14 途絶えた連絡
「はぁ、せっかくスイを追いかけたのに、またユウェシルに邪魔されたよ……」
ユウェシルの見たことがない姿と、気まずい空気から逃げ出したギルベルトは仕方なくフィンレーたちがいる部屋へと戻ることにした。
ユウェシルのただならぬ雰囲気に耐えきれず、逃げ出すしかなかったのだ。
一人になると、心の中でつぶやく回数が増え、独り言も多くなる。
フィンレーとアンソニーと一緒に過ごして三年ほどになるが、実際のところ、会話を交わすのは食事や休憩のときぐらいだ。
これは、異常なのだろうか。
「それにしても、ロニー様の妹が来るとはね。本当にびっくり」
三年前、ロニーは突然屋敷をフィンレーに譲り、それ以降一度も姿を見せなかった
まるで、捨てられたような気分だった。
だが、そんなある時、ロニーとよく似ている女性が現れた。
人間が触れてはいけないはずの雑草を平気で触り、ましてや軽々と抜き取ったその女性は、美しい外見とは裏腹に、恐ろしさを感じるほどだった。
それがスイだった。
「でもまさか、スイまでも勇者の話を持ち出すとはね。さすが兄妹って感じ」
ギルベルトは苦笑いし、頭の後ろで手を組んだ。
ロニーもまた、ギルベルトが勇者を嫌っていることに疑問を投げかけてきたことがあった。
『何故』という副詞を必ずつけて、嘘を見透かすような瞳で尋ねてきたのだ。
あの時が、初めて恐怖というものを感じたほどに。
それに、スイも同じだった。
あの兄妹は、容姿端麗だけではなく何か底知れない力を持っていると言っていいほどに、ただ者ではないだろう。
「そんなことよりも、主人に雑草のことを話さないと!」
ギルベルトは急いで、その場を後にした。
◆◆◆
「やはり、繋がりません」
再度、マグトルムに連絡を取ったユウェシルの輝いていた目が元に戻り、どうしたものか、と言わんばかりの顔をしながら言った。
「ふむ。ユウェシルが繋がらないのなら、私も試してみるとしましょう」
アクディーヌは手のひらから大きな泡を生み出し、ゆっくりとマグトルムへ呼びかける。
「マグトルム様、聞こえますか?」
泡は沈黙したままだ。
何も映し出されることはなく、ただ数秒間の静寂が続いた。
(変ね。まさか、私でも繋がらないとは。お兄様たちは力が届かない場所にいるのでしょうか。それとも、意図的?)
アクディーヌは眉をひそめ、手を握りしめて泡を消した。
マグトルムと連絡が取れないことは今回が初めてではなかった。
その時、兄が教えてくれたのは、マグトルムが天界を超えた遠方にいるというのだ。
そこへ行くのは、非常に限られた理由がある時だけだという。
それは、一年に六回ほど神々が直接集まって会議をするのと同じような確率で、何かがあったときでしか行くことはないのだそう。
「つまり、何かが起きているということですね……」
アクディーヌは考えるように顎に手を当てて呟いた。
「スイ様、何かお分かりになったのですか?」
ユウェシルは首を傾げながら尋ねる。
「正確なことは分かりませんが、おそらくマグトルム様は私たちの力が届かない場所にいるのでしょう」
「力が届かない場所? そこはどこなのですか?」
「天界よりも遥かに遠い場所です。私は行ったことはありませんが、マグトルム様との連絡が取れないときは、大体そこにいるのだと、お兄様が言っていたのです」
アクディーヌはそう言いながら、ため息をつく。
「仕方ありません。一度、天界に戻ってムーちゃんに伝えましょう。フィンレーくんのことと勇者のこともそうですけど、少し心配なのでユウェシル、私が戻るまでここにいてもらえませんか?」
ユウェシルは少し考えるように、目線を落とす。
そして、真っ直ぐアクディーヌを見て頷いた。
「ありがとうございます。すぐに戻りますので、ギルには内密にしてくれるとありがたいです。それでは、行ってきますね」
アクディーヌはユウェシルの返事を待つことなく、瞬時に姿を消した。
ユウェシルは握りしめていた雑草を見つめながら、ぽつりと呟く。
「あなたはいったい、あのお方に何を求めているのですか? マグトルム様」
◆◆◆
神官たちのせわしなく動く声が響く中、アクディーヌは天界の聖塔に向かって足を進めていた。
道中、無数の神官たちが足を止めて、一様に頭を下げる。
それを見たアクディーヌは、彼らにお辞儀をする必要はないと合図を送るべく、慌てて手を振った。
(お辞儀をする必要はないと言ったのに、どうしてこんなにも律儀なのでしょう)
彼女は心の中で苦笑しながら思った。
特に、中央の神官たちはマグトルムやムーソピアがいるからなのか、堅苦しいほどに真面目な神官たちが多い。
しかし、不思議なことにマグトルム直属の神官を見かけたことは一度もない。
例外はユウェシルくらいだ。
中央の神官たちが優秀なことは確かだが、それ以外の領域では事情が異なる。
それに加えて中央以外では、『神官選抜試験』の難易度が低く設定されていることによって非常に受かりやすいこともあり、なんとなく受けた者や学力に自信がない者が受ける傾向にある。
そのため、個性溢れた神官たちで溢れかえっているのだ。
つまり、中央の神官は秀才で溢れかえり、他の領域の神官は凡才で溢れかえっていると言った方が分かりやすいだろう。
しかし、中央は他と比べてあまりにも欠点が多すぎる。
一つ挙げるとしたら『神官選抜試験』の難易度が高いせいなのか、合格率が低く神官の数が少ないことだ。
そのため、四神たちがよく援軍を送ってくれるのだが、精神面にやられ辞めてしまう者が続出してしまっている。
(全ては誰のせい? そう! マグトルム様のせい)
そんなふうに思いながら、『水神の作業場』とも呼ばれる聖塔の中階まで急いだ。




