鏡の意味を持つ幻影蠱惑の連鎖刃《れんさじん》――⑤
今回の討伐対象である幻獣は、【大蛇の尾】なる【脅威度未知数】と判断されていた幻獣である。
大木の如き【大蛇の尾】が、尾の先端部位を天に伸ばし立てながら、後方の尾をうねらせ這いずっているのだという。
それの何が不味いかといって、その異様な姿を解釈するに、どうにも尖端部分に《不可視の胴体》が繋がっていることが考えられるからだ。
つまり、目視できない上半身を身体に含んだ、複合種獣の蛇神。
「それが先日に、【深刻警戒種】に認定された。――お師匠様の課す試練であることを考えると、嫌な予感が天井知らずだよぅ……」
モニカは臓腑を痛めたような表情で、ショボンと言った。
同感だったボクの臓腑もきりきり舞いを踊っている。
「不可視の胴体……兄貴、どんな正体が考えられる?」
「そうだな……透明化の魔法を手繰る【特殊幻獣】という可能性もあるし、そもそも透明体色の幻獣であるということも考えられる。――でもボクにはどうにも、それだけであるとは思えない。考えるに【大蛇の尾】は、実は不可視の胴体部分なんて存在しなかった、本当に尾だけの実在であったのかもしれない」
「――ほぉ。そういう考え方はしなかったな」
イヴさん、そしてミヤコさんも、ボクたちの話に興味を寄せた。
「実は胴体部分なんて存在しなかった……微妙な言い回しだけれど、――だというのなら、どうなる?」
「お師匠様のほうから【大蛇の尾】が【深刻警戒種】に認定された経緯を伏せられているということでしたが……――もし、『尾から胴が生えたから【深刻警戒種】に指定された』という経緯があったのなら、複合種獣の上半身がどの幻獣であるかは限定できます。姿を取るその前までは実在しない、箱や壺に秘された幻獣――」
「――――【箱の中の鏡】か……!」
イヴさんが勘良く答えてくれたことに、頷く。
そう、【箱の中の鏡】の上半身。
そう考えると、今回の話に、納得が生まれてしまうのだ……。
「兄貴、【箱の中の鏡】って、どんな幻獣だっけ……?」
「箱や壺に《実在を持たず》潜み、それを覗いた者の姿を高度に模倣する、【魔法幻獣】種の幻獣だね。発見例はこれまでに三度しかない、けれど『目の前の存在を模倣するまで実在を持たない』という、幻獣全種中、最も特異とされる生態特性は解析されている。そう、もしかしたら……【蛇神】の上半身は、【箱の中の鏡】なのかもしれない……」
もしかしたら――と言いながらも、確信めいた予感のこもったその言葉に、皆、首を傾げた。
ボクの臓腑は……きりきり舞いを踊っている。
「でもそれは……ただの予感であるから、話に上げることが、憚られたんだ」
「どういうこと?」
「モニカ。イヴさんから聞いたところによれば……この討伐依頼は、本来ならばクラリスさんがあたるはずだった案件ということだったろ?」
「そういう話だったね」
「クラリスさん級の実力が必要な討伐依頼。透明化の魔法や透明体色といった、チャチな案件では絶対にないだろう」
「うん。――考えてみれば、そうだ」
「だけどもし、実在を得た上半身の正体が【箱の中の鏡】だったなら――クラリスさんの手が、必要になることもあり得ると思う」
「……うん?」
「モニカ。もし上半身が【箱の中の鏡】だったとして。師匠が課した試練であることを考慮して。――――【箱の中の鏡】の上半身は、いったい……――誰を模倣したのだろう……?」
「………………――兄貴帰ろう」
モニカが思わず声にしたことに、ボクはふるふると首を振った。
「何にしても、もう進むしかない」
「(蒼白)」
「箱の内側から覗いた領域を模倣する魔法。――箱の外にあるから、この世界の誰もを映し取ることができたなんて、そんなトンデモ理論あるはずはないと、思ってしまうけれど。でもモニカ、覚悟だけはしておこう。今回もまた……立ち会う現実が、常識という常識を悉く超えてくる可能性は、あるから……」
「…………――ゴメン、兄貴、ちょっ、と、吐かせて。――――オロロロロロロロ…………」
モニカの背を摩りながら、ボクたちの修行に巻き込んでしまったお二人のほうを窺う……。
ミヤコさんは無表情を青白く染めて、イヴさんのほうは表情深い苦笑を浮かべていた。
「こりゃ、もしや私たちの持ち合わせていた覚悟は、随分と甘かったかな?」
正直、こんなのただの憶測だと、ボクも言ってしまいたかった。
本当に申し訳ないです……。




