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告白

 「お邪魔します」


 詩織は靴を脱いで緊張しながら部屋に入るとテーブルの前でスカートを押さえてゆっくりと座った。

 そういえば、下着つけていないんだったな。

 そう考えると、やけに淫らに見えた。


 「好きにくつろいで」


 コップにお茶を入れて詩織に差し出した。


 「うん、ありがとう」


 足を崩してコップを口に持っていき喉を潤している。

 何か言いたそうな素振りをしていたので、彼女が口を開くまでゆっくりと待つことにした。

 しばらく無言な時間が流れる。


 「先輩、知ってますか?私みたいな大人しい女子って狙われやすいんですよ」

 

  暗い表情をしながらそう沈黙を破った。


 「それは……前にも似たような経験があったってことか?」


 そう聞くと、滔々と話し始めた。


 「中学生の頃は陸上部に入っていたんですけど、ある日練習後に顧問の先生から居残りするように言われて、一人遅くまでフォームを教わった後、部室で着替えていたんです。すると急にその顧問の先生が中に入ってきて体を触ってきたんです。必死に抵抗したんですが力が強くて」


 出会った時から何かトラウマを抱えていると推測したのは間違ってなかったみたいだ。

 

 「その時生理中だったんです。パンツを脱がされてナプキンを見られると冷静を取り戻したのか、気の迷いだったと土下座されて……。私もみんなにこのことを知られたくなかったから仕方なく許したんです。ですが、その後も人目がないところで何度も……。ほら陸上部のユニフォームって露出度が高いから、練習中もこっそり脚を触られたりして、しまいには俺との関係をばらされたくなかったらなんて脅されて関係を迫ってきたんで、我慢できずに部活をやめました」


 ずいぶんと重い話だった。


 「それは……大変だったな」


 「それ以来、人を信用できなくなって学校にもしばらく通えませんでした」


 信頼していた大人に裏切られては人間不信になるのも無理はない。


 「そんな私に頻繁に会いに来てくれたのが悟なんです。理由も聞かずにただ一緒にいてくれて、学力で置いて行かれないように勉強も教えてくれました」


 眼鏡野郎に惚れるのも無理ないな。

 幼馴染とはいえ異性と仲良くできたということは、それほど彼が紳士的だったということだろう。

 どこまでもできた男だな。


 「やっぱり、杉山のことが好きなのか?」


 話の流れだと、やはり好意を持っていることは間違いない。


 「……好きでした。でも、ダメでした。悟は私に対して恋愛感情を持ってなかったようです。頑張って手を繋いでみたんですけど、彼はまったくドキドキしてくれなくて、それなのに一人だけ舞い上がっちゃって」


 悲しそうに首を振り小さく微笑む。

 そうか、詩織と委員長が手を繋いで登校しているとの情報を得たあの時には既に彼女は失恋していたのだ。

 たとえそれが勘違いだったとしても、俺が眼鏡野郎に助け舟を送る義理はない。

 鈍感は罪だ。

 相手の気持ちに気づかないのと、答えないのは同じこと。

 

 「残念だったな」


 「いえ……結果的には良かったです。だって、こんな素敵な人に出会えたんですから」


 俯いていた顔を上げて大きな目で俺の顔を見た。


 「気づいていますよ。先輩が裏で私のために行動していること。青倉と丸谷がまるで人が変わったように大人しくなりましたし、村上の様子からも厚金先輩が関与していることは疑いようがありません」


