師を越える【天使偶像の白弓】――⑦
そして。
そうした後の決着は、束の間の出来事だった。
脳疲労影響すらも超越的な全能感に変換された超常状態において、ボクとお師匠様は間違いなく、拮抗にあった。
そのうえで――拮抗の状況で、ボクらは二人。二対一だった。
「【属性転換】――《因果運命》・《外》⇒《内》」
「――――――!!!!」
モニカが早撃ちで放った複数射を、おそらく止まったように見えているのだろう視界の中――お師匠様は瞳を見開き、迫り来る飛来物に刮目した。
そう、それら実体の弓矢を。
「これは――――…………?」
《辿るであろう只唯一の道筋》を見つめ続けてきた、|高貴なる完全純潔の白花の瞳に。
しかし、モニカの試みた魔法は。
――――観測、及ばなかった。
「魔法が私の意識という、私の手から完全に離れることで、一つ、分かったんだ」
後語りのように、モニカが声を届ける。
「世界に影響を及ぼしていない物体なんて、この世に一つとして無いってことに。そうしてお師匠様が仰っていたことに、理解が及んだ。
この世の遍く物は、この世に存在している時点で世界へ影響を与える因果運命が決定付けられている。
そのことに。
例えば無作為に放った弓矢であれば、弓が放たれたその時点で――もしかすれば放たれる前その時点から、何を射ってどんな影響を与えるのかということが、決定付けられている。
お師匠様はそこのところの因果に観測が及んでいたんだ。
自身に影響を持つ物だけに注視して、影響を持たない物には無駄な意識を割かず、あとはどちらでもない不確定因果を持つ物に自分から当たりにいかないことだけに気をつけて、避ければいい。“不確定因果を持つ物”の解釈が少し難しかったけれど、例えば人混みの中での“ぶつかるかもしれない人”がいる事と、同じような解釈で理解を進めてみた。
【属性転換】で、《因果運命》の《外》、《影響を及ぼさない》という世界への影響を、《内》、つまり《影響下》に属する《因果運命》に変換したんだ。私だってまだ完全には理解及ばない。けれど私の手から離れた魔法は、私の意思とは関係ナシに魔法という影響を発現するの。――ストックした魔法は、【天使の肉片】を精錬素材とした矢じりにエンチャントすることもできるんだ。凄いでしょ?」
「――……嗚呼、凄いねぇ。本当に、凄いのだろうね。たぶんね。私に……私の喉元に刃の切っ先を添えたのはキミたちが始めてだから、おそらくそうなのだろう。そしてこれは確実に言える。――ここまで来たのだね。よく、強くなったのだね」
お師匠様は、万感の情を込めて、仰ってくれた。
ボクは。
【銀灰の細身剣】の切っ先をお師匠様の喉元に添えた、ボクは。ボクは。
ボクは。
ボクは――――……。
「――――――――ク、ソ…………」
脱力し、地に落とすように、お師匠様の喉元から【銀灰の細身剣】を引いて。本当に、情けない声を漏らした。
そうして、お師匠様もボクの喉元から、剣の切っ先を退けた。
回避不可能の弓矢を、全て叩き落として、走るボクの刃――そして、決着となる剣先は。
同時に、互いの喉元へと届いた。
二対一。こちらは30秒ともたない反則的な補正の状態で、絶好期、これ以上を望めないお膳立ての一瞬で。
――――……。
ボクたち――ボクは。
「クソォ――――――――ッッッッ!!!!」
「――その向上心があれば心配いらないね、……なんていう言葉は、今は野暮かねェ。確実に段階を上がってきた、だが惜しかった。いや、私としては、してやられたがね……。――さて、では。反省会といこうか。今回は……一応やっていただけの、前回までと違って、有意義なものになりそうだ。うん、さあ行こうか、《リョウガ》、《モニカ》」
「――……「「――はい、お師匠様」」
いつまで経っても、このお人はお師匠様で、そして、ボクたちは弟子であるのかもしれない。ふと、そんなことを思った。
兄貴、惜しかったよ。
今日はモニカに慰めをもらいながら、今日のところは――この足で、家に帰っていった。
「…………悔しいな」
「フフ、兄貴のそんな顔、始めて見た」
「からかわないでよ、モニカ……」
今日は。
近いうちに、ボクたちはこの家から旅立つだろう。
あの厄災の浮遊大陸、魔王の座す大地へと。
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――【|高貴なる完全純潔の白花】との決戦。
使用武器・【銀灰の細身剣】、【【天使偶像の白弓】
result・――完全拮抗。
Next・【オブレーガの大地】




