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47 役目

23話「水神、能力検査をする」を大幅に修正致しましたので、ランクに関して分からないことがあればそちらをご覧下さい。

◆◆◆




「クソッ……。 まさか、本体を置いて意識を飛ばすとは。早く見つけなければ、大変なことになる」


マグトルムと他三名の神官とともに、銀の魔神の封印のために戦っていたユウェシルは、マグトルムの命で意識体となった銀の魔神を追っていた。


マグトルムに仕える神官の中で、末っ子という立ち位置にあるユウェシル。

三名の神官に『末っ子は、重大な任務を受け持つという大切な役目がある』という理由で、銀の魔神の意識体を探すこととなった。


五神に仕える神官たちと違って、マグトルムに仕える四名の神官たちにはそれぞれ、『役目』があった。


マグトルムは、神ですら恐れる訓練に生き延びた神官を残らせ、二度とマグトルム付きの神官を募集することをやめた。

その理由が、先代水神でありマグトルムと最も親しい間柄を持つクラルディウスに叱られたからだ。

神の間で『鬼畜訓練』と呼ばれるほどに、禁止されるべき訓練だったため、叱られるのは当然だろう。


そして、その訓練に生き延びたのがユウェシルと他三名含んだ神官であり、マグトルムは四名の神官に『四兄弟』という肩書きを付けた。

実際、本当の兄弟というわけではないが、絶妙な年齢の差であのような肩書きをつけたという。

しかも、マグトルムは笑顔で『女はダメ』と言う条件を出し、訓練を受けに来た者のほとんどが男だった。

いや、全員。


やがて、マグトルムは四名の神官にそれぞれ『役目』を与え、ユウェシルは今、その役目を果たそうとしていた。


「あの魔神の力の源を辿ると、こっちか」


そう言って、ユウェシルはゲートを開き魔神のもとへと向かった。




◆◆◆




しばらくして、ユウェシルは魔神の力の源を頼りに辿り着いたのは、見知らぬ部屋の中だった。


辺りを見渡すと、ただの部屋ではなく豪華な家具や装飾品でいっぱいだった。


すると、外から人の気配を感じ、ユウェシルは身構える。

慎重に歩みを進め、バルコニーらしきところまで行くと、そこには一人の少女が空を見上げていた。


ユウェシルは、少女に気付かれないように静かにバルコニーから抜け出し、屋根まで勢いよく飛ぶ。

そして、空を見上げると白い霧となったあの魔神の意識体が、何かと戦っているのが見えた。


「……っ! 見つけた」


下界は、魔神によって雷雨が降り注ぎ、ましてや結界まで張られていた。

上から少女を見下ろすと、雷雨など気にすることもなくずっと上を見続けていた。


(あの娘、どうして怖がらない)


そんなことを思っていると、突如空から衝撃波が走った。


驚き、またもや空を見上げると煙の中から見覚えのある姿が見えた。

目を凝らし、見つめるとそれはアクディーヌだった。


「……水神様っ!」


ユウェシルは思わず叫んだ。


そして、目を閉じ足元に魔力を集める。

この技法は、他の神官と違ってマグトルムに仕える神官だけが習得することができる技法だ。

神官として長年の修行を培った結果、神のように飛ぶことができるようになった。

だが、常に足元に魔力を込めなければならないため、それが途切れると落ちてしまう危険性がある。

だが、そんなことは言っていられない。


やがて、彼の足元には黄色い光が集まり、次第に強く輝き始めた。


そして、ユウェシルは空中で戦うアクディーヌを見つめながら、浮遊した。

近くまで行くと、アクディーヌの姿はどこかいつもと違っているように見えた。

彼女の周りには、無数の水の刃が漂い、霧となった魔神に向けて放とうとしていた。

しかし、その目には微かな疲労が浮かび、息が荒かった。

明らかに彼女は、魔神との戦闘で限界に近づいているのだ。


彼女がこれほどにも追い詰められている姿を、見たことは一度もない。

天界の中で、マグトルムやクラルディウスのように圧倒的な力を持っていた水の大精霊かつ、今では水神となった彼女は、揺るぎない存在としてみんなから愛されていた。


それは、力だけではなく彼女が持つ性格と誰に対しても平等に接していることが、多くの神官にとって憧れであり仕えたい神の上位に位置するほどに、彼女を嫌う者はいなかった。


