14話「月の雫」
俺は浴室へと続く扉を右手でゆっくりと開けた。
カグヤ達の身体を見ないようにするために、目をつぶりながら。
扉をゆっくりと開けると、お風呂からモコモコと湧き出る熱せられた水蒸気が、俺の体へと突撃してきたため、サウナか?
と錯覚してしまいそうだった。
「漸く来たね!お兄ちゃ_____お兄ちゃん......その傷は......?」
聞かないでくれるのが一番だったが、ブラコンのカグヤにそれを願っても無理だったな。視界が真っ暗なため、どういう表情をしているのか具体的にはわからないが、心配そうな表情をしているのが目に見える。
「...話したいのはやまやまなんだが......先に聞いておくから絶対に嘘をつかないで答えてくれ。......目を開けても俺が大丈夫なように、朱雀と九尾をカグヤとアゼルはそれぞれ抱きかかえてくれ。話はそれからだ。」
俺が鼻血を出さないようにするための、措置として考えておいた秘策だ。
カグヤが九尾と朱雀を連れてきてくれていたのは、俺にとってもかなりありがたい要因だったな。
「あっ!確かに!それだったらお兄ちゃんが一緒に入っても大丈夫だね!」
カグヤの元気そうな声が聞こえると同時に、バシャバシャと水の音が聞こえてくる。俺の言葉を聞いてすぐに行動に移してくれたのだろう、カグヤが九尾もしくは朱雀を抱きかかえに行くために移動しているんだろうな。......2.5畳もあるらしいからな......浴槽...。
「お兄ちゃん、もう大丈夫だよー!」
反響するように、カグヤの声が耳に響く。
これで準備は完了したはずだ。
二人は実質水着を着ているようなものだし、視線を常に顔付近に固定させておけばいいし、少しでも動くようなことがあれば目を高速で閉じればいい。
そう強く自分に言い聞かせてから、俺は目を恐る恐る開けることにした。
「っ......眩しい....」
ここ数分の間、ずっと暗闇の中にいたため、浴室の壁に取り付けられている照明の光が、いつもの数倍以上明るく感じる。
何度か瞼を開閉していると、 ぼやけていた視界がハッキリとしてくる。
「______湯気が凄いな......」
普通なら女子の身体の方に反応すると思うが......いや、こっちの方が遥かに気になってしょうがない。霧の中にいる...には匹敵しないものの、カグヤとアゼルの姿が薄い白いカーテンを通して見ているような感覚だった。
「ふふ、お兄ちゃんは恥ずかしがり屋さんだからね、キューちゃんに湯気だけを召喚してもらったの!流石はキューちゃんだね!」
カグヤは俺の言う通りに、九尾を身体の前で抱えてくれていた(若干だが、九尾の身体の大きさが大きいように感じる。)。
九尾を褒めながら、先程の白虎のように身体に頬を擦り付けていた。
水に濡れてももふもふとした毛並みを維持しているのは、流石は九尾と言ったところか。
九尾の力を湯気を召喚するということに使うのは、世界でもカグヤだけだろうな。
......このツッコミ......当分の間は世話になりそうだ。
「ユウは本当に恥ずかしがり屋さんだね、別にそんなことしなくてもいいのになぁ......僕とカグヤちゃんは大丈夫だよ?」
銀髪の髪の毛を後ろでくくり、身体の前には朱雀を抱きかかえてくれている(朱雀も九尾と同様に若干だが身体を大きくしてくれていた)。
カグヤもアゼルも髪の毛が水に濡れていて、少しだけ艶めかしい。
「お前たちが大丈夫でも、俺が駄目なんだよ。......というか、アゼル。お前の髪の毛そんなに長かったか?」
アゼルと言えば銀色の短髪の姿であるため、長い髪の毛に違和感しか出てこない。ちなみにだが、カグヤは茶髪を全ておろしていてアゼル同様に違和感しか感じない。髪の毛が変わるだけこうも雰囲気が変わるものなんだな。
「ふふ、お風呂と言えば後ろで髪の毛をくくるのが王道でしょ?人型姿に僕は変身できるけど、魔力をさらに使用すれば、体型も自由自在に変えられるんだよね。」
「体型を自由に......か。その日の気分によって変えれるのは普通に便利だな。」
つまるところ、アゼルは女優のような体型から、幼い子どものような姿まで、自由自在に身体を変更出来るため、アゼルにとっては太る痩せるという概念が......ない......のだろうか......。超常的な力が存在する世界では、疑問が尽きないな。
「髪の毛の長いアゼル......雰囲気的にも合っているし、俺は結構好きだな。」
アゼルに対してここ最近態度が悪いように感じていたため、褒めるフェーズに入ることにした。アゼルは一応相棒というポジション。関係を良好な状態に維持するのも大事なこと。アゼルをたくさん褒めて伸ばしてやることにしよう。しばらくの間は、罵倒も悪口もなしだ。
