27 大切な仲間たち
「それで、お兄様。豆知識は良いのですが、お兄様たちはこれからまた遊歴に行かれるのですか?」
「そうだね。僕は一人でいいんだけれど、マグがうるさくてね、でも今回のことがあったからもしかしたら天界に戻るかもしれない。そのときは僕も手伝ってあげるからね」
「それは嬉し――ありがたいのですが、そもそもお兄様はなんのために遊歴をするのですか?」
兄は遊歴をすると言うだけで、何一つ理由を教えてくれなかった。
だが、神が下界に遊歴しに行くことは、遊びに行くのと同じだ。
そもそも、兄は百年前に水神の座を降りたため、遊歴をしようがしまいが関係のない話だが、マグトルムの場合は別だ。
彼は天界の頂点とも言える神であり、この世界を創造した存在なのだから。
いくら五つの魔法に対応する五神やその他の神、そして神官たちがいても、世界が崩壊するほどの災いが来れば防ぎきれない。
しかし、マグトルムにとってこの世界はただの暇つぶしによって造られた世界に過ぎないのだろう。
そう思えば、変な話だ。
兄と親友なら、この世界を暇つぶしの道具としか思っていなさそうなマグトルムには、友人など必要もないはず。
(もしかして、お兄様と一緒にいすぎて情が芽生えたとか? ……このことはあまり考えないでおきましょう)
すると、兄はアクディーヌの心を見透かしたのか笑みを浮かべながら口を開いた。
『ディーヌが考えているように、僕はただただ世界を見て回りたかったんだ。でも、それ以外にもこの世界の災いを見つけるためでもある』
「災い?」
『さっき話した「銀の魔神」がいただろう? あの魔神が世界中に数々の災いを作り上げては、この世界を崩壊させようとしているんだ』
「それって、マグトルム様だけではどうにかできないことなのですか? さっき、その魔神の空間を見つけたと言っていましたけど」
マグトルムなら、どこの馬の骨か分からない魔神など片手で消滅できるのではないか。
『古代から存在し続けている神は、たとえマグでも滅ぼすことはできないんだよ。不老不死とか関係なく』
「え? それってどういう――」
そのとき、部屋の外からアクディーヌを呼ぶ声が聞こえた。
「スイ様、私です。ユウェシルです。突然申し訳ありませんが、折り入って話がございます。中に入ってもよろしいでしょうか?」
アクディーヌはユウェシルの声を聞いて一瞬驚くが、兄と連絡を取っていることを伝えるべきか迷った。
すると、静かに『ディーヌ』と言う兄の声が聞こえ、振り返ると兄はユウェシルを部屋の中へ入らせろと言わんばかりに頷いた。
「どうぞ」
アクディーヌの言葉に「失礼します」と言って部屋に入るユウェシルは、ぽかんとして兄を見つめた。
『やぁ、ユウェシル。久しぶりだね、やっぱりディーヌについていったんだ』
「せ、先代水神様。ご無事でなによりです。それと、私はあくまでマグトルム様からの命で――」
『うん、そういうことにしておくよ。それで、その様子だと何かあったようだね』
兄の言葉に真剣な表情で頷くユウェシルは、二人を交互に見て再び口を開いた。
「先ほど、マグトルム様から連絡を頂きました」
「え? 繋がったのですか!?」
『……まずは、マグを待っている僕に連絡をしないといけないのだけれどね』
「先代水神様に関しては、マグトルム様から『天界で再び合流』という言伝を預かりました」
『はぁ、分かったよ。僕一人でこのまま遊歴に行きたいけれど、仕方ない。戻るとしよう』
兄はため息とともに、やれやれと首を横に振った。
きっと、兄が百年ぶりに天界に戻ったら、中央の神官たちからの大歓声が上がることだろう。
なんてたって、アクディーヌよりも仕事が早く、ムーソピアが密かに尊敬している神でもあるのだから。
「スイ様に関しては、『天界に戻るように』との命令が下されました」
「はぁ、とうとうこの時が来ましたか……」
『残念だね、ディ――いや、スイ』
「お兄様、その名を言わないでくれませんか? 殴りますよ」
『酷いな、お兄ちゃんだってディーヌの仮名を言いたいのに! でも、天界で会えるね』
アクディーヌは兄のその言葉にぞくりとしたものが背筋を走り、不快そうな顔をした。
しかし、兄はそんなアクディーヌに顔色一つ変えず、微笑みながら頬に手を当てて見つめていた。
「その、先代水神様には天界に戻られたあと、マグトルム様がお越しになるまで聖塔にいる神官たちの指導をして頂きたく――」
「うふふ、お兄様。残念でしたね? 私と直接会うのは当分叶いませんね。うーん、残念です」
『僕は水神の座から降りたというのに、また仕事をしないといけないのかい? でもまぁ、ディーヌも一緒なら全然いいけれどね』
兄の言葉にアクディーヌは真顔になる。
「あ、そうだ。ユウェシル、マグトルム様と連絡が取れたのなら四神たちに連絡を取らないといけません。食堂に行く前に連絡を取ってもいいですか?」
「かしこまりました」
「では、そろそろ天界に戻る準備をしませんとね。ユウェシル、ギルたちはもう起きていますか?」
「はい。私がスイ様を呼びに行くと言いましたので、今から行かれればよろしいかと」
『おーい、僕の存在を忘れては嫌だよ?』
「天界に戻る前に、フィンレーくんの体調を一応確認することにしましょうか」
アクディーヌとユウェシルは、話しながら部屋から出る。
そして、一人残された兄は、泡越しでグスンと鼻をすすりながら連絡を閉ざした。
◆◆◆
四神たちと情報を共有した後、ユウェシルとともに屋敷の食堂へ向かうと、アンソニーたちが食事の準備をしていた。
アクディーヌの存在に気づいたギルとフィンレーは、すぐに駆け寄り、抱きしめてきた。
その光景を見たユウェシルは、彼らを引き離そうとするが、アンソニーがそれを阻止したのをアクディーヌは目にした。
驚きのあまり声も出せずに、彼らの温かな抱擁を見つめていると、身長のせいでお腹に抱きつくギルが顔を上げ、今にも泣きそうな表情を浮かべていた。
「ギル、どうしたのですか!? それにフィンレーくんもいきなり抱きしめるなんて」
「スイ、帰っちゃうんでしょ? 僕、分かるよ」
「僕も感じるんです……。スイ様が帰られてしまうと」
彼らの言葉にアクディーヌは驚きながらも微笑み、ギルとフィンレーの頭を優しく撫でた。
(人間って本当に勘が鋭いんですね。神よりも、よっぽど凄いことなのではないかしら)
そんなことを考えながら、抱きしめる二人をそっと引き離す。
「はい、今日で帰ることになりました。急なことで大変申し訳ありません。でも、これは別れではありません。また必ず会いに行きます。兄が来なかったように、兄の分もたくさん会いに行きます。だって、大切な仲間でしょう?」
「うん、僕たちは仲間!絶対に約束だよ! 僕、五年後でも十年後でも待ってるから!」
「僕もです! 大人になって立派な勇者じゃなくても、強い男になって待ってます!」
彼らの言葉に、アクディーヌは笑顔で頷いた。
その瞬間、後ろから鼻をすすり上げる音が聞こえた。
振り向くと、アンソニーがハンカチで鼻を押さえながら涙を流していた。
そんなアンソニーを見て、ユウェシル以外のアクディーヌたちは笑い合い、やがてそれぞれ食事を取りにテーブルへと向かっていった。
時間軸を言うと、下界に行ってから二日しか経ってません。(驚)




