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22 能力検査はまだですか?

ヒューバートと共に二階から一階へ下りると、受付嬢が慌てた様子でギルの周りを彷徨(うろつ)いていた。


よく見ると、ギルは滝のような涙を流しながら俯いていた。

その様子はまるで、花が枯れてしまった時に幼い花神が泣きじゃくりながらやってきた姿にそっくりだった。

それに、今日初めて会ったときのフィンレーともそっくりだった。


「あの子、なんであんなに泣いてるのよ……」


隣でギルを見て唖然とするヒューバート。


「ほら、やっぱり危険なことがあったんですよ!」

「え? 危険なことって?」


アクディーヌは、すぐさまギルのもとへと駆け寄った。


少年はアクディーヌに気付くと、驚いたように目を見開き、次の瞬間、安堵の表情でアクディーヌを強く抱きしめた。


「ギル!? どうしたのですか? 何か痛い思いをしたのですか? 怪我は?」

「スイー! 僕、すごく探したんだよ〜! それなのに、二階にいるって聞いてもしかしたら気持ち悪いおじさんに連れていかれたのかと思ったら、すごく心配になって……」

「誰が、気持ち悪いおじさんよ!」


ギルの言葉に、ヒューバートは腕を組んで睨みつけていた。

すると、受付嬢は顔を真っ青にしながら受付カウンターに戻っていった。


「ヒューバート怖がらせてはダメじゃないですか」

「あっちが勝手に怖がっただけじゃない」

「そのサングラスのせいでは?」

「はぁ? これはオシャレよ」

「あら、そうなのですか? てっきり、私みたいに顔を隠しているのかと思いました」

「顔を隠しているというか……だって、あたしってば素敵じゃない?」


そう言うヒュバートは、サングラス越しでも分かるくらいにこちらを見てはにやけていた。


すると、下からギルの咳払いが聞こえた。

下を向くと、未だに抱き締めたままでいるギルがヒューバートを睨みつけていた。


(なんだか、疲れました。それと、能力検査はまだでしょうか)


四神たちが幼い頃にも、こうしてギルのように抱きついてきたり、まだ制御できない魔法を四方八方に放ったりなど大変な毎日だった。

あの冷静な炎神イグニーゼルですら、地面に巨大な穴を開けたり木を燃やして焦がしたりしていたのだ。


彼らの親とも言える先代たちは、忙しいからという理由で全てをアクディーヌに任せっきりにしたまま、下界に行ってしまったのである。

やがて、今の四神たちが神としての地位に就いたが、先代たちは戦死することもなく、神の座を降りた直後に行方をくらましたのだ。

マグトルムさえも彼らの行方は忘れてしまっている。


そう思うと、兄はよく五千年以上も神をやったものだと感心したくなる。


(先代様たちは今、どこで何をしているのでしょう……まさか、マグトルム様とお兄様が会いに行ったのでは? いや、そんなことはありませんよね……場所すら分からないのですから)


もし先代たちが天界に戻ってきたら、今の仕事も少しは楽になるだろう。

最も、四神たちが覚えていればの話だが。


「そんなことより、スイ。能力検査をするんでしょ? 早く行きましょ」

「ちょっと、なんでおじさんが案内するの? それとおじさん誰?」

「おじさんおじさんうるさいわね! スイがいるからあまり怒らないけど、あたし凄い人なのよ? 誰だと思う?」

「不審者」

「誰が不審者よ! スイはあたしのことどう思ってる?」

「そうですね〜。この冒険者ギルドのマスターとか! なーんて」


アクディーヌが笑顔で答えると、それまで賑やかだったギルド内が一瞬で静まり返った。

受付嬢が慌てた様子で、アクディーヌの背中を押しながら「さ、さぁ、能力検査をいたしますね〜」と言った。


わけもわからず押されるままのアクディーヌに、ギルも首を傾げながらついていく。




◆◆◆




受付嬢に案内され、アクディーヌとギルは受付カウンターへと戻ってきた。

受付嬢は息を大きく吐き、明らかに緊張していた。


「ブルーナ、いったいどうしたの? 僕たち、何か言っちゃいけないことでも言っちゃった?」


ギルが心配そうに尋ねると、ブルーナと言われた受付嬢の彼女は、周りに聞こえないように小声で話し始めた。


「あの方は、冒険者ギルドのギルドマスターなのよ! スイさんはともかく、ギル君なら知っていると思ってたけど、冒険者なら誰もが知ってる有名な人よ!」

「え? そうなの? 全然知らなかった……。でも、僕が毎日冒険者ギルドに来るわけじゃないし、仕方なくない?」

「ギルドマスターの話なら聞いたことがあります! お兄様がよくそのギルドマスターの話をしていましたので」

「じゃあ、スイも知ってたんだ」


冒険者ギルドのことはさっぱり分からないが、ギルドマスターがいることは知っていた。

兄は、ギルドマスターを褒めるかのようによく話を聞かせてくれたのだ。

だが、兄が話していたそのギルドマスターはおそらくヒューバートではないだろう。

それも、六百年前のことだ。


だが、兄から聞いたギルドマスターとヒューバートとは全く系統が違かった。


兄が語った六百年前のギルドマスターは、無能な勇者を無理やり鍛え上げ、結果的には水の泡となった。

実力は魔王を倒せるほどで、嘘をつけないほどの生真面目な青年だったという。


「とにかく、あまりここではギルドマスターの話をしないでください。今のギルドマスターはギルド協会の方に何かと目をつけられていますので」

「どうして目をつけられているのですか?」

「それはあんたたちが気にすることじゃないわ」


突如、後ろからヒューバートの声が聞こえアクディーヌは身震いをする。


「わぁ、びっくりしました」

「ふふ、ブルーナ、余計なことを話してないでさっさと能力検査を始めなさい」

「は、はい!」


ブルーナは慌てて準備に取り掛かった。


「おじさんって、結構悪い人なんだね」

「おじさんって言わないでくれるかしら? それと、あたしはいい人よ」


二人がそんなやり取りをしていると、ブルーナが「準備ができました!」と声を上げた。

カウンターの上には、頭ほどの大きさのクリスタルが置かれていた。

そのクリスタルはサファイアのように美しく輝き、魔法の粒子がその中で漂っていた。


「このクリスタルに手をかざすと、どんな能力の持ち主か一瞬でわかるのよ」


ヒューバートは得意げに胸を張り、説明を始めた。

その様子を見たアクディーヌは、特に気にすることもなく、彼の話に耳を傾けた。

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