「えっ?本当に!?」
アゼルが冷静さを欠いて食い気味に返答してくる。目をキラキラとさせていて、本当に嬉しそうだった。
身体もそれに比例するように動いてしまったが、朱雀がちゃんとガードしてくれいた。
ありがとう、朱雀。
今度お前に美味しい焼き鳥屋さんを紹介して......やるのはただのサイコパスだな。
「いや、髪の毛の長いアゼルが好きであって、お前の人格が好きなわけじゃない。」
めちゃくちゃ酷い事を言っているような気がするが、アゼルだしな。悪魔だしな。問題ないだろ。
あれ?......何か引っかかるが......気のせいか。
「ぶぅぅぅぅ......『悪魔の証明』でこの地域に住んでいる人間の不幸を、全部ユウに収束させるぅぅ......」
アゼルが駄々をこねながら、恐ろしいことを言ってくる。そんなことをすれば、同時に隕石と雷が直撃するという、世界でも殆ど見ない体験を俺はすることになるだろう。
「不幸が重なりすぎて俺は死ぬかもな。さよらなだ、アゼル。」
俺は淡々と予想した自分の未来をアゼルに伝える。
「あっ......ごめんなさい......」
悪魔の威厳は何処へ。
もはやカグヤの妹にしか感じない。身長もカグヤよりも小さいことも、さらにその直感を加速させている。
「お兄ちゃん......私はどうかな...?」
そんなこんなでアゼルとの痴話喧嘩(?)を終えたあと、九尾をギュッと抱きしめながら、躊躇いがちにカグヤがそう質問してくる。
これは......あれだな、兄として......何かを求められているような気がする。
「髪の毛を全ておろしているカグヤも、可愛いと思う。正直に言えば、す......好きではある。もっと自信を持ってもいいと思うぞ。」
アゼルのように淡々と答えたかったが、相手が半妹半他人の女子という存在であるため、僅かに吃ってしまう。
「そ、そう?えへへ///嬉しいなぁ♪ふふ//」
カグヤが心の底から喜んでくれていることがわかる。
目を伏せながら、九尾ことキューちゃんをギュッと抱きしめて、頬を僅かにだが赤らめていた。こう......なんだろうかアゼルとは違うベクトルで、本当に可愛いと思う。こんな妹をもっていいのか?そう疑問を抱くほどに。
「僕には、いちいちいらない言葉を添えるくせにぃ......」
アゼルが頬を少し膨らめて、ジト目でこちらを睨んでくる。
正直......怖い、というよりも、可愛い。そんな言葉しか脳内には浮かばなかった。
こいつはこいつで......普通に可愛いんだよな......。
*
シャワーで身体の汚れを洗い流し、いつものように髪の毛、全身の順番で身体を洗ってから、2.5畳もある巨大な浴槽に俺は浸かることにする。
農村と聞いて比較的貧しい地域だと認識していたが、現代の地球とほぼ変わらない設備には驚きだった。
シャンプーとリンスで二回に分けて洗う手間がなく、一度の手間だけで同等以上の効果を得られるため、その点だけで言えば地球よりも優れている.....かも知れない。
オールインワンシャンプーが当たり前かつ、効果は現代の地球に軽く匹敵していた。
西暦1910年で、ここまで技術が進歩しているのはひとえに魔法のお陰だろう。
「このお湯......温泉と比べても遜色ないな。」
浴槽に浸かる前に、異世界のお風呂がどのようなものかを確かめてみると、
質感はとろとろとしていて、水に浸けている右手には纏わりつくような感触があった。それだけでなく、どこかいい香りも漂っていて鼻孔を擽ってくれている。
家庭用のどこか人工的に温めたようなものよりも、温泉のような感触の方が遥かに強い感じだ。
「ふふ、お兄ちゃんはキューちゃんやスーちゃんと入らないから知らなかったと思うけど、キューちゃんはお風呂の温度を、常に私達が心地よいと感じる温度に調整してくれていて、スーちゃんはお湯自体の効能をスーちゃんの能力で活性化してくれているだぁ。どう、凄いでしょー?」
どうやら.......このような質感はこの家庭限定......というよりもカグヤという存在がいることが前提らしい。
カグヤを連れていけばどのお風呂でも温泉に早変わりというわけか。
......最強だな。
「......九尾と朱雀の力をお風呂に使うのは、お前だけだろ......」
もはやカグヤがボケて、俺がツッコミを入れるポジションになっている。
「えっ?それがキューちゃんとスーちゃんの力じゃないの?」
しかし、天然すぎるカグヤは違う。本当に九尾と朱雀の力をそれだと認識している。九尾って妖怪の中でも最強角だよな?朱雀ってあの四神の朱雀だよな?