しかし今、彼女の表情には憎しみの面と不安の影が見えていた。


すると、アクディーヌは彼の視線に気付き、一瞬だけ目を見開かせるがすぐに優しく微笑んだ。

ユウェシルは、慌てて彼女のもとへ向かう。


「ユウェシル、ちょうど良かった。今から、あの銀の魔神の意識体を封印しようとしていたのですが、手伝ってもらえませんか?」


彼女の声は、これまでのように冷静で、優雅に言葉を紡いでいた。

彼女の声は水の流れのように心地よく、安らぎを与えた。

しかし、やはり彼女の声の裏には、疲弊の混ざりが感じられた。


ユウェシルは、アクディーヌの言葉に強く頷く。


「言うまでもなく、その為に来ましたので」

「ふふ、相変わらずですね。ですが、助かります」


彼女はいつもそうだ。

誰が何を言おうとも、叱るわけでも、命令するわけでもなく、全ては相手のために考えて言っているようにも思えた。

相手を決して傷付けず、それでいて相手の心を優しく包み込み正しい道へと導びこうとするような彼女の言葉には多くの者たちが救われているだろう。

それも、自分がそうだからだ。


だが、マグトルムやクラルディウス、そして兄弟のような彼女の分身に対しては、クラルディウスはともかく、彼らを本当の家族のように接していた。

さらに、本音を言い合っていることから、彼女にとって家族は偉大な存在なのだろう。


「あの、水神様。何故、あれが魔神の意識体だと分かったのですか?」

「……お兄様がいろいろと教えてくれたからです。それよりも、そろそろ封印しないと銀の魔神に逃げられてしまいますよ」

「そうですね」


ユウェシルは、意識体に体を向ける。

彼女は、優雅に手を軽く降り、指先から透明な水滴が舞い上がった。

そして、その水滴は渦となり銀の魔神を取り囲んだ。

まるで、ドラゴンの翼で閉じ込めるかのように。


そしてユウェシルは、魔法陣を描くために空中に素早く指を動かし、光の軌跡で特定の分様を作り出す。

魔法陣から光が纏った鎖を出現させ、魔神の意識体に絡みつく。

魔神が抵抗するたびに、鎖の絡みつきは強まりやがて、アクディーヌが「もう寝る時間です」と静かに呟くと、魔神に取り囲んでいた渦が大きな水の球体となり、魔神を飲み込んだ。

水の球体は次第に収縮していき、やがて真っ白な小さな玉に変わった。


「……水神様らしい、封印の仕方ですね」


アクディーヌは微笑みを浮かべたまま、ユウェシルの言葉に耳を傾けた。

そして、彼女は腕をひと振りして小さな玉を引き寄せた。


その小さな玉は澄んだ白さを放ちながら、浮かび上がっていた。それが、先ほどの魔神とは感じさせないほどに。

アクディーヌは、それを軽くつまみ泡から透明な一つの瓶を取り出した。

そして、小さな玉を瓶の中そっと収め、瓶に蓋をした。


「さぁ、終わりましたね。では、ユウェシル。この瓶をマグトルム様に渡してください」

「承知しました。あの、水神様」

「はい?」

「その、お聞きしますが、水神様にとって役目とはなんでしょうか」


自分自身に役目がありながら、神はどのようなことを思い、心の中にはどのような役目を持っているのかを知りたいと思った。


ユウェシルの突然の言葉に、アクディーヌは目を見開くが、遠くを見つめた。

彼女のオパールの宝石のように輝く瞳はどこか揺れていた。

風が彼女の美しい水色の髪を撫で、静寂が一瞬場を包む。


アクディーヌは、一瞬考えた込んだ後、ゆっくりと口を開く。


「……あなたの問いに答えるには、まだ私自身の中に秘めている感情を完全に理解していなければなりません。そして私自身も」


彼女は静かに微笑んだが、その表情にはどこか切なさを感じた。


「今、雷雲が垂れこみ、ましてや魔物の大群まで現れた。けれど、お兄様には雷雲を止めるという仕事があり、それは法則に反しない。しかし、私たち五神はたとえこの状況であったとしても、手を出すことができない」

「…………」

「私たち五神の役目は、『人間だけでは解決できないことが起きたら、そのときこそ、私たちの存在意義となり介入することができる』というのがあります。ですが、それはあくまで、五神としての役目だと私は思っています」

「というと?」


アクディーヌは、微笑みユウェシルを見つめ口を開く。


「今の私は、自由気ままな水の大精霊ではない。神としての使命を背負っている。しかし、時にはその重みが私の心を迷わせることもあるのです。何が正しいのか、何が本当に必要なのか……」

「……」

「ふふ。本当のことを言うと、私は……人間に憧れています。知っていますよね。彼らは短くも儚い命の中で、全力で生き、愛し、そして失うことを恐れない。その姿が私にはとても眩しいのです。それに、神の出番をなくさせるほどに時には自らの限界を超えようとしている」


