第一話∶消えた教科書と謎のメッセージ
舞台: 県立白波高校 2年B組
登場人物:
* 天久 楓: クールで頭脳明晰なクラスの学級委員長。成績優秀だが、他人と深く関わることを避けている。ミステリー小説を愛読。
* 佐伯 陽太: 明るくお調子者だが、どこか抜けているクラスの人気者。困っている人を見ると放っておけない性格。楓に密かに好意を抱いている。
* 木村 紗英: ファッションに敏感で、情報通の陽太の幼馴染。恋愛話が好きで、楓と陽太の関係を面白がっている。
* 田中 先生: 2年B組の担任。穏やかで生徒思いだが、少し頼りない一面も。
「ねえ、天久さん、大変だよ!」
朝のホームルーム前、陽太が慌てた様子で楓の机に駆け寄ってきた。楓はいつものように文庫本を読んでいたが、顔を上げずに「どうかしたの、佐伯くん」と冷静に答えた。
「俺の数学の教科書がないんだ! 昨日の夜、ちゃんと机に置いたはずなのに…」
陽太は焦った顔で机の中や周りをまさぐっている。楓はため息をつきながら本を閉じ、「ただの忘れ物じゃないの?」と問いかけた。
「まさか! こんな大事なものを忘れるわけないって! しかも…」陽太は声を潜めた。「なんか変なメモが入ってたんだ」
楓は訝しげに眉をひそめ、「メモ?」と聞き返した。陽太は小さく折り畳まれたメモを震える手で楓に差し出した。
白い紙片には、几帳面な文字でこう書かれていた。
『解けない方程式は、秘密の扉を開く鍵。真実はいつも、日常の裏側に隠されている。』
「な、なんだこれ…?」陽太は困惑した表情で楓を見つめた。「ただのいたずらだよね?」
楓はメモをじっと見つめた。単なるいたずらにしては、どこか引っかかる。まるで、何かを暗示しているような…。「これは…ただのいたずらではないかもしれないわ」
その言葉に、陽太は目を丸くした。「え、マジで? じゃあ、誰かが俺の教科書を盗んで、こんな意味深なメモを…一体何のために?」
「さあ…」楓は立ち上がり、教室を見渡した。「まずは状況を整理しましょう。最後に教科書を見たのはいつ? 他に何か変わったことはなかった?」
陽太は必死に記憶を辿り始めた。「えっと…昨日の放課後、サッカー部の練習が終わってから教室に戻って、宿題をやろうとしたんだけど…その時はまだあった気がする。その後はすぐに帰ったから…」
二人のやり取りを面白そうに聞いていた紗英が、にやにやしながら近づいてきた。「あらあら、陽太くん、ついに運命の出会い? ミステリアスな犯人からの挑戦状なんて、ドラマみたいじゃない!」
「紗英、今は真面目な話をしてるんだ」陽太は顔をしかめた。
「まあまあ」紗英は手を叩いて言った。「面白そうだから、私も協力してあげるわよ。ね、楓ちゃん?」
普段は他人と関わることを避ける楓だが、この奇妙な出来事に興味を惹かれていた。「協力してくれるなら、助かるわ」
こうして、消えた教科書と謎のメッセージを巡る、楓、陽太、紗英の3人による秘密の捜査が始まった。
(第一話完)