11 思いたくもない事実
お待たせしました。
明日は、お昼頃に投稿します。
「歴代の勇者は、主人と同じような経験をしている。そのほとんどが主人が見たその妖精だ。その妖精に選ばれた勇者は、そのときだけ今までの傷や患っていた病が治る」
ユウェシルは、何かを思い出したかのように淡々と語り始めた。
そして、ギルとアンソニーが理解しやすいように魔法で妖精の姿を空中に描き表した。
その妖精は、手のひらサイズの小さな妖精でフィンレーが言っていたように黄色い服を着ていた。
「ぼ、僕が夢の中で見た妖精と全く同じです! じゃあ、僕はこの妖精のおかけで病気が治ったんですね?」
「ユウェシル殿、何故分かったのですか?」
「先ほど、スイ様がおっしゃっていたように、この妖精の存在を知る者は限られている。つまり、俺とスイ様がその一部の者だからだ」
「え! そうなの!? だとしたら、君たちは相当すごい人なんじゃ……」
ギルの驚きが混ざった言葉に、フィンレーとアンソニーも顔を見合わせて頷く。
ユウェシルが言う『一部の者』とは、いわゆる神と神になる者、そして神官たちだ。
特に、神官といっても、マグトルムに仕えるユウェシルのような神官や、大神官ムーソピアのような存在だけが知る秘密である。
さらに、神になる者たちの場合、神自身に直接教えられるため知らないなんてことは滅多にないのである。
(私は子どもの頃にお兄様に教えてもらいましたが)
それと、『神になる者』というのは、神に選ばれた者たちのことを指す。
アクディーヌの場合、兄クラルディウスの妹であったため誕生したときから神となる運命を背負っていた。
だが、まさか兄が不死であったとしても兄がこの世界に存在している間に、水神として役目を果たすことになるとは、思いもしなかった。
「でも、ユウェシルの話で妖精の存在を知ったギルたちも今や、『一部の者』に加わりましたけどね」
「へ?」
アクディーヌの言葉に、ギルは愕然とした声を漏らす。
アンソニーもまた、フィンレーと顔を見合わせて驚いていた。
本来なら、これほど重要な情報を人間に伝えるのは禁じられている。
しかし、フィンレーが勇者であると分かれば、彼の周りの親しい者たちには話をしても良いとなっている。
ユウェシルはそのことを知っていたからこそ、話したのだろう。
(私としては妖精の話を広めてもいいと思うけれど、マグトルム様が不機嫌になってしまうのですよね)
ただし、アクディーヌにとっては彼が不機嫌になることはむしろ楽しみでさえあった。
それは彼に対する日頃の恨みともいえるものだ。
「とにかく、主人含めそこの二人は、今回の話を誰にも漏らすな。もし話したらお前たちは死ぬ」
「死ぬって、そんなこと言われたら、言えるわけないじゃん!」
「私めも死ぬなら寿命で死にたいものですな……」
マグトルムのことを思い浮かべながら微笑むアクディーヌとは対照的に、無表情で殺意をにじませるユウェシルに、ギルたちは怯えていた。
その様子を見ながら、先ほどユウェシルが描いた妖精の絵に目線を移すと、アクディーヌはふと何かを思い出し、口を噤む。
(待って、マグトルム様が何故フィンレーくんと話をしろと私に命じたのか、分かった気がします。いいえ、これは間違いではありません。マグトルム様は、既に妖精の出現とフィンレー君が勇者であることを知っていたのですね。だからここに来させ、彼が勇者だということを私に知らしめるためだったのですね……)
そう考えると、兄はともかく、マグトルムに仕えるユウェシルもその事実を知っていたことになる。
もし、最初から残滓のことも知っていたのだとすれば、彼の演技力は相当なものだ。
ユウェシルが簡単に雑草を残滓だと見抜けたのも、この理由だとしたら納得がいく。
そう思うと、残滓が消滅していなかったのもマグトルムとユウェシルによる捏造だとしたら、とんでもなく舐められたものだ。
だが、捏造ではないのなら残滓を残す必要がどこにあるというのか。
(危険だと知っておいてわざと、こんな馬鹿みたいな計画のために消滅させなかったのなら、私だって黙ってはいられません)
アクディーヌはそ怒りを胸に秘め、ソファから立ち上がる。
「スイ様、どちらへ?」
ギルたちを脅していたユウェシルが、アクディーヌが突然立ち上がったのを見て尋ねた。
「ふふ、お気になさらずに。あ、それとフィンレーくん、安心してください。きっとユウェシルが、あなたの悩み事を解決してくれますよ」
アクディーヌは、フィンレーに微笑みかけながら部屋の入口へ向かって歩き出した。
立ち尽くしているユウェシルを横目に見ると、彼は驚きの表情を浮かべながら、何かを言いたげに口をぱくぱくと動かしていた。
いつも無表情だったユウェシルが、こんなに感情を露わにしている姿を見ると、アクディーヌの心中は複雑だった。
つい先ほど下界へ行く前に見た彼の微笑みとは打って変わって、今は焦りを滲ませた表情になっているのを見て、アクディーヌはどう対応すべきか戸惑ってしまう。
今まで、無表情であったユウェシルがこのように感情を露わにしている姿を見ると、なんだか複雑な気分だ。
けれど、残滓の件だけは話が別だ。
いくらマグトルムによる計画から作られた残滓、あるいは消滅させるべきものを意図的に残したとしても、それを許すつもりはない。
マグトルムが何を企んでいるのかは知らないが、もう二度と騙されたりはしない。
ユウェシルにはなんの非もないが、今いる場所は水神の管轄内だ。
たとえマグトルムであっても好き勝手は許されない。
(マグトルム様、私は負けず嫌いなのです。後々になって縋ったりなさらないでくださいね)
口元に笑みを浮かべながら、アクディーヌは部屋をあとにした。
◆◆◆
部屋のドアが閉まるのを確認したユウェシルは、まるで飼い主の帰りを待つ犬のように、アクディーヌが去って行ったドアの方を見つめていた。
「えっと、僕、訳が分からなくなってきたから、仕事に戻るね?」
ギルは気まずそうな顔をし、ユウェシルを横目で見ながら、ドアの方へと駆け出し、部屋から出て行った。
しかし、その様子にもユウェシルは、全く反応することもなく、ただその場に立ち尽くしていた。
「まったく、あの庭師は何年経っても変わりませんな」
「はは、多分仕事とか言って、スイ様の後を追ったんじゃないかな」
「……何?」
アンソニーとフィンレーの何気ないやり取りに、ユウェシルは突然口に出して反応をした。
そして、拳を力強く握りしめて勢いよく部屋のドアを開けると、部屋を飛び出していった。
書いてる途中に、ユウェシルが可哀想に思えてきて内容を変えようか迷いましたが、泣く泣く描き続けました……。