ユウェシルは彼女の言葉に、心が揺らいだ。

彼女は、天界の中で兄であるクラルディウスと同じくらいに、人間好きだと知られているが、クラルディウスとは違った観点で見ていたのだ。

けれど、神が人間になった事例はない。

憧れを持つことはできるが、実現することは恐らくできないだろう。


「あなたの考えていることはよく分かります。神になるために生まれた存在は、人間にはなれないのだと。神の法則があるように、神は法則を守らなければいけないのと同じで、彼ら人間たちが自ら乗り越えなければならない試練も多い」


アクディーヌは、少し笑みを浮かべながら続けた。


「彼らは限られた命の中で、自らの道を選び、進んでいく。私がその道を少しでも支え、彼らがよりよく生きる手助けができるのなら、それが私の本当の役目だと思っています」

「……!」


そう言いながら、満面の笑みを浮かべる彼女は、神らしさは感じられず、むしろ人間味を感じた。


あの厳しく冷静な大神官が、彼女を慕う理由が分かる気がする。

彼女は、本当に優しい神だ。

大精霊だった頃からずっと。

そんな彼女を幼い頃から慕ってきたユウェシルにとって、マグトルムの神官でありながらも何かを理由にして傍にいたいとも思っている。


(マグトルム様の命で、聖塔に行ったがまさか、水神様についていくことになるとは思いもよらなかった。それも、マグトルム様の命でもなく自分の意思でついていくとは)


あの時は、何を思ったのか自分の口が勝手に動いていた。

マグトルムやクラルディウスからは、何も言われなかったが、むしろこれで良かったのかもしれない。

慕っている神と、下界で多くの経験をしたあの思い出は決して忘れることはないだろうだから。


「それに、たとえ人間にはなれなくても、憧れを捨てたらなんの意味もないでしょう? だから、ユウェシルも何かに憧れているものがあるのなら、その心を捨てちゃダメですからね!」


彼女は、またもや満面の笑みでそう告げた。


「……はい」

「さぁ、ユウェシル。そろそろマグトルム様のもとへ行ってあなたの『役目』というものを果たしてきてください」


アクディーヌは、後ろに回り彼の背中をそっと押した。

ゲートが現れ、ユウェシルはゆっくりとその中に進みながら、後ろを振り向くと、彼女は手を振りながら「気をつけて」とだけ言って、ゲートはやがて閉じた。


閉じる前に見えた、彼女の表情は幼い頃に見た優しい表情と全く同じだった。


一度でも、彼女の記憶の片隅に自分がいたらどれだけ良かったか。

その想いは、きっと伝わることはない。




◆◆◆




(うっ……、やはり無理しすぎたようですね。でも、ユウェシルに気付かれなくてよかった)


ユウェシルがゲートに入り消えた直後に、アクディーヌは強く痛む胸を押さえ、短く息を吐き出す。

まさか、ユウェシルが来るとは思ってもいなかったがマグトルム自ら来ないということは、あっちも本体の銀の魔神に手間取っていたということだろう。


そう思いながら、泡から緑色の液体が入った瓶を取り出し、それを口に含む。

あの『蘇生瓶』を使うわけにはいかない。

多くの時間を費やして作った研究途中であるあの瓶を、無駄にしたらせっかくの労力が台無しだ。


「ふう、そろそろアンドレアちゃんのもとへ戻るとしましょう」


空になった瓶を泡にしまったアクディーヌは、バルコニーで心配そうに見上げるアンドレアのもとへと降り立った。

アクディーヌに気が付いたアンドレアは、大きく手を振った。


「アクディーヌ様! 怪我はありませんか!?」

「えぇ、大丈夫ですよ。それより、結構目立ってしまいましたかね?」

「空から突然、波のようなものが出たので多分目立ってしまったと思います……」

「波のような……あぁ、衝撃波のことですね。まぁ、少しは予想していたので大丈夫です」


今は、目立ってしまったことよりも、魔神の意識体を封印できたことが何よりも嬉しいことだ。

これで、しばらくは安心できるだろう。

だが、油断は禁物だ。

あのような危険な存在が、また封印を破って出てくるかもしれない。

その時は覚悟しなければならないだろう。


「あの、アクディーヌ様。さっきの変な化け物はどうなったのですか?」

「ふふん、安心してください。この私が……いや、私の勇敢な友人と一緒にやっつけたので」

「わぁ、さすがアクディーヌ様です!」

「ふふ、でしょう?」


そう言って、アクディーヌは胸を張る。


(あの時、ユウェシルが来なかったらもしかしたら、私は突然の痛みに耐え切れずに負けていたかもしれませんね)


彼には、何かと助けられてばかりだ。

それに、不思議と彼がいたときの空間は胸の痛みを忘れるほどに、 心地が良かった。

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