鏡の意味を持つ幻影蠱惑の連鎖刃《れんさじん》――④
けれど、武器を創り上げたはいいものの、形式的な受諾もなしに個人用の武器を創ったことなど初めてだ、どうしようかと悩んだボクたちは、お師匠様を頼ることにした。
――――お頼みした立場で言えることではないが、それについては早計であったかもしれない……。
「私の弟子たちがキミ専用の武器を拵えたというから、私の顔を立てる意味でも、顔を出してやってはくれまいか」とボクたちを信じ、快く伝えてくれたところまでは、心から有り難かった。
しかし――。
「せっかくだから、弟子たちに修行として課す討伐委託の一案も、もし赴いてくれるのならば、私の弟子たちに伝えてくれると嬉しいよ。――いや、そうだ。キミの専用武器として用意されているという【アビスハウル】の性能テストも、必要だろうねェ。うん、よければキミたちも弟子たちに任せる幻獣討伐に、同行するといい。そうすると、この試練の内容では不足だろうねェ……。少し程度を上げなければ、私の弟子たちにも失礼というものだろう――」
といった話に発展することは、予想して然るべき展開であっただろう。ミヤコさんたちを死を伴う試練に巻きこんでしまった……。
「クロちゃんにお願いすればよかったかも……」とモニカはしょぼくれて言ったけれど、同意しづらいが同感とはいえ、後の祭りであった。
「本当にすみません。ボクたちの都合勝手から、押し付けるように助力を願う形になってしまって……」
「いやいいさ。エーデルワイス殿が課すという試練の重さを知る、いいチャンスだ。【討伐者】としてこの機会は申し分ない」
その気遣いに、どうにも赤面して言葉を詰まらせそうだった。
「それに、【特殊幻獣】種の【飛竜】を討伐した卓越者との共闘で不覚を取るほど弱くはないと、私たちも自分に期待したい。――なあ、そうだろ、ミャコ?」
――遠くへ届かせるように声を張ったイヴさんの呼び掛けにも、口をぎゅっと結んだ固い表情と、強張った身体の緊張は解けなかった。
頬に汗の一筋を伝わせるミヤコさんの背には、あの【死神の鎌】の代わりとして、形状特殊な鞘に収まった一振りの大剣が背負われていた。
ボクたちの創り上げた彼女専用の武器――【鏡の意味を持つ幻影蠱惑の連鎖刃】。
「…………」
その大剣を背に、ミヤコさんは辛そうに心を強張らせている。
「あらら。どうにも芳しくないね」
「――……イヴ、やはり無理です」
ミヤコさんは冷や汗を垂らして口漏らした。
「背に負っているだけでも、この武器の『揺るがない力』が伝わってくる。――私がどれだけ振っても、この【アビスハウル】は壊れてくれないでしょう。この武器は、確実に私へ力を与える……イヴ、あなたといえど――」
「ま、常識的な判断に則るなら、止めるところだけどな。しかし、私たちのために一案を講じてくれたのが、エーデルワイス殿のお弟子だというのであれば話も変わってくるだろう? もしかしたら……転機を得る事に成り得るかもしれない」
「…………」
お二人の話し合いに、ボクたちから、口を添える。
「――ボクたちは【特殊幻獣】種の【飛竜】を、鍛冶の匠技によって打ち倒した、鍛冶職人です。この度は手前勝手ながらも、一心、あなたのご意思に沿えるように、その腕を振るいました」
「ただ強力な武器を作るだけなら鍛冶職人じゃないよ、目的に沿った物を創り出すことこそ、鍛冶職人の本懐! その大剣は、『目的に沿う』、そのためだけに設計されて、兄貴が叩き上げた武器、あなたに添い、あなたと共に存在して道を見据える武器だよ。きっと、ミヤコさんが望む力の、助けになってくれる」
ミヤコさんは、「…………」と、しばらく、胸中で思いを渦巻かせていた。
やがて瞳を前に向けた彼女は、それまでの強張りを、意思の硬さに変えた声色で言った。
「――イヴ、いざという時は、頼みます」
「任された」
イヴさんは――まるで、うららのような穏やかで言った。
「安心しろ、いざという時は、必ず――私がお前を、殺してやる」
殺してやる。
イヴさんは確かに、そう言ったのだけれど――。
不思議だった、その剥き身の刃物に等しい言葉には、僅かの不穏も含まれていなくて。
どころかその言葉には、独りで絶望する人をどうしようもなく救う――そんな、涙が出るほどに温かい信頼の温度があった。
「――――イヴは私の処刑人です」
ミヤコさんは折を見て、共に歩みながら、そのことを教えてくれた。
「私が何かを犯した時のための、処刑人という相方。私たちの付き合い方からきっとお察しいただける通り――本当に、いつも、頼れる相方です」
表情の見えにくいその口元に、確かな微笑みが灯った。
「責任と私情のどちらも損なうこともなく伝えてくれる、“約束の言葉”に、私がどれだけ救われているかはきっと誰にも分からないでしょう。『殺してやる』と。彼女になら頼れる」
――――鍛冶の神々がもしこの世に在るというのなら、ボクたちのできる万事を尽くした今、ただ希う。
願わくば。
ボクたちが打ち上げた武器が、彼女の傍に在ってくれる幸いの存在と同じように、彼女の一助と成り得ますようにと。
武器に込めた熱へ、信じ、思い託した。




