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21 オネエと少年

今回はオネエ様とギルの回です。


冒険者ギルドの二階のバルコニーで、ワインを(たしな)む一人の青年は、暇そうに外の様子を見ていた。


サングラスをかけ、胸元まで伸びたくせ毛の茶髪と潤った唇が、手に持つワインと相まって、その美しさを一層引き立たせていた。


二十代後半であろう青年は、ふとワインを飲む手を止めた。


バルコニーから下を覗き込むと、少年と旅人風の格好をした人物が楽しそうに話しているのが目に入った。


特に、フードを被った人物に目が引きつけられた。

姿形は見えないが、言葉にできないほどの魅力があり、青年はその場から動けなくなるほどの衝動に駆られた。


「なに……あの人」


青年は興奮するかのように呟き、ワインを飲み干し、バルコニーを後にした。


そして、階段を駆け下り、一階の窓から顔を覗かせた。

すると、外から二人の会話が漏れ聞こえてきた。

少年がギルドの説明をしているようだった。

そして、彼の口から『能力検査』という言葉が飛び出し、フードの人物は何も分かっていない様子で首を傾げていた。


「もしかして、能力検査をしに来たのかしら……?」


そう考えながら、さらに覗き込むと、二人はすでにギルドの中に入っていた。

青年は慌てて階段を駆け上がり、二人の様子を窺うことにした。


しばらく、様子を窺っていると一人の汚らしい男が少年に向かって不快な言葉を放った。

だが、少年は気にすることもなく大人な対応をしていた。

しかし、その言葉が男の逆鱗に触れたのか少年を殴ろうとしていた。


青年が助けに入ろうとしたその瞬間、目にも止まらぬ速さでフードの人物が少年を引き寄せた。

周りの者たちは何が起こったのか分からず、ただ立ち尽くしていた。


男は標的を変え、今度はフードの人物に向けて拳を振り上げたが、その人物は少年を抱えたまま、風のような動きでそれをかわした。

まるで社交ダンスを踊っているかのようなその姿に、青年は背中に震えが走った。


「笑ってる……?」


フードが少しずれ、わずかに見えたのは、唇の端が上がった表情だった。

その瞬間、青年の心臓は高鳴り、息を飲んだ。


「凄く……気になる!」


青年は胸を抑えながら、そっと呟いたのだった。




◆◆◆




「いない! どうしよう! スイがいない!」


少年は涙目になりながら、ギルドの中を走り回っていた。

机の下、椅子の下、隅々まで探し回る。


「ギル君、落ち着いて。スイさん? ならきっと二階にいるんじゃない?」

「二階? どうして二階なんかにいるの?」


受付嬢にそう言われ、ギルベルトは鼻声で尋ねた。

このギルドの二階は、功績を認められた者や地位の高い者しか入れない場所だ。

そのため、常に兵士が階段の傍で監視しているのだ。


そんな場所にスイがいるのなら、どうやって入ったというのか。


「きっと、さっきの出来事でお偉い方の目に留まったからだと思うわよ。私だって入ったことがないから、羨ましいわ」

「それでも、スイが心配だよ。お偉い方ってきっと鼻息が荒いおじさんとかじゃないの? そんなの大問題だよ!」

「ギル君! そんなこと言っちゃだめよ!」


ギルベルトは不機嫌そうにそっぽを向いたが、その目はしっかりと二階を見つめていた。

本来ならスイは今頃、能力検査を受けているはずだった。

しかし、あの男が余計なことをしなければ、スイは二階に呼ばれることもなかったのに、と悔しそうに唇を噛んだ。


もし、あの仏頂面雑草男がいたら、何とかなったかもしれない。

だが、彼がいない今、どうするのが正解なのか分からない。

ただ、スイが心配でならない。

それに、変な雑草を食べているという事実にはさすがに引いたし、触ったらかぶれるはずの雑草に平気で触っているのもありえないくらいにおかしな人だった。


それに、彼女の兄も変わった人物だった。

スイとは少し違ってはいるが、何を考えているのか分からないくらいに常に微笑み、嫌がらせに来た貴族に対しても微笑みだけで追い返したりなど本当に夢かと疑ったくらいだ。


しかし、彼女の兄も少し変わった人物だったが、スイのために尽くしてくれた。

だが、自分は何もできていない。


「僕ってダメダメじゃん……」


堪えていた涙が真珠のように零れ落ちる。

それを見た、受付嬢は慌てた様子でハンカチを取りだしどうすればいいのか分からないのか、あたふたとしていた。

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