討伐を真実とする彼《か》の威《い》の薙刀――⑦
それから数日間、ボクたちはクラリスさん手ずから施す修練に学べる機会に与れた。
「モニカ、あなたはまず、自分の魔法を理解するところから始めなさい。状況判断能力はリョウガくんが補ってくれるけれど、こればかりは自分だけで向き合うしかないことよ。頑張るように」
「ハイッ!」
「リョウガくん、君は……特に問題もないところが、強いて言うのなら、問題点なのかしらね」
「……ハイ」
「でも、それを克服するのは地道な修練であることは承知済みなはず。道は違えていないし、歩み続ける他ない。頑張りなさい!」
「――ハイ、頑張ります!」
「それと…………」
その続きは、モニカには聞かせずに、小声で述べられた。
「これは、お節介かもしれないけれど……。心の傷は、相方にだけは、きちんと見せるようにしなさい」
「――……はい」
クラリスさんの修行は、特にモニカの実力を著しく向上させた。
本当に有り難い。そのような感謝を直接に伝えた、修行も終盤に差し掛かっていたある日、クラリスさんからその話を持ち掛けられた。
「エーデルワイスが【オブレーガの大地】に踏み込んだことがあるというのは、本当かしらね」
「――……さあ。噂には聞いていますが、そこのところは、詳しくは存じません」
真実だ。
お師匠様がいたから、ボクたちは【オブレーガの大地】から生きて帰れた。
【オブレーガの大地】へ挑んだ者は数知れず、そして、誰も帰ってこなかった――それはほとんど真実だ。この世界から浮遊大陸に挑み、そして帰還したのは、ボク一人だから。
お師匠様は「町娘のリコロット」として【オブレーガの大地】に足を踏み入れていた。
「まあ、エーデルワイス、アイツに隠す気なんてそんなになさそうな雰囲気はあるのだけれど」
事情を汲んでか、クラリスさんは独りごちるように言った。
「私が【オブレーガの大地】に挑んだとしてどうなるか、みたいな話をした時も、ワケ知り顔で『キミじゃあ、死ぬ』とか言い腐ってたくらいだし。――そのことだけ……どう思う?」
――――確実に死ぬだろう。
それは確かなことだった。
「――……そう」
ボクの表情から何かを読み取って、クラリスさんは頷いた。
「なら、より勉学研鑽して、前進するしかないわね」
――このお人に修行を見ていただけたことは、本当に、幸運なことだと思う。
そしてクラリスさんは言った。
「あなた達は……もし挑むというのなら、『二人で挑む』のだということを、いつでも……忘れないでおきなさい」
――その日、ボクはモニカへ、【兎足を持つ仮面の雄羊】の討伐時に何があったのかを明かした。
困惑するモニカを無視しなければならなかったこと。
傷に伏したモニカを、見放さなければならなかったこと。
――――本当は、あの時のことは本当に、辛く感じていたのだということ。
モニカは涙を浮かべて、ボクの傷を憂いてくれた。
そして、「信じてくれてありがとう」と、笑顔で伝えてくれた。
――――いつか。
いつか、ボクも、「大人」になれるのだろうか?
しかしそれは、未だ想像も及ばない遥かな先にある“夢”であった。
『討伐を真実とする彼の威の薙刀』――了