俺......間違っているのか......?
「そ、そうだな。......カグヤの言うとおりだな。」
結局迷った挙げ句、そう折れる(?)しかなかった。
「だよね!流石はキューちゃんにスーちゃんだよね!」
相変わらず話の内容が意味不明すぎて理解に困るが......これがカグヤなんだろうな。九尾のことをめちゃくちゃワサワサしている。そんな九尾を朱雀が少しだけ羨ましそうに見ている。
......だよな.....お前に抱きついているのはアゼルだもんな......悲しいよな......。
今度はアゼルの変わりとして、俺が行こう(願望を含む)。
「_____ふぅ.................あぁ...........疲れたぁ.............癒やされるなぁ.........」
カグヤとアゼル達から少しだけ距離を空けて、俺は浴槽に入った。
2.5畳という馬鹿みたいに広い浴槽のお陰で、三人(+二匹)が入っていてもまだまだ余裕があるほどだ。
久しぶりのお風呂は、俺の合理的な思考を解きほぐし、他人であればまだ理性が効いたかも知れないが、ここにいるのはカグヤとアゼルであるため、ハードルは一切なかった。一人でお風呂に入る時と変わらない態度を曝け出している。
「ふふ、お兄ちゃんとっても気持ちよさそうだね!見てるこっちまで心地よく感じるよ!」
「何せ、久しぶりのお風呂(数カ月ぶり)だしな。それはもう楽園と遜色ないぞ。」
「あっ、そうだったね!お兄ちゃんは久しぶりのお風呂(10日ぶり)だもんね!その気持はとってもわかるよ!」
一時はどうなるかと思っていたが、カグヤの存在は家族の範疇にギリギリ入るし、広い浴槽であるため身体が触れることがないし、九尾と朱雀が防御してくれているし、そこまでの遮蔽というものではないが湯気もある。
流石は魔法が存在する世界だな。
地球では無理だったことも、この世界では簡単に実現出来る。
_____ニコラ・テスラ。
俺が尊敬している人物の一人だが......もし、彼のような卓越した知能と未来的発想を持つ人間がこの魔法の世界に生まれたら.......世界の文明を、あまりに恐ろしい速度で発展させることになりそうだな......。
「っ......」
うん?
今......僅かにだがアゼルが、表情を鋭くさせたように感じた。
視線を一瞬ではあるが、窓の方へと向けていた気がする。
...気のせいか?
「ユウ、カグヤ、僕は先に出るよ。」
どうやら......俺の直感は合っていたらしい。
アゼルらしくすぐに行動に移すことを決断したようだな。
その表情はどこか真剣で、大事な用であることは誰の目からみても明らかだった。
「もう出るのか?まだあまりに浸かれていないだろ?」
カグヤは突然の状況に、声が出せなかったため、俺が変わりに問いかけることにする。
「少し用事を思い出してね。朱雀はユウに預けるよ。」
アゼルは俺に言葉を伝えてから、コウモリの姿へと変身をして、いつものように俺の左肩に停まった。
朱雀はアゼルの言葉に従って、俺の身体の前まで来てくれた。
願望を願ってから数分も経っていないため、今日の俺は幸運だと確信した。
「ユウ、この姿だと扉の開閉が出来ないから頼んでもいい?」
......なるほど。
アゼルが俺の左肩に停まったのは、それが理由らしい。
「...わかった。」
アゼルの真意を問いたかったが、どこか真剣な表情であったため深く聞くようなことはしなかった。
浴槽に浸けていた身体を起こして、脱衣所に続く扉を開けに行く。
「ありがとう、ユウ。用事を終えるまでに、少し時間がかかるかも知れないけど......」
左手の甲に移動したアゼルが、申し訳ない気持ちを伝えているのだろう。
しゅんとしたような態度で、身体を小さく縮こまらせていた。
「気にするな。深く問うようなこともしない。相棒だからと言って全てを曝け出す必要はないからな。」
そもそも全てを曝け出せと言われても俺はしない。
それを強く欲求してくるような人間がいるなら......絶好確定だな。
どうせ_____そんなことをしていた、そんなことを思っていたの?!
