師を越える【天使偶像の白弓】――②
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お師匠様の勘が珍しく外れたことが発覚したのは、少しの日を置いた先日であった。
【ランベレス領域】に、再び【オブレーガの大地】の悪夢が現れるという【幻獣遭遇】が発生した。
【転位陣】の不具合……? この短い期間で、歴史上二度目の? あり得なくはないが、考えづらいだろう。
強力な存在の出現を察知し、いの一番に駆け付けた討伐者がお師匠様でなければ、大変な被害がもたらされていたことだろう。
アルネア大陸の歴史上、最悪の幻獣遭遇。
浮遊大陸から出現した幻獣は、【竜の究極】だった。
悪夢の中の悪夢。
最強の竜はお師匠様が身に纏った衣服を、一薙ぎ、裂いてみせた。
……先陣を切って赴いたのがクラリスさんでなかったのは、幸運だっただろう。
どうなっていたか分からなかった。
何か、変化が起きている。
長い歴史の中で一度もなかった、何かが……。
「兄貴、ちょっとだけペース上げよっか。修行のほうも――武器制作依頼のほうも!」
「そうだね――。頑張ろうか」
【幻獣対策協会】もにわかにざわつき始めた。それに伴い、武器誂造の重要も爆発的に増え、ボクたちもコルトハーツさんのように面識のある【討伐者】から多く頼られる日々がしばらく続いた。
「この調子でこちらに浮遊大陸の幻獣を送ってこられたら、ちょっと困っちゃうねェ」
このたびの事象は、本当に大きな意味をボクたちへもたらした。
「私があの大地へ再び赴くわけには、いかなくなるかもしれない」
今後に関わる重大。
「なんにせよ、クラリスの解析待ちだね。しばらくは私が修行の指揮を取ろう」
そして――――。――なんとか、お師匠様の試練を生きてこなしてみせたその時、お師匠様はおもむろに、仰ったのだ。
「私の弟子たち、ついに私と仕合だよ」
ついに、ここまで来た――……。
ボクとモニカは不安に震えるでもなく、顔を曇らせるでもなく、ただただ「ついにここまで来たねぇ」と、顔を見合わせて感慨深く思い馳せたものだった。
「兄貴。私たちの目標は、あの日から、ずっと変わらず【オブレーガの大地】を攻略して【魔王】を討つことだったじゃん? でもいつの間にか、お師匠様をこうして超えることもまた、同じくらい強く思い抱いた目標になっていた気がする。そこには使命も雪辱もないのに……なんだか不思議だよね」
「そうだね、その不思議はきっと、ボクたちが逢えた幸運だったように思うよ」
「んー……幸運というには、ずいぶんと苦難に片寄った道筋だったけど……」
「本当の幸運とはそういうものかもしれないよ。――……それにしても苦難に片寄っていたとは、思うけれど」
「フフっ! 兄貴、絶対に、お師匠様へ私たちの確かな成長を示そう……!」
「うん。試練として挑む以上に……あの人へ、ボクたちの在り様を――悉く、示したい」
世界の在り様が変わろうとも、ボクたちの視線の先、見つめていた未来は揺るがない。
だが日進月歩を踏み締めて目指したその領域の片端へと、ついに足を踏み入れたという実感は、紛れもなく目指した未来の一つであった。
この結果如何で、未来の意味が大きく変わる。
ボクたち兄妹の、呼吸の証。
日進月歩の足跡、存在の証明。
生きてきた時間の実結晶。
【リョウガ鍛錬所】で鍛え上げた武器を、ボクたちは握り締めた。




