9話「黎明の審判」
『______大丈夫ですか?ユウ?』
まただ、またあの人物の声が聞こえてくる。
......というか......勝手に喋りかけてくんな。
疲れている時に......
『......大丈夫なわけないだろ。......というか......またおまえか......。結局......お前は誰なんだ?』
いい加減に正体を明かしてもらいたいものだ。
『私ですか?そうですね......ただの女王です。』
『女王に......ただのって言葉は、ありえないくらい似合わないな。
もう少し威厳というものを持ってもいいんじゃないか?』
どうせ嘘だろ。
女王の威厳というものをまるで感じない。
自身は女王であると脳が錯覚しているのだろう。
可哀想なやつだ。
『威厳ですか?ふふ、いりませんよ。そんなもの。それよりも______』
『それよりも?......なんだ?』
あまりにも長過ぎる沈黙に、自然とそう言葉に出していた。
こいつ......絶対にかまってちゃんだ。
付き合ったら、絶対に面倒くさい関係になるだろう。
『......お餅を食べたいんです......。ここ2日程食べていないので......。』
重々しいトーンなのに、内容が軽すぎる。
『......2日くらいなら大丈夫だろ。それに、餅は100g単位でのkcalが高い。
食べ過ぎると太るぞ。まぁ......デブの女王は、それはそれで愉快な存在にはなるだろうな。』
『......相変わらず酷い人です......泣いちゃいますよ......?』
『......知らんな、勝手に泣いてろ。』
『____うぅ......ぐすっ......ぐすっ......酷いですぅ......』
『泣くのかよ......。はぁ......めんどくせぇ......』
やはりだ。俺の直感は何一つ間違っていなかった。
『_____って言うのは......嘘でした!』
『はっ?......嘘かよ。『月天の輝塵』最大出力でお前の国を滅ぼしてやろうか?』
まぁ......こいつが統治する国なんてないだろうな。
妄想が激しすぎるただのアホだ。
『す......すみません......調子に乗りました......』
『はぁ......こうなることは明白だったんだから、やらなければいいものを......。
脳細胞がお餅に侵食されて、お餅細胞になっているんじゃないか?』
『お餅細胞......ネーミングセンスは絶望的なまでに皆無ですが......それはそれで嬉しいですね!
自分の大好きな食べ物が自分の体と一体になっている......素敵じゃないですか?』
『罵倒に、理解不能な言葉に......お餅細胞の侵食が激しいな......。
脳外科を受診することを進めてやるよ。』
『ふふ、心配はいりませんよ。もうとっくに侵食されていますからね!』
『あっ......確かにな。悪い、もうすでに手遅れだったな。
......潔く死ね。』
『むぅ......あなたの術式を制御して上げたのに......酷い言われようですよぉ......』
会話の途中であったが、急にナイフをぶっこんでくる。
『そう......だったんだな。ありがとうな、誰かは不明なお餅の使者。』
俺が『月天の輝塵』を最初から制御出来ていた(威力は無理だったが)のはこいつのおかげだったようだ。
『ふふ、どういたしましてです。私は凄いのですよ!』
『そうだな、凄いな(棒読み)。よし、感謝の意は伝えたから......潔く脳をお餅に支配されてろ。』
『それは楽しそうですけど......私には守るべき者たちがおりますので......それは私が最後の一人になった時にでも叶えるとしましょう。』
『やるのかよ......はぁ......お前と会話してると、アゼルの数百倍疲れる......』
アゼルは俺に近い思考形態をしているため、話のテンポが噛み合いやすい。
だが......こいつとはありえないほど噛み合わない。
俺達の関係を例えるなら、水と油だろう。
『ふぅ......あなたもそう言うのですか......むぅ......相手を楽しませようとしているだけなのですけど......』
『全部裏目に出ているんだろうな。100%お前が悪い。』
『むぅぅぅ..........あっ!今、いいことを思いつきましたよ。』
『いいこと?......嫌な予感がするんだが......気のせいか?』
『ふふ、気のせいですよ。これから......私が暇な時に、話し相手になってください。』
『はっ?無理に決まってんだろ、脳みそに百足でも詰まってんのか?』
『ふふ、流石はユウです!私は肯定してくれると信じていましたよ!』
『こいつ......駄目だ、早く何とかしないと......手遅れに......いや、もうなっているな......』
こいつはやばい。
認知症よりもある意味では面倒だ。
やはり......ここは『月天の輝塵』で焼き尽くすべきか......