とか言われる未来だけだしな。なら最初から聞いてくるなって話だ。
「ふふ、ありがとうユウ。そう言ってもらえるととっても嬉しい。今夜は特別に......僕の身体を好きにしてもいいよ?///」
「お前が言うと凄く意味深だな......。それについてだが、興味はないな。お前が側に居てくれるだけで十分だ。」
アゼルの頭を優しく撫でてやる。
さっき構わなかった分アゼルはとてもうれしそうだった。顔をこちらに押してきて、『もっと!』と言われているように感じたため、アゼルが満足するまで撫でる。
『うんっ///』などどいちいち艶めかしい言葉を発するのはやめてほしいが......。
15秒ほど撫でてから、右手をゆっくりと離すと、
アゼルの表情は、8時間の睡眠をとり付き物が落ちたかのように、顔がキラキラと光っていた。
「はぁ...気持ちよかったよ、ユウ///......まだまだつれないなぁ......とは思うけど、それがユウだもんね。」
アゼルはそう呆れながら人型の姿へと変身した。
さっきのような何も身に着けていない状態ではなく、服を身に着けている状態だった。
俺の言葉を聞いてからだろうが、髪の毛の長さが短髪から長髪へと変わっている。
どこか真剣な雰囲気を醸し出しながらも、俺の言葉は一言一句聞き逃さないようだ。
......アゼルらしい。
「じゃあ、少しの間行ってくるね。」
「あぁ、気を付けてな。」
ここだけ切り取れば夫婦と変わりないな.......。
「い、行ってらっしゃい、アゼルちゃん!」
「うん、行ってくるね。」
アゼルは俺とカグヤに向けて一言だけ残したあと、
一度もこちらを見ることはせずに、足を進めた。
俺はその姿を確認してから、扉を閉めて、再び浴槽に浸かることにした。
アゼルがいなくなったことで、浴槽の雰囲気は完全に変わった。
カグヤもアゼルが居たからこそ、恥ずかしい気持ちが少し和らいでいただろうが、もうアゼルはこの場にはいない。
少しの間、沈黙が流れることになった。
「アゼルちゃんどうしたんだろうなぁ......」
浴槽に浸かって目を閉じていると、カグヤの声が聞こえてきた。
俺に話しけているというよりも、自然と疑問に思ったことを口に出したようなものか。
俺は浴槽に浸からせていた身体を僅かに起こす。
「さぁな、真剣そうな表情ではあったが......実は軽い用事でした。とかの可能性も全然あるな......アゼルだし。」
アゼルの表情を想像しながら、俺はそう喋った。
「えー、そうかな?私は結構重要な用事だと思うけどなぁ......」
俺には俺の。カグヤにはカグヤの。それぞれの視点があるのは面白い。
もしこの場に他の人間がいたら、どんな予想をするのか聞いてみたいものだ。
「アゼルの表情や態度から推測するのはキツイ。となると...外的要因から考える必要があるな。」
「外的要因......?」
カグヤが頭上に『?』を浮かべながら、可愛く聞いてくる。
......流石は俺の妹。どんな表情でも可愛く感じる。
「あぁ、例えば......今日はいつもと違う特別な日だったりしないか?」
カグヤは俺と合わせていた視線を天井に向けた。
「うーん______あっ、そう言えば......今日は『奏踊際』の初日だったね。」
「『奏踊際』?」
当たり前ではあるが聞いたことがない単語だ。
「うん、『奏踊際』。セレティスのマレーナで一年に一度、8月27日から8月29日にかけて行われる、豊作と豊漁を願う大規模なお祭りのことだよ。この三日間で合計で100万人以上の人間が参加するほどだね。」
「『奏踊際』とアゼルか。......絶望的なまでに噛み合わないな。」
アゼルならもっと荘厳で、豪華絢爛といった夜の宴に参加しそうなイメージだ。
ワインを片手に、黒色のドレスでも着ていそうだ。
「うーん......アゼルちゃんなら......あれを狙っているかもね。」
「...あれ?」
「うん、『奏踊際』の時だけに販売されると噂の......『月の雫』って呼ばれる宝石のことだね。」
「『月の雫』?......あれか?一度だけ願いを叶えるとか、めちゃくちゃ幸運になる、とか言われる石みたいなものか?」
地球ではそんな胡散臭い謳い文句を掲げて、宝石を販売しているやつがいたような気がする。
「そうだね、そんなイメージだと思う。なんでも......それを好きな人にプレゼントすると、永遠の絆が生まれるんだって。アゼルちゃんは、お兄ちゃんのことが大好きだし、『月の雫』を思い出して急に行動に移した。っていう理屈なら私は納得かなー。」
「それ、まやかしの類じゃないのか?だが......カグヤは本当にそう思っていそうだし......本当に効力があるのか?」
そもそもの話しだが、アゼルがこんな嘘くさい話しに興味を示すとは思えない。
アゼルがこの話しは本当であると確信する何かがあったんだろうか?
