鍛冶職人の兄妹と遥かな空に座する浮遊大陸
灼熱の籠った金属の棒に、金槌を、振り降ろす、振り降ろす。
何十回、百を越えても熱心に鋼を叩き、金槌を振り降ろしながら、祈る。
熱よ、この鋼に宿りますように、と。
百回を超えても、少しも思い褪せずに、願う。
そうして――。
「――――……よし」
かたわらに溜められた水桶に鋼を浸して、その身を引き締めながら、吐息を一つだけついて声漏らす。
そして。
再び炉の中の炎で、鋼を熱する。
「あと、四回」
そうしてまた金槌を振り降ろす。
少しも褪せずに、「熱よ、この鋼に宿りますように」と祈りながら。
◇
「ふーっ……。今日の分、終わり」
夕立ちを浴びたみたいに汗びっしょりな額をタオルで拭って、勤労の吐息を漏らした。
そのとき、部屋の向こうから、見慣れた人影が姿を見せる。
「兄貴ー、お疲れ」
声と一緒に、真新しいタオルをボクのほうへ放ってくれた。
「ありがとう、モニカ。コルトハーツさんから予約の一本が仕上がったから、納品作業をお願いしたいな」
「はいよー」
両脇でくくった艶のある黒髪を揺らして、まだ灼熱の残る部屋へと向かってくれる。
肌に張り付けて纏うような軽装の魔法服を着て、腰辺りからは、小さな黒い羽が生えている。リトルウィッチのモニカはボクの妹だ、ボクたち家族二人で【リョウガ鍛錬所】を営んでいる。
「うおっ、今回は精錬に【竜の銀灰】が混じってるじゃん。リョウガ兄貴、頑張ったね~」
「手の皮がまた剥けちゃった、いつものことだけどさ。――ボクも、まだまだだ」
「お疲れ様~」
報われるよな、毎度、このやり取りには。
シャワーを浴びて、清潔な服の心地良さを感じながら、モニカと連れ添って玄関口から外に出る。
夕暮れの景色。
遥かな平野、その先を見れば山々。空を見上げれば、茜に染まった雲の群れが輝いている。
そして、雲の輝く空の果てを望めば――。
空に浮かぶ巨大な大地が、月のようなスケールで、沈む夕日の上空に見える。
――ボクらの暮らす世界に、唐突に現れた【浮遊する大陸】。
空に浮かぶその地が現れたその日から、超常なる獣がこの世界に現れ始めた。
巨大蛇。
異形植物。
複合種獣。
竜。
土類生命。
今日では世界の常識となった、【幻獣】と呼ばれる獣が。
そして、僕がまだ生まれてもいなかった、歴史に刻まれたあの日。
遥かな空に浮かぶ大陸から、下界へ声が届けられたのだ。
『我が名はオブレーガ=アルマ=ディーナ。異界より追われ、この地に私たちの災厄をもたらしに来た者。私が存在する限りは、この空に浮く大陸は存在し続け、異形の獣は下界の地から湧き続けるだろう。
私を殺してみろ。
人間よ。私はこの世界に、災厄をもたらし続ける者である』
その【宣告の日】から、空に浮く大陸は【オブレーガの大地】と呼称されるようになった。
【オブレーガの大地】へ挑んだ者は数知れず、そして、……誰も帰ってこなかった。
空に浮かぶ大陸を瞳に映しながら、隣に立つモニカと、手を繋ぐ。
ボクたちは鍛冶屋だ。
【リョウガ鍛錬所】の職人として武器を創っている。
【幻獣】を悉く斬り、人を守る武器を創ること。
そして、いつか。
【魔王オブレーガ】を討つ刃を精錬することが――ボクたちが共に抱いた夢だ。
こんにちは、壱里と申します。
私にしては短いシリーズ(10~20万字程度)になる予定ですが、どうぞよろしくお願いします。