こいつに対して、どのように処理しようか考えいると、焦っているような声が聞こえてきたため、思考を一旦切り替える。
『えっ?......あれ?......もう会議の時間ですか?......あっ、そ、そうでしたね......はい......すぐに出ますね......』
俺に喋る時のトーンとはあまりにも違う、弱々しい子供のような声だった。
『おい......お前......会議の前に俺と会話をしようと考えたのか?やっぱりただの馬鹿だな。32+47=は?』
『むぅ......馬鹿にしていますね、わかりますよ69ですね!!』
『79だぞ。アホ確定だな。阿呆鳥って読んでやるよ。』
俺が0歳の時に解けた問題を、こいつは解けないようだ。
『い、今のは......無しです......あとでリベンジします......』
『そうか......だな。とりあえず、会議......に早く行け。周りを待たせるな。お前だけの時間が過ぎ去っていくわけじゃないんだからな。』
『......はい......。』
その言葉を最後に、俺達は会話を終えた。
*
誰かの声が聞こえる。
何を言っているのかハッキリしないが......目覚めなければならない、という焦燥感に駆られる。
その直感に従い、疲れているが意識を覚醒させることにした。
「____うぉ、びっくりした......」
ゆっくりと瞼を開けたんだ。腹減ったな、毛布が柔らかいな、そんなことを思いながらいつものように目を開けたんだ。
そしたら......覗き込むように、視界を埋め尽くすようにカグヤの顔があるわけだ。
ホラー映画かと一瞬思ったのは、無理もないだろう。
そして......顔が近い。
一步間違えれば、キスしてしまいそうだった。
「わっ、......もう、急に起きないでよぉ......びっくりしたんだからね、お兄ちゃんの馬鹿!」
カグヤも俺と同じようだったらしい。目を思いっきり開かせて、驚いていた。
「えぇ......俺が悪いのか......?」
目覚めた開口一番に、馬鹿!と言われる兄の絵図だ。
直感で起きなければならないと思った結果がこれとは......。
なぜだ?普通は......『よかったよぉ......』とか泣きながら言われるんじゃないのか?
そう疑問を抱いてしまう。
「おはよう、ユウ。15分ぶりくらいだね。」
窓際にポツンと座り、もはや置物と殆ど大差ないコウモリ姿のアゼルだ。
「あぁ...おはよう...。というか......15分しか経っていないのか。1時間くらいは気を失っていたような気がするんだが......まぁ、いいか。」
お餅の使者もとい馬鹿野郎と会話をしたせいで、回復出来たとは言えそうにない。今度話しかけてくる時までに口撃と計算問題を用意しておかないとな......。
馬鹿なまま会話をしていくのは御免だ。早急に教育カリキュラムを組み、育てる必要がある。
「お兄ちゃん......体調は...大丈夫そうかな......?」
若干涙目...いや、俺が気を失っている間に涙を流したのだろう。
瞼には痕があった。
自分も大変だろうに......ユウといいカグヤといい、本当に優しいやつらだ。
「...あぁ、大丈夫だ。」
俺は心配をかけさせないように、少しだけ真剣なトーンで言葉を返す。
カグヤからすれば俺はユウだ。
だが......魂はユウではなく、游だ。
そう自覚しているからこそ、返答には多少困ってしまった。
「......よかったぁ......よかっただよぉぉ......ずっと......心配してたんだからね......」
ダムが決壊するようにカグヤの瞼からは涙が溢れ出した。
地面に膝をつけて、体を俺に預けてくる。
「ユウ。」
ギリギリ聞こえる程度の声量で、アゼルがそう言葉を発した。
その意図は何なのか?
