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26 兄の豆知識

『落ち着いたかい?』


しばらく経ったあと、床に散らばった涙から作られた真珠を片付けるアクディーヌ。


「はい。あの、見えていると思いますけどこの真珠はなん

なんですか?」

『ごめんよ、僕にも分からない。でも、真珠をよく見てご覧? 魔力が込められているだろう?』

「まぁ、本当ですね」


アクディーヌは真珠を手に取ってみると、確かに淡い光が揺れているのが分かる。


『もしかすると、ディーヌの涙から魔力が真珠として溢れ出たんだと思うよ。ディーヌは昔から魔力が強いから、その影響によるのかもね』

「そうなのですね……」


その瞬間、アクディーヌの心にある考えがよぎる。

兄の方を見ると、彼は口角を上げてアクディーヌの様子を楽しそうに見ていた。


「あの、お兄様」

『なんだい? ディーヌ』

「この真珠、売れますかね」

『ははは! 確かに、売れるかもしれないね』

「お兄様って、腹黒ですよね。本当ならここは、感動的になるやつですよね?」

『うん? 腹黒とはひどいね。小さい頃、よく泣いていたディーヌはとても可愛かったのに』


兄の言葉に、アクディーヌは無表情になる。

幼い頃の記憶は曖昧だが、マグトルムにからかわれて泣かされたことだけは覚えている。


「とにかく、この真珠をどうにかしないといけませんね」

『ディーヌ。売ろう』

「は?」

『ディーヌもさっき言ってただろう? 売れるかって』

「言いましたけど、売っていいんですかね? だって、私の涙からできた真珠ですよ。もしかしたら、大変なことになるかも……」


実は、何百年前にまだ子どもだった四神たちと湖で遊んだことがあった。

水面に向かって石を投げていたとき、突然投げる速度が上がり、周りの木々が真っ二つに割れてしまったのだ。

それを見た四神たちは、怪物でも見るかのように怯え、逃げてしまった。

あれは、今でもおかしなことで自分の力を疑ったものだった。


『それは大丈夫だよ。ほら見てご覧、既にディーヌの魔力は消えているだろう? 時間が経てば、魔力は自然と消滅していくんだ。だから、安心して』

「それは初耳です。では、真珠を売ってこの屋敷の資金にします」

『それもいいけれど、僕は下界で散々稼いできたからお金の心配はいらないよ』

「お兄様の場合、ほとんど詐欺のようなものじゃないですか」

『うん? なんのことだい?』


まったく、肝心なことは知らないふりをするのだから困ったものだ。

だが、アクディーヌ自身も売ったところでお金は必要ないし、使い道もあまりない。

ギルにあげることも考えたが、あのギルはきっと断るだろう。

この真珠を持っていても邪魔になるだけで、ムーソピアには余計な物を買ったと思われてしまう。



(フェリちゃんにこの真珠をあげてしまうのもいいですけど、私の涙からできたと知ったら気持ち悪がられそうですしやめておきましょう)


やはり、こうなったからには売るしかない。

お金に関しては、兄が考えてくれるはずだろう。


「一応売ることにしますけど、お金はどうすればいいのですか?」

『ディーヌ、皇帝に賄賂(わいろ)として贈るんだよ』

「は? え、皇帝に? 賄賂?」


困惑するアクディーヌに、兄は続ける。


『お兄ちゃん豆知識その一! 僕たちの国の皇帝は軍事力しか頭にないからお金を渡すと喜ぶよ』

「いや、皇帝はお馬鹿なのですか?」

『お兄ちゃん豆知識その二! 大量のお金を贈ると、なぜか称号が貰えるよ』

「………」

『お兄ちゃん豆知識その三! 皇帝と親しくなると屋敷を貰えるよ。ちなみに僕はそれで屋敷を貰ったんだ』

「もう、わけが分からない。この国は……」


兄のことだから、魔法か何かで建てた屋敷かと思っていたが、まさか皇帝と仲良くなって貰った屋敷だとは思わなかった。


『そして、お兄ちゃん豆知識その四! 皇太子と仲良くなったらお兄ちゃん許さないぞっ! 結婚を申し込まれるに違いないからね』

「そう言ってお兄様、申し込まれたのでしょう? お兄様のことですし」

『うん、申し込まれたよ。でも、微笑んだだけなのに逃げられてしまったんだ。なぜだろうね? ははは』

「………。可哀想な皇太子」


兄は、言葉で断るのではなく『微笑み』という武器を使って相手を脅す力を持っている。

その微笑みの威圧は、マグトルムですら逆らえないほどに恐ろしいものだそうだ。

それに、兄はよく女性に間違えられるため、結婚を申し込む人は多い。


『最後のお兄ちゃん豆知識その五! この国の大神殿には行ってはいけないよ。大変な目に遭うからね』

「大変な目に遭うってどんなことなのですか?」

『簡単に言うと、下界の大神官が僕たちを敬愛していて一瞬で僕たちが水神だということを見破ってしまうんだ』

「それで、お兄様は見破られてしまったと」

『そういうことだね』


嘘のようで嘘じゃない話をする兄に、アクディーヌは呆れてしまう。

兄は既に水神の座を降りているが、水神となったアクディーヌはこの国の異常さを知り、水神を辞めたいと思っていることを、決して口にできなかった。

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