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32 記憶違いと瓶

すみません、大変投稿時間が遅れました。

「はぁ、分身の姿はなんとでもなりますけど、私が作った分身があのような目に遭ったのが初めてではないって、どういうことですか?」


ユウェシルに連れ戻されたアクディーヌは、子どもの姿となった分身の肩に手を置きながら、兄に囁いた。


「え、姉さん! 覚えていないんですか!? 僕と同じってわけじゃないけど、前の分身たちは突然水に変わっちゃったんですよ」

「いきなり水? 何を言っているのですか? 私が作った分身たちは、突然動かなくなったり、私の暗示――じゃなくて、話しかけても反応がなく、そのまま壊れてしまっているんです。水になった分身なんて、見たこともありません」


ふとそんなことを言うと、皆は口を開けたまま、まるで自分がおかしいとでも言うような表情で見つめていた。


(私、全くおかしなこと言ってませんよね? 皆、本当にどうしたんでしょう)


兄や分身だけでなく、あのユウェシルまでが驚いている。

だとすれば、おかしいのは本当に自分なのだろうか。


「私、おかしなこと言ってませんよね? どうして皆してそんな顔をするんですか?」

「……ディーヌ〜! いったいどうしたって言うんだい? 下界で頭でも打ったのかい? それとも、変なものでも食べたのかい?」


兄はアクディーヌを抱きしめると、頭や口の中を確認しようと奇行に走り出した。


「お兄様、やめてください。気持ち悪いです。それに、下界の食べ物が私に影響するはずがないでしょう? それよりも、お兄様たちが計画したあの残滓もどきの雑草が原因じゃないんですか?」

「いや、それはないよ。あの雑草は僕たちには無害だからね。あ、そういえば僕たちの仕業だって、もう知ってたんだね」

「その言い分だと、人間に実験をしているように聞こえるのですが?」

「ひっ! 兄さんってそんなに恐ろしい神だったんですね! 見過ごしましたよ」


分身の言葉に、兄は黙ったまま笑顔を浮かべて分身を見つめた。

それを見た分身は身震いし、ユウェシルの後ろに隠れていった。


「僕が人間に酷いことをするような兄さんに見えるかい?」


兄の問いかけに、この場にいるアクディーヌ含めた全員が首を縦に振った。


「え、満場一致なのは驚いた。でもどうしてだい?」

「お兄様の笑顔が嘘くさい」

「兄さん、笑った顔が怖いです」

「……マグトルム様との喧嘩で、笑顔で殴って――」

「うん、もういいよ。じゃあ、ディーヌ、僕は用を思い出したからまたね」


兄は早足で扉まで行き、すごい速さで部屋から出て行った。


そう思っていると、また扉が開き、『ディーヌ、後で風神のところに行ってね』と顔だけを覗かせて言い、再び扉を閉じた。


アクディーヌは分身とユウェシルを交互に見やり、ため息をつく。


「仕方ありません。お兄様の言う通り、ウィンちゃんのところへ行きましょうか」


(そもそも、どうしてウィンちゃんのところなのでしょうか)




◆◆◆




(これはいったい……)


目の前の光景に、アクディーヌとユウェシルたちは呆然と立ち尽くしていた。


分身はアクディーヌの手によって、元の姿へと戻っていた。

兄がふざけ半分で作った謎の粉よりも、自分で直した方がずっとマシだ。

それにしても、分身の子どもの姿が非常に可愛らしかったが、あのままだと代わりに引き受ける仕事に支障をきたしてしまうに違いない。

そう思いながら、ため息をつく。


天界の南には、風神が管轄する領域に大森林が広がっている。

その最深部にはひっそりと屋敷が建てられており、そこに行くには特別な許可証が必要だ。

しかし、神であるアクディーヌや特別な神官は、自らの力で瞬間移動して風神の屋敷に行ける仕組みになっている。


そんな風神の屋敷に到着し、中に入ると、目の前には床に散らばる大量の瓶と紙。

そして倒れている風神ウィンディの姿があった。


(まさか、実験に失敗して死んでしまったとか……? いや、神だから簡単に死ぬことはないでしょう)


倒れているウィンディに近づき、呼吸と心臓の音を確認するアクディーヌは、安堵のため息をついた。


「大丈夫です、ただ気絶してるようですね」

「でも、姉さん。どうして倒れていたのでしょう?」

「水神様、分身様。これをご覧下さい」


ユウェシルに言われて顔を上げると、そこにはオパール色に輝く瓶が転がっており、中身が床にこぼれ、その周囲には無数の花や植物が生えていた。


(あ、あれは!)


アクディーヌはすぐに瓶に近づき、膝をついてオパール色の瓶を手に取った。


「やはりこの瓶………」

「水神様、何かご存知なのですか?」

「うわぁ、姉さん。綺麗な瓶ですね〜」


瓶を凝視する彼らに、『これは預かりましょう』と言って慌てて泡の中にしまった。

まさか、ウィンディがこの瓶を持ち出していたとは。


いや、勝手に持ち出して良いとは言ったが、この瓶の詳しい説明をしないままでいたため、落ち度は自分にある。


(それに、まだ完成品ではなくて良かった。もし完成していたものがこのように床に散らばっていたら、大変なことになっていたでしょう)


アクディーヌは、そう思いながら咳払いをして立ち上がる。


「お兄様がウィンちゃんのところに行けと言ったのは、こういうことだったんですね。ユウェシル、分身くん、まずはウィンちゃんをベッドに寝かせましょう」


アクディーヌは軽々とウィンディを持ち上げ、屋敷内を見渡してベッドへと連れて行ったのだった。


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