どうしてもわからなかった俺は、窓際に居座っているアゼルに視線を合わせた。
アゼルは、さらに言葉を紡ぐようなことはしなかった。
ただ、ずっと俺と視線を合わせてくるだけだった。
なんとなくアゼルの意図を察することは出来たが......本当にそれでいいのか緊張してくる......。
だが......緊張している時間は無駄でしかない。
そう思考を切り替えて行動に移すことにした。
「......心配かけたな、カグヤ。」
そうカグヤに伝えながら、背中を優しくさする。
違和感でしかない。
なぜこんなことをしなければならないのか。
甚だ疑問でしかない。
そんな感情。
だが......不思議とそこまで嫌というものではない。
満たされる。
そんな感情も同時に抱く。
アゼルを撫でた時とはまた違う感情だった。
これが......家族に向ける感情なのだろうか?
俺にとって家族とは、憎悪と絶望の感情しか湧いてこない対象であるため、
四神がペットとして、家庭に飼われているくらい違和感でしかなかった。
カグヤは少しの間、涙を流していたが、ゆっくり顔を上げて服の袖部分で涙を拭った。
「お粥......持ってくる、少し待っててね!」
とびっきりの満面の笑みを見せてくれたあと、軽い足取りのまま扉を開けて、下の階へとカグヤは降りていった。
性格といい動きといい、天真爛漫と言ったものを感じる。
アゼルはカグヤが下の階へ降りていったのを確認したあと、パタパタと翼を動かして、窓際から俺の枕元付近に停まった。
「......大丈夫じゃないでしょ?本当は。」
いつにも増して真面目なトーンで話してくる。
......ほんと、ユウに関しての観察眼だけであれば、諸葛亮に匹敵するほどだ。
「流石に......お前の目は騙せないか。」
カグヤには本音を伝えなかったが、アゼルには本音を伝える。
心配をかけさせるだけだしな。今のカグヤにはそれは早い。
「ふふ、僕はユウが大好きだもん。昨日に比べて髪の毛が0.21mm伸びたことがわかるくらいだしね。」
「それはそれで......変態すぎるな......。」
大好きという言葉に分類するよりも、変態という言葉に分類する方が遥かに合っているんじゃないか?
そう言ってやりたくなる。
「で.......これが、アゼルの言う大変なことなのか?」
自分の体に一度目を向けてから、アゼルに問いかける。
横になっているため、意識はマシそうに感じるだろうが......実際は、痛みに慣れているだけであって、かなりしんどい。
A型インフルエンザに罹っている時に近い状態だ。
「うん、そうだよ。『黎明の審判』。ユウの術式の『月の支配者』の権能『月天の摂理』が変質したもの。能力としては、『月天の摂理』の能力を封殺し、倦怠感と虚無感をユウに与え、さらに頭痛を発生させるってものだね。」
「何だそれ......世界最悪の権能だな......。だが、不思議と納得がいく。推測するに......夜の反動みたいなものだろ?」
というか、それしか考えられない。
隕石衝突に匹敵するエネルギーを発生させられる術式に、反動がないなどありえない。世界には必ずそれ相応の対価が発生する。
「うん、正解。僕が最初に言った言葉を覚えているかな?『最強と最弱を併せ持つ、表裏一体の究極の先天的魔法術式』という言葉を。それはこの術式の本質そのもの。『月の支配者』は夜の間であれば、間違いなくこの世界でも最上位どころか世界で一番強い術式かもしれない。でも......その反動として朝は術式は使用できるけど、本人がデバフを受けすぎて1割もしよう出来たら御の字。ふふ、面白い術式でしょ?」
「一年の半分が最強で、一年の半分は最弱。......クソだな。アゼルがいなかったら......朝に殺されて終わりだな。」
俺が断罪に失敗し、尚且つ術式について解明されていた場合、朝に狙われて殺される。そんな未来が容易く想像出来る。
