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18 仕事という名の買い出し

「ちょっと! よくも驚かせてくれたな、ユウェシル!」


扉を勢いよく開けたギルを横目に、アクディーヌは落ち着いて紅茶を口に運んでいた。


「ギ、ギル! スイ様がいらしてるんだから!」

「え? スイだ!」


フィンレーの言葉にギルは、アクディーヌの姿を見て目を丸くし、慌てて駆け寄る。

しかし、ユウェシルがすっと立ち上がり、アクディーヌの前に立ちはだかった。


「スイ様に近付くな」

「はぁ? ユウェシルには関係ないでしょ!」

「関係はある。俺は、スイ様を汚いゴミ共から守る役目がある」

「ちょっと、誰がゴミだって?」


彼らの言い合いは、まるで花神(かしん)と氷神の小競(こぜ)り合いのようだ。

それを見守るフィンレーとアンソニーは、頭を抱える。


「お二方、喧嘩するほど仲がいいって言いますけど、程々にしましょうね」

「仲良くなんかない!」

「スイ様、この者と親しくするつもりはありませんので」

「フィンレーくん、アンソニーさん。彼らを拘束してもいいですか? 二度と喧嘩をしない体に改造したいので」


アクディーヌの冗談めいた言葉に、ギルとユウェシルは渋々と握手を交わした。

これで和解したということだろうか。


しかし、今はそんなことをしている場合ではない。

勇者のことをどうするかが最も重要な問題だ。

そのためには、勇者の存在を隠すほかにフィンレー自身がどうしたいかを聞かなければならない。


「あらぁ、偉いですね。仲直りできて。それよりも、フィンレーくん。あなたに話があるのですが、勇者のことについてです」

「は、はい!」

「あなたが、勇者だということが確認できましたが、病み上がりで剣術もままならないフィンレーくんには、このような役目は荷が重いでしょう。そこで、魔王が現れるまではあなたを……いえ、三人目の勇者の存在を隠そうと思います。もちろん、フィンレーくんの意見を尊重しますよ」

「あ、いえ! スイ様の言う通りにします。けど僕が、三人目の……勇者ですか?」


フィンレーの言葉に、アクディーヌは静かに頷いた。

ギルやアンソニーも、その事実に驚きの表情を浮かべる。


(勇者が今まで、二人しかいないということは歴史にも刻まれていることだし、フィンレー君が三人目の勇者であることがどれほど重大なことか、みんな理解しているはずです)


そう考えながら、アクディーヌは軽く咳払いをした。


「詳しいことは、いずれ説明……いえ分かるとして。フィンレー君。あなたは勇者のことなど今は忘れて、安静にすることです」

「……でも、このままだと魔王が……」

「フィンレーくん、魔王なんて大したことないです。本当は勇者なんていらないくらい! ええ、本当にいりません」

「……スイ。僕、時々君が怪物に見えるよ」

「なんですか? ギル」


微笑んでいながらも目が笑っていないアクディーヌに対して、ギルは「か、角煮が食べたいなぁ、なんて」と言ってアンソニーの後ろに隠れた。


「ユウェシルも同意しますよね?」

「スイ様、あなたにとっては魔王など……いえ、私も同意します」

ユウェシルは目を逸らしながら答え、他の者たちも渋々ながら頷いた。


「では、そういうことで決まりですね!」


アクディーヌは満足そうに微笑み、再び紅茶を楽しんだ。


しばらくして、ギルが何事もなかったかのように口を開く。


「ねぇ、今から買い出しに行くんだけど、スイも一緒に来る?」


その言葉に、アクディーヌは目を輝かせた。

下界には何度も訪れてはいるが、誰かと買い出しに行ったことなど一度もないため、それは嬉しいものだった。

そもそも、料理が作れるわけでもなければ何かを必要としているわけでもなかったため、行く意味がなかったのだ。

それに、兄とマグトルムを探すのにも都合がいい。


目を輝かせるアクディーヌに、隣で咳払いをするユウェシル。

ユウェシルを見ると、無言の圧で止めさせようとしていた。


「し、仕事ですからね! ユウェシル。遊ぶわけではないですよ!」

「なりません」

「お兄様がいるかも?」

「もし来られているなら、連絡があるはずです」

「忘れてるかもしれないじゃないですかぁ!!」

「諦めてください、スイ様」


頑固なユウェシルに、アクディーヌは少し不満そうに頬を膨らませた。


(まるで、私が幼い頃マグトルム様に下界に行きたいと頼んで笑顔で断られたときみたいじゃないですか……)


幼少期に下界へ行くことに許可をもらえなかった分、目を盗んでよく勝手に下界に行ったものだ。

だが、すぐに気付かれ兄に連れ戻されることになったが兄もまた下界が好きで、マグトルムの目を盗んで数分の間だけ散歩をした。

その影響で、下界に興味を持ったようなものだ。


そんなことを考えていると、「あの!」とフィンレーは口を開いた。


顔を上げて、彼を見るともじもじと体を動かしながら何度もアクディーヌを見ては、目を逸らすという同じ行動を繰り返していた。


「なんですか? フィンレーくん」

「ぼ、僕。ユウェシル殿に剣術を教わりたいです!」


突然の言葉に、ユウェシルは眉をひそめ、アンソニーも驚いた顔をしていた。


「フィンレー様! 何をおっしゃるのですか!」

「主人! まだ病み上がりなんだから無茶はダメだよ」

「ギル、耳を貸して」


フィンレーとギルが、耳打ちで何かを話し始めた。

そして、アンソニーは心配そうにしながらも渋々と飲み終わった紅茶のカップをトレーに置いて、部屋を出た。

やがて、「なるほど!」とギルは声に出した。


「スイ、 ここには仕事で来てるんだよね? だったら、探してほしい物があるんだけど、一緒に探してくれない? 主人からの依頼としてさ」

「え、仕事ですか……?」

「うん、仕事!」


アクディーヌは、ユウェシルをちらりと見ると、彼はおでこに手を当てて諦めたかのように頷いた。


「ではギルとともに街へ行っていいのですね!」

「ただし、私も行き―――」

「ユウェシル殿! 僕に剣術を教えてください!」

「は?」

「 スイ、僕と二人で買い出しに行こう!」


そう言うギルは、スイの手を取り部屋から出る途中に後ろを振り向き、ほくそ笑んだ。


「……っ! 貴様!」

「ユウェシルー! また後で会いましょー!」

「スイ様!」


手を振って部屋を出るアクディーヌ。

部屋から聞こえる声は、フィンレーの懇願する声と、断り続けるユウェシルの声だけが廊下まで響き渡っていた。

短くてごめんなさい泣

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