理《り》に触れる翼竜《スカイドラゴン》を墜とす槍《スピア》――④
【最脅威種】である【竜】を脅威にも思っていないことは、しかしお師匠様からすれば、当然のことでもあるのだろう。だって、かすり傷すら負わない敵であるのだから。
そういう意味では、子犬と変わらない。
工房にある【竜の銀灰】も、あれは、お師匠様から譲っていただいたものだ。納品先に在庫余りが出たということで、ボクの誕生日に(そういう事は覚えてくれるお人だ)贈っていただいたのだ。
だけど、『その一部を宿した腕の一振りが、空間を斬り裂く脅威を生む』災厄の、本家本元である。【竜】は紛れもなく【幻獣】の最脅威種だ。
身体を覆う鱗は、あらゆる傷を防ぐ硬度と衝突を通さない衝撃耐性を合わせ持ち、比類のない熱耐性をも備えている。
鱗の表皮は、虫の鱗粉に似た【銀灰】に覆われており、斬撃、摩擦への強い耐性に加え、優れた氷冷耐性を有している。――もちろん、その耐性値は半端に【銀灰】が混じったキメラ種の比ではない。
爪は空間を裂き、牙はこの世のあらゆる鉄を穿つ。
輝く眼光は、虎をも鼠のように威竦める――。
竜。
悪夢が生み出した最たる悪意。
――ただし、その脅威度から、【幻獣】が出現し始めた当初から優先して対策が練られてきた歴史がある。
先人の知恵の蓄積。
脅威度は歴然ながら、討伐方法もまたハッキリとしているという点が、【竜】の脆弱点だ。
「え、それを精錬に使うのかい……?」
ボクたちが【竜退治】に選んだ幻獣素材を見て、驚きの表情を浮かべたお師匠様に、ボクらはニッと笑んだ。
――さあ、ボクの時間だ。
――さあ、火の前に立つ時間だ。
熱よ、この鋼に宿りますようにと――金槌を幾数回と振り降ろしながら、幾数回の一つ一つに願う、炉のように熱を持つ鍛冶師の時間だ。