 「ばれてたか……」


 苦笑しながらわざとらしく頭をかいた。


 「今日だって、私が諦めかけていた時に助けにきてくれました」


 ふふふと笑ってから真剣な顔つきで俺を見上げる。


 「困ったときいつも傍にいてくれる人。私の一番大好きな人。好きです」


 太陽のように、はにかんだ笑顔に世界が色めいた。

 カラー写真を初めて見たように、自分がセピア色の世界に生きていたことを初めて知った。

 それはどこか懐かしくて。

 遮るものがなくどこまでも走っていけると思っていた子供の頃に戻ったようで。

 曇り空から光が射すように体を芯から熱くさせた。


 「どうして泣いているんですか?」


 「えっ?」


 前かがみで人差し指を俺の肌に沿わせ、頬に落ちた涙を拭いながら不安な顔で見つめられる。

 咲野先輩がくれなかった言葉。

 言ってほしかった言葉。

 そうか……俺は先輩のことが好きだったんだ。

 でも、目の前には違う女子がいた。

 それでも嬉しかった。

 ずっと求めていた誰にも負けないもの。

 ずっと探していた自分だけのもの。

 それはこんな近くにあったんだ。


 「ごめん。嬉しくて。俺はずっと詩織は杉山のことが好きなんだと思っていて、何もかもあいつには敵わないと嫉妬していて……。だから、嬉しくて」


 「もうっ。逆ですよ普通。告白した側が泣くものじゃないんですか」


 いつの間にか俺の隣に移動して背中を撫でてくれていた。


 「それで……返事はまだもらってませんよ」


 俺が落ち着いた頃を見計らって、少し不機嫌な声で催促される。

 情けないな。

 返事も忘れて涙ぐむなんて。

 

 「俺も好きだ。一生詩織の一番であり続けるように努力するから。どうか付き合ってください」


 「ふふふ、私が告白したはずだったのに」


 立場が変わって可笑しかったのか相好を崩して。

 上気しながら


 「はい。私の一番は死ぬまで厚金先輩ですよ」


 そう言った。

 脳が言葉を処理する前に体が勝手に彼女を抱きしめていた。

 詩織も俺の背中に腕を回し抱きしめ返してくれる。

 そして、そっと体を離すと、小さい唇が開いたり閉じたりと煽情的に振動している。

 涎が上下に蜜のように糸を垂らす。

 

 「詩織」


 「先輩」


 お互い見つめあいながら唇を重ねた。


 「んっ……ちゅっ……」


 「ぶちゅ……ちゅぱ……ちゅぱ……」


 小さい頭を撫でながら、唾液を貪りあった。

 どちらからともなくベッドの上へ唇を吸い付き合いながら移動し、詩織をゆっくりと寝かせた。

 制服を脱がし白のブラジャーを外すと、日に焼けてない真っ白な乳房を両手で包み込む。


 「んっ……、小さいから揉んでも楽しくないでしょ?」


 「掌に収まるちょうどいいサイズだよ」


 押し込むとぐにゅっと変形するが、元の形に戻ろうと必死に押し返してくる。


 「それなら、んんっ……良かった……」


 小学生のような小さな体でだらしなく快楽に溺れた真っ赤な顔に背徳感が湧いてきた。


 「もう我慢できない」


 「うんっ……中にきてっ!」


 俺達は野獣のように本能のまま求め合った。

 

 汗でべとべとになったベッドの上で二人裸で手をつなぎ横になっていた。

 シーツには赤い染みがついている。

 

 「先輩は高校卒業したら大学に進学するんですか?」


 顔だけ横を向き、汗で濡れた前髪がおでこにくっついていた。

 

 「いや、就職でもしようかと思ってるけどどうして?」


 「もし、私の学力で届かない大学だったら今から猛勉強しなくちゃいけないじゃないですか。でも、そっか……。先輩と大学デートしたかったです」


 「詩織が望むなら大学行こうかな」


 「ほんと?なら一緒に勉強して同じ大学に行こうよ」


 「ああ、それは楽しそうだ」


 心の底から子供のように純粋な声が出た。

 一年間のブランクがあるが、もう一度頑張ってみよう。

 勉強で一番になれなくても関係ない。

 詩織と同じ大学に通うという目標ができたのだから。


 太陽が沈み月の明かりが歩道を照らす。

 俺は詩織を家まで送るため手を繋ぎながら歩いていた。

  

 「まだ痛むか?」


 「うん……ちょっとだけ」


 ぎこちなく足を動かしながら顔を歪めた姿を見て歩く速度を緩めた。


 「ごめん。激しくしすぎたかな」


 「いいの。求められてるみたいで嬉しかったです。好きな人に体を触られるのってこうも違うんですね」


 お腹を撫でて優しく微笑んだ。


 「あっ……もう、付いちゃいました」


 詩織の家の前に付くと、名残惜しそうな声を出した。

 

 「お別れだな」

 

 「先輩、ちょっとしゃがんでください」


 俺は言われたとおりにすると、柔らかい唇を重ねられケーキのクリームを舐めとるように舌を絡めあった。


 「うふふ、癖になりそう」


 小悪魔な笑みを浮かべて「またね」と耳元で囁き家へと入っていった。

 思わず手を伸ばしたが空を切る。

 一人になると、とてつもない喪失感に襲われその場でしばらく立ち尽くした。

 どうやら俺は完全に彼女の虜にされたらしい。

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