「ふふ、だからこそユウには僕が必要なの。僕の『因果律の悪魔』は一見すると攻防最強に感じるかも知れないけど、実際の本質は圧倒的なまでの防御力と支援能力にある。それでユウの超絶火力を支援する。ユウは僕に足りない攻撃の要を担う。僕達は個人で弱いかも知れないけど、二人揃えばその実力は、世界を相手にしても戦える程になる。最高の関係だと僕は思うよ。」
「確かにな......満月の夜のときであれば......世界を簡単に滅ぼせるだろうな。」
『月天の輝塵』を、『|因果の転移』で威力を減少ではなく、増加させて首都を爆撃するだけ、勝手に世界のシステムは崩壊していくしな......。
「なぁ、アゼル。少し気になったんだが......ちょっと付き合ってくれ。」
隣にいるアゼル(コウモリの姿)を両手で持ち、頭上付近に挙げる。
「どうしたの、ユウ?」
僅かに首を傾げながらアゼルが話しかけてくる。
「このまま......アゼルが人型に変身したらどうなるのか、とな。」
俺はふと湧いてきた疑問を、そのまま伝える。
疑問は素早く解消するのがベストだ。
どうせ......わからないままいても時間の無駄でしかない。
「確かに...ちょっと気になるね...。でも、怪我しちゃうかも知れないけど大丈夫?」
「問題ない、アゼルは軽いくらいだしな。」
「ふふ、じゃあ......遠慮なく変身するね。」
アゼルは満足そうにしながら、コウモリから人型へと変身した。
俺は..........世紀の馬鹿だった。
『黎明の審判』が発動していることが、どれだけ自分にとって最悪の状態なのか。
それを理解することになった。
アゼルは人型へと変身した。
軽いはずだった。
だが......今の俺には『月天の摂理』の効果がない、つまり......肉体能力はカス同然だった。
それだけじゃない、A型インフルエンザに近い状態で、魔力による肉体強化も施していない今の状態は、ただの虚弱体質の人間でしかない。
そんな状態の人間に......体重が40kgに近い人型姿のアゼルを、両手だけで支えることなど出来るはずもなかった。
案の定......アゼルを支えきれず、重力に従うようにアゼルが俺の体にのしかかった。
猛烈な衝撃が上半身に伝わる。
「うっ......そうだった......完全に忘れていた.......」
胃酸が逆流しないように、意識するだけ精一杯だった。
なぜこんな実験をしたのか、数分前の俺に文句を言ってやりたい。
「だね......僕も完全に忘れていたよ......」
二人して愉快な気持ちになってくる。
互いに少し口角を上げて笑いあう。
たまには、こんな馬鹿な時があってもいいんじゃないだろうか?
ずっと気を抜かないなど不可能なのだ。
だが..........俺は想像出来なかった。
この態勢、誰がどう考えても愛し合っている男女そのものでしかないということを。
聞こえてきたんだ。
階段を昇ってくる足音が。
やばい、そう直感した。
だが、気づいたときには遅かった。
何せ......カグヤはすでに、部屋の扉を開けていたからだ。
出来たてホヤホヤなのだろう、かなりの湯気が昇っているお粥を手に持っている。先程言っていたお粥とは、これのことだろう。
「お兄ちゃ______あっ、ご、ごめんね!?でも......イチャイチャするのは夜だけにしてね!バ、バイバイ!」
カグヤはお粥を近くの棚の上にそっと置き、白色の頬を真っ赤に赤らめてから、部屋の外へと出ていった。
「ユウ......今の気持ちは?」
「誰もいないと思っていた公衆トイレで歌を歌って......隣に人がいた時くらいだな......。」
そんな......気持ちだった。
お疲れ様です、蒼月夜空です。
昨日...ゲボを吐きました。
....少し投稿頻度が遅くなりました...すみませぬ....。
皆さんも...体調にはお気をつけて......




