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34 雷雲

「師匠ー! 本当にすみませんでした! 僕がしっかり説明を聞いていれば、こんな失態なんか……。あぁ、僕は弟子失格です。僕なんか消えればいいんだ!」

「……」


アクディーヌがウィンディの部屋にある薬を眺めてから三十分後、突然の叫び声が響いた。

振り向くと、ウィンディが土下座をしながらおでこを床に叩きつけて、ぶつぶつと謝罪を呟いていた。


分身とユウェシルも、突然の悲鳴に驚いて部屋に入ってきた。

アクディーヌは、血まみれになっているウィンディのおでこには目もくれず、遠い目をしてその場に立ち尽くしていた。


(うわ、慰めてほしいかのようにおでこを打ち付けながらこっちを見てる……)


アクディーヌはウィンディと目を合わせず、静かに椅子に腰を下ろした。

そんなアクディーヌに対し、ウィンディはおでこを打ち付けるのをやめ、ふらふらと立ち上がった。

そして、棚にあった失敗作の強化薬を手に取り、飲もうとした


「いい加減にしないと、その腕を切り落としますよ」


アクディーヌの一言で、ウィンディだけでなく分身とユウェシルまでもが凍りついていた。


「……それよりも、ウィンちゃん。その薬を飲んではいけませんよ。飲むふりをしていただけでしょうけど、それは失敗作なので、イグのようになりたくなければ今すぐ棚に戻しなさい」


「は、はい……」


ウィンディは素直に強化薬を棚に戻した。


「し、師匠……。その、ですね……」

「まず、何があったのか教えてくれませんか?」

「君みたいな風神が簡単に気絶するなんてね」

「僕も、まさかあんなふうになるなんて思ってなかったんです!」

「風神様、詳細を」

「あ、はい」


ウィンディは冷や汗をかきながら詳細を説明し始めた。

だが、アクディーヌを見ては何度も目を逸らし、薬棚の影に隠れ、顔を少しだけ覗かせて口を開いた。


「師匠が作った薬を使って、いろいろ試していたらですね……。ちょっと爆発しちゃいまして。あ、本当に小さな爆発だったので、被害はほとんどないんですけど……」

「ウィンちゃん」

「は、はい……」

「私の薬を大量に入れるな、って言いましたよね?」

「はい……」


うつむきながら頷くウィンディに、アクディーヌは言葉を続ける。


「少量だけ入れれば、何も問題ないって言ったはずですよね?」

「少量だけ入れようとしたんですけど、くしゃみで手が滑っちゃってですね……」

「ウィンちゃん、換気しましょう? 一応ホンちゃんを置いたので空気は綺麗になってますけど、次からは私と一緒に作りましょう。その時は聖塔にいらっしゃい」

「師匠ー! 僕はこんな素晴らしい師匠を持てて嬉しいですぅ……。この変な化け物みたいな魚はよく分かりませんけど」

「最後のは余計です」


アクディーヌとウィンディのやり取りを黙って見ていた分身とユウェシルは、理解が追いつかなかったのか、いつの間にか部屋を出て会話を交わしていた。


確かに、ウィンディとのこのやり取りは理解できなくても仕方ない。

いつかは彼らに薬のことを詳しく話さねばならないだろう。

その時は、混乱が少しでも避けられることを願うしかない。


「では、そろそろ私たちは戻りませんと。マグトルム様が到着なされるでしょうし」

「あ、それなら僕も一緒に行きます!」


ウィンディの言葉に、アクディーヌは頷いた。

そして部屋の外にいる分身とユウェシルに声をかける。


「弟くん、ユウェシル。聖塔に戻りますよ」

「はーい」

「了解です」


アクディーヌたちは、聖塔に戻るべくウィンディの屋敷を後にした。

その時、彼女の全身を震わせるような胸騒ぎが襲った。

それは天界と下界、両方から感じ取れるものであった。


(この胸騒ぎはなに……?)




◆◆◆




天界の中央に戻り、ウィンディたちを連れて聖塔の方へと歩くと、入口近くには多くの神官たちが集まっていた。


近づくと、中央に立つ神官たちは膝をつき、頭を下げている。

さらに、炎神イグニーゼルと花神フェリクス、氷神スニューティオが真剣な眼差しで空を見上げていた。


彼らが見つめる方向に目をやると、聖塔を覆い尽くすほどの雷雲が垂れ込めていた。


「し、師匠。これはかなりまずい状況なのでは……」

「そのようですね」

「……水神様、風神様。申し訳ありませんが、私はマグトルム様のもとへ行かねばなりません」


ユウェシルの言葉に返事をする前に、アクディーヌは何かの視線を感じた。

その視線はまるで六つの目がこちらを見つめているかのようで、ユウェシルを早く連れて来いと言っているようだった。


「ええ、その方がいいかもしれませんね」

「あ、ユウェシルさん。マグトルム様の神官だったんですね」

「驚きだよね。ずっと姉さんといるから、誰もマグトルム様の神官だとは思わないよ」

「……こほん。それでは」


ユウェシルは、逃げるようにゲートを開き消えていった。

彼は随分と長く一緒にいてくれたため、次に会う時はプレゼントでも贈るとしよう。


(それにしても、どうして雷雲が? マグトルム様が現れるときは、光の柱が立つはずなのに)


天界に雷雲が垂れ込むのは、神の怒り、即ちマグトルムの怒りの象徴だ。

もしくは、別の存在のものかもしれない。

いずれにせよ、これは大事だ。


「とにかく、私たちもイグたちのもとへ行きましょう」


彼らは頷き、未だ雷雲を見つめているイグニーゼルたちのもとへ歩み寄っていった。

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