そうとしか思えない。
アゼルは俺に対しては馬鹿みたいな言動をするものの、普通に頭が切れるし、合理的な思考の持ち主であることに変わりはないからな。
「それが......どうにも本当らしいんだよね。『月の雫』をプレゼントした恋人同士が別れたって話しは一度も耳にしたことがないし、その効果が本物であると皆が思っている最大の理由に、世界の国の王や皇帝も狙っているという事実があるからだね。実際......王や皇帝達の間では、結婚指輪の変わりに『月の雫』をプレゼントすることが愛の証明になっていたりもするね。」
「王や皇帝すらも狙うもの......か。その理由があるなら...アゼルが興味を抱く理由にもなるか。だが......そんな都合よく見つけられるものか?」
カグヤ曰く王や皇帝達も狙っているってことは、それを見つけるために国に存在する人間を選別して、最強の部隊を作って潜入させているだろうしな。
「アゼルちゃんなら......おかしくないかも知れない。『月の雫』は、真実の愛を持つものだけがそれを手に出来るって言われているし......アゼルちゃんは相当お兄ちゃんのこと好きそうだし......意外とあっさり手に入れるかもだね!」
真実の愛.......か...。
「アゼルが『月の雫』を入手=アゼルが本当に俺のことが好きっていう構図になるのか......。嬉しいのか、嬉しくないのか、わからないな。」
アゼルは俺のこと(ユウ)を好きらしいが、俺はアゼルに対して好意を抱いているわけじゃない。俺が自分にそう言い聞かせている可能性もなくはないが......それはないだろ。アゼルだしな。
「まさかお兄ちゃん......わ、私の方が......好き...とか?!私...妹だよ!?」
カグヤは、離れていた距離をめちゃくちゃ詰めてきた。
そして過呼吸気味に、顔を近づけてくる。見える見える.......九尾...まじで助かる......。
あのな、カグヤ......自分が何も身に着けていないことを忘れないでくれよ......。
本当に......アゼルしかり、カグヤしかりどんだけユウのことが好きなんだよ。
「まぁ......アゼルとカグヤを比べるなら、カグヤの方が百倍好きだな。」
「えー本当に!?えへへ///嬉しいなぁ♪でも、アゼルちゃんにも私以上に好意を向けるんだぞ〜、アゼルちゃんは相当お兄ちゃんが好きだと思うし......お兄ちゃんはちゃんとそれに答えてあげてね!」
「......善処はする...。」
正直に言おう。
俺は女子という生物に対して好意を抱いたことが一度もない。
というかそんなものを抱く環境すらも俺には与えられていなかった。
ただ家の中で勉強をして、外ではピアノや合気道などの技を学んで、
ただ俺という人間を、天才に育て上げるための教育の日々だったからだ。
そんな日々を過ごしてきた俺には、そんな感情が湧くことなどなかった。
今、アゼルやカグヤに対して向けている感情が、好きという感情なのかも俺はしらない。
だからこそ......知りたいとも思うし、自分の正義の先にあるものも知りたいと俺は思っている。
愛と正義について。
俺が人生全てをかけて追い求め続ける問いだ。
アゼルとカグヤ達家族、そしてそれ以外の人間や生物達。
多くの出会いを通した果てに、俺がどういう答えを導き出すのか。
アゼルには_______そんな俺を、隣で見守っていてほしいと思った。




