いているような状態だろう。
「僕も少し疲れてきたけど、まだまだ体力は有り余っているよ。」
アゼルは綽然とした態度で佇んでいる。服装に付着している、戦闘中に舞ったであろう砂埃を、両手を交互に使って、『皇帝』の威厳を見せるように優雅に払い落としている。
到底戦闘中に気にするようなことではないが、俺からすればありがたい。
その間にも少しではあるが、休憩を挟めるからだ。
0.1秒の油断が命取りになるアゼルとの戦闘では、体力の消耗が激しすぎるからな......。
捉え方によれば挑発行為にしか見えないが、こんな時でも俺の思考は合理的だ。
感情に左右されるなど、愚か者でしかない。
「もう、休憩は大丈夫そうだね。」
どうやら、体力を回復することを許してはくれないらしい。
目の前からアゼルが消える。
いや、消えたというよりも高速で移動しているため、人間の脳が動きとして認識出来ないのが原因だろう。
現に、アゼルが佇立していた場所には、陥没痕が出来ている。
周囲に流れる風の動きと微かに聞こえる大気を切り裂く音。それを五感を極限まで集中させて聞き取る。
「_____っ!」
俺が防御にするよりも早くに、攻撃にモーションに入っていたアゼルの打撃が当たる直前、
左腕を使い、頭部を守るような体勢での防御だったが、ギリギリ間に合った。
「はぁ.....はぁ.....」
凄まじいほどの衝撃が身体全体に伝わってくる。
ただの打撃ですらも、『皇帝』であるアゼルなら致命傷になるのは避けられない。
そのうえ、肉体能力に加えて、魔力操作も完璧であり、俺のように無駄な魔力消費が一切存在していない。
アゼルは態度を変えずに、愉快そうに少しだけ微笑む。
「ふふ、流石はユウだね。普通の人間なら、もうとっくにギブアップしているだろうし、精神力だけで言えば、僕に匹敵するくらいだね。思考も、戦闘が進めば進むほど研ぎ澄まされているし......短期戦も、長期戦も両方問題なしだね。」
数時間の戦い(休憩はかなり少ないが、挟んではいる)を終えて、アゼルはそのように結論を下した。
大満足....と言ったふうではないにしろ、満たされているような表情を浮かべており、アゼルの想定を上回るほどの結果を見せれたんだろうと、俺は倒れ込みながら思った。
「......夜風が気持ちいいな......。」
ドン、と地面に倒れ込む。
寝間着が汚れることを心配するだろうが、安心してほしい。
この寝間着には魔法が刻印されており、魔力を流し込むだけで汚れを落とすことが出来る仕組みがある。
だが、汗や匂いまでを消すことは出来ないため、洗濯をするのは必須だ。
あくまでも、応急処置的なものなのだろう。
「ユウ、お疲れ様。疲労がかなり溜まっているだろうし、これを飲んで。少しだけ楽になると思うから。」
アゼルは泰然とした足取りで、こちらの側まで来てくれた。
右手には高天原のように、どうやって取り出したのかわからないが、ガラス瓶を持っていた。
ガラス瓶の中に入っている液体は、水色をしており内容量は120ml前後だろうか?
とても綺麗な色をしていて、ただの飲み物ではないということを直感した。
そんなことを考えていると、アゼルが俺の右手を優しく持ち、そのガラス瓶を握らせてくれた。
アゼルが強く握っていたのか、渡されたガラス瓶には、仄かに体温の名残りを感じた。
首を少しだけ上げてないと、誤嚥のリスクがあるが____そんなことはどうでもよかった。
早く水分にがっつきたい。
その一心だけがあり、理性が働くことはなかった。
左手でガラス瓶を開けて、仰向けに倒れたまま流し込むことにした。
スゥーっと液体が体の中を流れ込み、
乾燥していた粘膜が、水分により潤われていく感じがする。
会厭は仰向けになっていても問題なく機能してくれたため、誤嚥するようなことはなく、そのまま流れるように胃へと送られた。
「_______くそ、不味いじゃねぇか!?」
あまりの不味さに、限界を超えた肉体が動いて、咳き込むことになった。
なんだこの味......言語化というものを理性が、脳が拒んでいる。
腐った卵なのか?腐った魚なのか?腐った肉なのか?......あまりの不快感に吐き気を催す。
「ユウ、大丈夫?」
アゼルの高いトーンの声が聞こえてくる。
「この姿が大丈夫に見えるか?ゴホッ......というか....何なんだよこれは....」
ガラス瓶を握りつぶして破壊したあと、アゼルの方を睨みながら眉を顰める。
破片の残骸が俺の手に突き刺さるが、そんなことはどうでもよかった。
ただのこの不快感を与えて来た、アゼルに文句を伝えたかったのだ。
「それはこの世界でも有名な、『魔力活性剤』だね。魔力を濃縮させて液体に溶かし、ボロボロになった身体を濃縮した魔力で回復を促してくれるんだよね。これ1本で1万イリスするけど、効果は絶大だよ。」
アゼルが右手に刺さったガラス片を、何某かの魔法?で取ってくれながら、そう教えてくれた。
抜く時に感じるチクッとした痛みがなく、こいつに注射を任せればいいのでは?
