理《り》に触れる翼竜《スカイドラゴン》を墜とす槍《スピア》――⑤
じりじりと身を焦がす熱に、今回は特に長く、耐える。
下級の幻獣素材だからといって、扱い易さに融通が生じるわけではない。鋼と融和しにくい素材を扱うときは、火の前で耐える時間が長くなる。
集中を切らさず、炎をじっと見つめる。
柄の部分を形成する鋼には、クロム、炭素、マンガン、シリコンなどを添加した【マルテンサイト系耐熱鋼】を。
精錬段階で混ぜる素材には、――【ゴブリンの体液】を。
鋼と【ゴブリンの体液】の融和性は、最悪に近しい。
鈍い緑色に発色しながら、粘度をもって泡を吐く【ゴブリンの体液】と、鋼の融和点を、瞬きもせずじっと見極める。
精錬(鍛錬)、形成、焼入れ、焼戻し、仕上げ。
武器制作の『焼入れ』工程で、急冷された鋼の内部が「マルテンサイト」という非常に硬いが脆い組織に変態するわけだが、その「マルテンサイト」状態を『組成』と『熱処理』で安定させ常温でも維持できるよう開発されたのが、【マルテンサイト系耐熱鋼】だ。
焼入れと焼戻しの処理で、高温に強く、耐摩耗性に富み、靱性も高い鋼に仕上がる。
ただし、精錬段階における鋼と幻獣素材の融和点を見誤れば、【マルテンサイト系耐熱鋼】の特性は失われて、全てがご破算となる。
刃の部分を形成する鋼には【玉鋼】を、精錬段階で混ぜる素材には【竜の爪】を使用する。
だがそちらよりも、このじりじりと身を焼かれる作業は、遥かに根気を要する。
炉の火に焼かれながら。
意識を研ぎ澄ませて。
【その鋼がこの世のすべて】と――瞬きを忘却し、じっと、見つめていた。