と思ったほどだ。(どうでもいいと思うが______俺は注射が大嫌いだ。)
アゼルは、ドッキリが成功した時の子供のような表情を浮かべており、この飲み物が不味いことをアゼルは知っていたうえで、俺に飲ませたようだな。
そして......利き捨てならない単語を、アゼルが口にしたのを勿論だが聞き逃すことはない。
「______そうか......異世界だから通貨の単位も変わるのか.......。」
この数日の間で、お金が必要な時がなかったため、アゼルに対してこの世界の通貨について聞こう。という意識にならなかった。
「ユウは、憑依転生してきたもんね。どれくらいの価値観なのか、伝わるか不明だけど......パン一つが120イリス。リンゴ1つが200イリス。宿代一泊食事付きで6000イリスとかかな。」
アゼルはイリスの価値について、具体例をいくつか出しながら教えてくれた。
「となると......1イリス=丁度1円くらいか。」
日本とは少し値段が違ったりするものの、このような感覚でも問題はないだろう
な。日に日に価値が変動していくのも世の常だしな......。
あとは1000イリスを稼ぐのに、どれくれくらいの時間がかかるのかを算出したいところだ。
価値は同じでも稼ぐのに時間がかかるのであれば、実質的な価値で言えばイリスの方が高いことになるしな。
「円?......それが、ユウが元々生きていた世界の通貨単位なの?」
円という言葉に、眉をピクリを動かしてアゼルが反応を示した。
そんなアゼルの反応に俺は違和感を抱いたものの、そのまま会話を進めることにした。
「あぁ。俺が住んでいた世界......地球に存在する国の一つの日本では、円という通貨を使用して経済が回っていた。まぁ、国よってはドル、人民元、ユーロなどもあって、国や地域によっても使用している通貨単位には違いがあったな。...この世界はどうなんだ?」
経済システムは世界の土台。折角だし、今聞いておくことにした。
「......ちょっと以外かも。などもって言い方だと、地球にはまだ通貨単位が存在するってことでしょ?僕達の世界では、どこの国でもイリスで統一されているよ。地球のように通貨単位がたくさんあることはないかな。」
アゼルは最初に微かに面を食らうものの、淡々としたトーンへと戻っていき、経済学者が目を飛び出すほどの事実を教えてくれた。
「......統一通貨イリス...か。」
どのようにして統一通貨を実現したのか、甚だ疑問でしかない。
経済学というか、地理や歴史を学んでいる人間なら、どれくいら非現実的なことなのかを理解出来る筈だ。
だが、こちらの世界ではそれが実現している。
どういう過程を経て、今に辿り着いたのかは知らないが、魔法の存在が不可欠だったことは、間違いなく要因の一つになっていることだろう。
「そうなると...この『魔力活性剤』は高すぎるな。」
地面に散乱しているガラス瓶の破片に視線を向ける。
月光に反射してキラキラと光り輝いているが、その実体がクソみたいに不味い飲み物なので、残業の光のような、表面上だけが美しいものという認識にしか感じない。
アゼルが先程教えてくれたが、パンが1つが120イリス、リンゴが1個が200イリスは日本と比べてもほぼ同じ数値だ。
そのまま日本の基準を当てはめることが出来るため、どれだけこいつが高いのかをわかってくれるはずだ。
(リンゴで言えば50個。某牛丼チェーン店の並盛20杯。インフレが激しい国では通貨を変換するだけで、数十万円の価値にそれは変貌し、1ヶ月程度で暮らすことも出来たりするしな。)
「まぁ......仕方ないね。言語化出来ない程に不味すぎる味だけど、良薬は口に苦しって言うように、その効果は本当に絶大だよ。それを飲んだ次の日は絶対に筋肉痛にならないって言われているくらいだしね。」
僅かに...アゼルが渋い顔をしている。俺と同様に初めてこいつを飲んだ時は、のたうち回ったりしたのだろうか...。
「そうか......」
悪意は少しあっただろうが、筋肉痛にならないという点は地味だが有り難い。
明日も鍛錬したいし(というか、高天原にさせられる可能性がある。)、
肉体の回復を促してくれるのは、鍛錬の側面や普通に生活をする上でも便利なものであるし、それについては感謝しなくてはならない。
「なぁ、アゼル。その『魔力活性剤』はまだあったりするか?」
在庫の数によって、これからの行動が少しだけ変わるため一応聞いておくことにした。
「うん、まだまだあるよ。」
そう言いながら、再びどこからともなく『魔力活性剤』を取り出してくれた。
最初に色を見た時に、きれいな色をしているな〜、とか思った自分を恨んでやりたい。
その実体はクソ不味い、クソ高価な商品という効力を実感していない今では、俺の脳内のA10神経群(好き・嫌い、面白い・面白くないなどの感情を判断する役割がある。)はマイナスの感情のレッテルしか貼っていない。
「助かる。」
アゼルが手に持っているそれを受け取ったあと、
_____俺は、アゼルを地面に押し倒した。
お疲れ様です。蒼月夜空(Aotsuki Yozora)です。
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